一章#10 軟弱者
翔賀は望門と共に医局を出た。翔賀は簡単に言えば、ノイローゼになった訳だがこれといった対処法も無い。重要なのは”慣れ”である。
「あ!来た!お兄ちゃんだ!」
「そいつか?教徒のカスどもがくたばるのを見て運ばれたって軟弱者は!」
唐突に聞き覚えのない声からの罵声が降りかかる。
「おい、言い方があるだろ」
「なんだぁ?望門。お前もそいつの肩を持つのか?」
「言い方あるだろって言ってんだ」
「はいはい、そりゃあすみませんでしたねぇ~」
「翔賀、こいつは大久保勝仲良くしてくれ………とは言わないよ。初めましてで”これ”だし」
「ひっどい言われなことで」
「原因お前だろ、自覚しろ」
あしらうように勝は手をひらりと一振り。
「手は出さねぇからオレにそいつと話させろ」
「さっきの振る舞い見てそれ許すの多分僕たちだけだからな」
そう言って本居の二人は去っていく。
「あんなんだけど意外と優しいからね?」
去り際に妹乃はそう耳打ちしていった。不安で仕方ない。
「さぁておはなしといこうじゃないか、新人君。オレは大久保勝、達多教徒が大っ嫌いな善良な一般市民だ!で、お前はなんだ?達多教徒の輩どもを殺したくないのか?共存できれば………なんて考えていたりすんのか?」
「殺さなくていいなら………そうだね」
「ハッ!先に言っといてやるよ。そりゃ無理ってお話だ」
「それは、勝の!」
「そうだ。オレの思い込みだ。そして、オレの”確信”だ。覆せるのは片手で数えるくらいしかいない頓智気な奴らだけだ」
そう語る勝の顔は妙に凛々しかった。「嫌い」だから、それだけではない明確な”何か”が考えの奥底に眠っているような気がした。
「達多教を研究しつくそうって奴もこの世界にはいるんだよ」




