第一話「序章」
主人公の元に届いた事件解決を依頼する封書。中には「呪い」の文字。でも、この世に呪いなんてあるはずがない!
子供だからってバカにするなよ⁉
「RSNY」
僕の国にはこう呼ばれるネットワークが存在する。その名も裏社会ネットワークだ。このネットワークは犯罪組織の撲滅や表に出すことのできない犯罪を解決するためのネットワークだ。
このネットワークには国の官房長官や、警察庁長官など国の偉い人物も加入していると噂されているが、正確には誰が加入しているのかは、だれもわからない。結局のところ全貌を知っている人はいないらしい。いろんな憶測とか噂が蔓延しているが、ほとんどは嘘だ。
「ルジョー様、お届け物です」
執事のセバスチャン・フィニートム・モランが僕を呼んだ。
「モラン、ありがとう」
僕、ジャック・レビアント・ルジョーは彼から封筒を受け取る。白の封筒に黒のロウで封がしてある。表には僕の名前がフルネームで書いてあった。裏には何も書いていない。いうところの不審物だ。でも、大体の差出人の検討はついている。
僕はペントレーからペーパーカッターを取って中身が切れないように封を開ける。
「まーたこれか……」
僕はため息をついた。中から出てきたのは真っ黒の便箋だった。中を開けると、思っていた通り、緑の細い字でいろいろ書いてあった。こういう細かい字、苦手なんだよな……。
ちなみに一番後ろに、「S.H.」と署名があった。依頼主なのか、このネットワークを取り仕切る大ボスなのか、正体は後々暴きたい。
えーっと……うーん……僕、こういうの苦手なんだよな……。「呪い」なんて、そんなの迷信に決まってるけど、それをどう証明するか面倒くさい。
「どうしよっかな~?」
「依頼ですか?」
「そうだ。面倒くさい奴は受けない主義なんだけど」
「……どーいう主義だよ」
モランがぼそっとつぶやいた。おーい全部聞こえてるぞ? 僕がまだ子供だからってバカにしてない?
「まぁ別にめんどいだけだからな……」
「では、依頼者様に依頼をお受けするとお伝えしますね」
「よろしく」
僕は席を立って、部屋を出る。後ろから、モランがついてくる。
「ルジョー様、どちらに?」
「散歩だよ。一人にさせてくれ」
「かしこまりました」
僕は食堂の勝手口から外に出る。食堂では夕飯の支度の真っ最中だった。
結局、依頼受けっちゃったな~。僕は中庭をブラブラ歩きながらいろいろ、依頼について考える。概要はこんな感じだ。
ヴェーガム地方の端にある桟橋に行くと呪われるらしい。事の始まりは先月のはじめ、釣り人が早朝魔女を見たらしい。とんがり帽子を目深にかぶって真っ黒のローブを着ていた。その釣り人は、そのまま釣りを続けた。その日は一匹も釣れなかった。彼が街に帰って保冷箱を開けてみると魚が大量に入っていたらしい。
で、釣り人は金になるとでも思ったのか、魚市場に売りに行った。珍しい魚だったようで、その魚は一瞬で売り切れたらしい。その魚を食べた人が、次々とのたうち回って死んでいったらしい。生で食べたわけじゃないし、火は通していた。しかも医者が検査しても遺体からも、その魚の切り身からも寄生虫や菌も出てこなかったようだ。
それから、その桟橋で釣った魚を食べた人は次々と死んでいったらしい。
ちなみに僕のところに依頼が来たっていうことは、正規の方法で解決できなかったか、何かしらの組織がかかわっているんだと思う。
「うーん……字面だけ見れば怪奇現象だな。呪いと思っても仕方ないか……」
僕はベンチに座ってゆっくりと噴水の水を眺める。
行ってみない事には仕方がないかな……。概要は便箋に書いてあったけどこれ以上のことは書いてなかったしな。
「でもな~ヴェーガム地方って列車でいけないんだよな」
結構遠いから馬車を使うしかない。しかも一週間ぐらいかかるはずだ。
僕はポケットから本を取り出してパラパラとめくる。
「……食事のご準備ができました」
「うぉ! びっくりした……」
僕は読んでいた本を取り落とした。横を向くとモランがポーカーフェイスで立っていた。やめてくれ……心臓がいくらあっても足りない。これ以上に冷や汗を書いたのは犯人に捕まって銃口を突き付けられた時かな。(この話はまた今度)
「やめろって言ったろ?」
「……申し訳ございません」
僕はベンチから腰を上げて食堂に向かう。
「モラン、依頼のために馬車を用意したい」
「かしこまりました。馬ていに伝えておきます。トランクをお部屋までお持ちしておきますね」
「あぁ。よろしく」
「出発はいつにしましょう?」
「あー今晩は大丈夫か?」
「おそらく」
「分かった。じゃあそうしよう」
僕は食堂の席についた。ちなみにこの家の住人は僕と使用人だけだ。先代頭首である、僕の父親が死んで、あとを継いだ。
一人での食事は慣れてきたけど、やっぱり寂しい。今日はカモ肉のステーキらしい。
「……ふぅ」
僕はナプキンで口周りを拭いて自室に戻った。さて、荷造りしないとな。クローゼットを開けて服を取り出す。まぁ今夏だし、涼しめの服でいいよね? ペンとかインクとかメモ帳とかも詰め込む。……本も一応、三冊ぐらいもっていこうかな?
僕はトランクを開けて荷物を詰めていく。……お、さすが。トランクは僕の荷物の量を大体把握していて、ぴったりのサイズだ。でも、僕の考えが大体把握されてるのは、なんかちょっと……その……怖いし、キモいな。
「馬車のご準備ができました」
突然、モランに声を掛けられる。もー……やめてって言わなかった?
「申し訳ございません」
「まぁいいや」
「馬車までお持ちします」
「よし、行こうか」
僕はモランに馬車まで案内してもらう。僕は、いつも使う馬車を決めている。今回みたいな以来の時は旅人に紛れ込むために、ちょっと質素なものにしてみた。
僕が馬車のドアを開けると、思わぬ先客がいた。
「!……は? なんでお前がいるんだ?」
「よっ、ルジョー!」
馬車には幼馴染のレビア・シェーマが手をふっていた。正直に言えば僕は彼女のことがちょっと苦手だ。
髪はボブカットで、動きやすそうな白のシャツと黒のズボンをはいている。僕は多分ボーイッシュな女の子が苦手なんだと思う。
「ま、いいじゃん。別に人が多いほうがいいでしょ?」
「そりゃそうなんだけど」
僕は頭をワシワシとかきむしって馬車に乗り込んだ。
モランが馬ていの横に座って馬車は走り出した。
「君が、重い腰を上げるのなんて久しぶりじゃない?」
レビアが夕食なのか、サンドウィッチを食べながら聞いてくる。うるせぇ! 別にいいじゃん。事件は解決できてんだし。
「ちょっと行った方がいい事案かもしんないからね」
「君が一番最後に行ったのって、君が誘拐された奴だよね?」
「誘拐って……僕は、犯人に殺されかけただけ」
自分で言っててあれだけど、そんな変わんないな。あの話をすると、拳銃が突き付けられた部分が嫌に痛む。
「久しぶりに、君と一緒に捜査ができるの楽しみだな~」
「……僕は、そんなに」
「そんなこと言って~」
僕は苦笑いしながらサンドウィッチに手を伸ばした。
「……え? なんで取ろうとしてんの?」
「ごめん。ダメだった?」
「別にいいよ」
僕はバスケットからサンドウィッチを取って、むさぼる。……することがないな。本でも読むか。
馬車はしばらく走って近くの町までやってきた。
「今日は、この宿に泊まる予定です」
モランが馬車のドアを開けてくれる。街灯が整備されているようで、夜なのに明るい。
「お部屋までご案内します」
「んだよ……お前と一緒の部屋かよ」
「しょうがないでしょ?」
部屋がほとんど埋まっていて、一部屋しか取れなかったようだ。
「ま、レビアが着替えるときは外に出るから」
「別にいいわよ」
いや、まぁお互い思春期なんだからさ。幼馴染とはいえじゃない?
僕はモランからトランクを受け取って着替えを取り出す。ルビアはもうすでに眠っていた。……結局着替えてないけど。
「よし、僕も寝るか」
部屋が一緒なのはまだよかったけど、ベッドも一つなんだよな……。別にもっと小さければよかったけど、さすがにこの年になると嫌だな。
僕はそう、ぼやきつつレビアの邪魔にならないようにベッドの端で横になった。