一章#11 恐怖
『敵を知り己を知れば百戦危うからず』
大昔の兵法家が言った言葉である。相手と自分、そのすべてを知っていれば危機に陥ることはない。といった内容だが、要は情報は大事ということである。
相手を知る手段があるのであれば敵を研究し、弱点を洗い出し、対策する。問題は知る手段があるのかだが、どうやらこの世界にはあるようである。
あるならば、知りたい。どうしてあの集団がこの世界にいるのか、知りたい。そして何よりこんな世界で死にたくない。元の世界に帰る………ことができるのかは知らないが、取り敢えず死んだら終わりだろう。死んだら戻れる説には一旦目を通さないこととする。
「どうやったらその研究の内容知れるんだ?」
「いいぜ。教えてやるよ。ただ今日はもう日暮れだから明日だ。またここに来い。そしたら連れて行ってやるよ」
勝は昇り始めてきた月に向かって行く。
「あれ?そういえば俺って………」
ここは知り合いがついさっきできた程度の異世界である。当然家などあるはずもない。つまり、夜を明かす手段がない。火のそばで眠れるような便利な身体もシステムも場所もない。木造住宅の町の真っ只中で火起こしなど狂気の沙汰である。それこそテロリスト認定されても否定できない。
「話は終わったみたいだね」
出てきたのは何処かに行ってしまっていた本居兄妹?である。
「ほらね?ちゃんと優しい人だったでしょ?」
妹乃は首を傾けそう言う。正直に言えば、滅茶苦茶に心細かったことは心の底にしまい込んでおくこととする。
「じゃ、ついてきてくれる?」
見知らぬ人に付いて行くなという現代の犯罪対策フィルターが脳裏を過るが、知り合いなので無事に通過させて頂く。
そうして連れていかれたのは雄大にそびえ立つ城である。
「おぉぉ………すげぇ………」
音を立てて城門が開き、中へと案内される。そうして通された先は………
「言いにくいんだけど………」
目の前に広がる圧倒的な陰気と香る土と鉄っぽい匂い。まごうことなき地下牢である。
「………」
二人ともが目を逸らしている。気まずいにも程がある。誰だよこの二人にここを案内させた奴。十中八九の顔は浮かぶが下手なことを言えば、冗談抜きに首が飛びかねない。とりあえず、未だ危険人物の可能性は拭えていないらしい。
「じゃ、じゃあ僕たちはここで………」
スッと居なくなった二人に一応の感謝を送り、雨風を凌ぐことができるのでよしとする。
居心地と眠り心地は星五つのうちの星一つの一欠片たりともあげたくないが、とにかく疲れた。意味不明が起こりすぎたのだ。
自然とまぶたが降り、眠りに落ちた。
「これからおばあちゃんは暗~い所を行かないといけないの。だからちゃんと唱えてあげてね」
怖い。言い表せない底抜けの恐怖を感じる。顔から、目から、口から、髪の毛の一本に至るまで。全身から真っ黒な雰囲気が溢れている。
どうしてそんな顔をしているの?
いつもみたいな優しい顔をして欲しいです。
そんな目で俺を見ないでください。
お願いします。神様、仏様、お母様
 




