三章#16 再臨 壱
私、安倍澄は他人と関わることが苦手だ。
自分を出す、自我を出すということに強い忌避感がある。
それはどうしてか、ぬらりひょんの『らりー』と出会ってから同時期に陰陽師を目指していた人たちから 強い言葉をたくさん浴びせられたからだろうか?
きっと一因にはなっているだろう。
大した力もないのに身に余る妖と関わってしまった。そんなことは私が一番分かっている。だから死と隣り合わせな所を居場所にしているんだ。幸いにも『らりー』は刑部には向かない妖だ。
他の陰陽師は霊か妖を呼ぶが、ぬらりひょんは妖しか呼ぶことができない。
霊は死んだ者ならばなることができるが、妖になるには長い年月が必要だ。
例えば殺人事件が起きたとする。そこで『らりー』の力を使ったとしても被害者は呼び出すことができない。なぜなら死んだ被害者は”まだ”妖ではないから。
だが、陰陽師ならばその死んだ被害者を呼ぶことができる。なぜなら”すでに”霊ではあるから。
席は空いている。刑部への道は開けている。
だから、もう私に関わらないで。
私には『らりー』がいる。
妹乃もいる。梓もいる。望門も、翔賀も私に意地悪なことはしない。
……そこにいてくれるの?勝。
いつもなら絶対にこの足が動かない。きっと親が遺していったこの屋敷の隅で事が収まるまで引きこもっていただろう。
けれど、今は足が前に進んでいる。帰ってこないみんなと会いたい。こんな喧騒、私には関係ない。無視できるだけの力が私にはあるから。
側に『らりー』と勝がいて、背中を押してくれてるから。
~~~~~~
違和感がある。
そう結月梓は自分の頭を掻き毟る。自分の身体が、自分でない何かに引っ張られているような感覚だ。
どうしてあんな人ごみの中に行こうとする?乱暴に殺したい?いいや、そんな訳がない。アタシは分別ある教徒だ。ここでいたずらに殺せばこの後が絶対に面倒くさい。殺しなんてどうせ来る奴らで十分だ。
その果てに私は涅槃へと至れるはずだ。
だから大事なのは死なないこと。頭はそう理解して、そのためにもここは逃げるべきだと判断している。なのに………
(長くいすぎたか………)
諦めたようにため息をつき、梓は速度を上げる。
兵は神速を貴ぶらしい。昔、確か黄文三門とかいう奴が言っていたような気がする。
~~~~~~
『紡歴館の近くにあるボクの家にいる』
そう妹乃を攫ったヤツが言った。望門はその言葉の通り、向かっている。
紡歴館は街の西にある。朝日が差せば完全に城の影の中にすっぽりと収まるような立地だ。
音でさえ置き去りにするように望門は走っていく。
そして見つけた。髪型も、衣服すらも最後に見た時とは異なっているが、分かる。あれは他の誰でもない妹だ。
「妹乃!!!」
「お兄ちゃん!!」
勢いそのままに抱き着きたい気持ちを何とか抑え、二人は互いの背に手を回す。
「良かった。本当に………」
「うん。ありがと、お兄ちゃん」
涙を孕んだ言霊を静かに妹乃は受け入れた。
「守ってやれなくてごめん………」
「なら、今から私を守ってね?」
「あぁ、絶対だ。誰にも、触れさせない」
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先に行った望門を追いかけ、翔賀は走っていた。
目指す先は昔、勝と行ったことのあるこの街で一番大きい図書館のような存在である紡歴館である。目的地はハッキリしている。
だが。
(どこだっけ)
一度行っただけの場所を覚えていられるような頭は悲しくも持っていない。手がかりは望門が走っていった方向と、大きい建物だったという記憶のみ。思い出してみればあの時は近道なのか何なのか路地裏を進んで行ったような記憶がある。
翔賀は小さく舌を打つ。急がば回れとは本当のことらしい。
「やぁやぁ!!久しいんじゃないかい?」
ふと、声をかけられた。前後左右のどこからでもない。上からだ。
翔賀は声のした方に目を向ける。
「キミは……そうだ!確か斯波嘉達将軍に生かされた者だろう!!違うかい?答えを教えてくれるとありがたい!!」
「なんで………」
まず、出たのは困惑の言葉だ。なぜなら、目に飛び込んできたのはすでに死んだはずの人物だったから。それも死んだ”らしい”ではない。確かにこの目で、力尽きるのを直視した人物だ。
「なんで?優しいボクは答えてあげよう!それは”ボクだから”さ!!!」
「お前は死んだはずだ………」
「そうだね!!ボクは一度死んで、そして蘇った!!!」
金色の髪を肩まで伸ばし、右目にはダイヤモンドのような、左目にはエメラルドのような瞳がギラギラと輝いている。そんな年若い男。
「さあささあさ!!!皆の者!!!三十三番、歌の終、真求世怨をここに!!!馬谷良秀の御再臨である!!!歌え!!!騒げ!!!祝福せよ!!!」




