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鉄ウサギの月華〔学生時代〕①

 これは、極楽号の防衛迎撃班責任者『鉄ウサギの月華』が、学生でまだ後ろ髪が長かった頃のお話し。


 銀牙系辺境、任侠ウサギ星【脱兎(ダット)】──その星にある町の任侠組の一つ二兎組に、たった一人で乗り込んで。

 三時間で組を壊滅状態にした女子学生がいた。


「この、焼きモチスライム固いな」

 擬似ウサギ耳を生やした任侠組員たちが呻く中。

長スカート制服で、手にモチ突きの木製(きね)を持った。

 背中まで銀髪を伸ばした、スダレ前髪でロップ種ウサギ擬耳の月華は。

 杵に付着していた血がついた、白いモチ型スライム生物を千切って口に入れると、引き伸ばしながら食べる。

 モチ型のスライム生物は、杵に付着した極道の血を瞬時に吸収して。

 さらには、スライム自体が食用にもなる優れモノだ。

 桜色に染まった、モチスライムをモグモグ食べている月華に、倒れていた垂れたウサギ耳の組長がウサギの尾を振りながら負け惜しみを月華に言う。


「こんなコトをして無事で済むと思うな、いくら『玉兎(ぎょくと)組』の娘でも、この星の任侠組が手を結べば……おまえみたいな小娘一人くらい。おいっ、なにモチ突きの杵を振り上げているんだ? や、やめろ! オレはモチじゃ、ぎゃぁぁぁぁ ぁぁぁぁぁっ!」

 振り下ろされた杵は恐怖に顔を歪ませた、組長の顔面数センチ手前で停止する。

 顔面蒼白になった二兎組組長の、股間に失禁の染みが滲む。

 月華が言った。

「あたしのダチにちょっかいを出すな………手下がダチから奪った金銭を返せ」


  ◇◇◇◇◇◇


 数十分後──惑星『脱兎』の月を見上げながら、杵を担いで夕暮れの土手道を歩いて帰る月華の姿があった。

 月華の後方からは、白いモチ型生物が、ペタンペタンと跳ねながらついてくる。

 歩いてくる月華に土手で膝抱え座りをしていた、月華と同じ年くらいの気弱そうなウサギ耳男子生徒が一人、立ち上がって月華に向かってピョンピョン走ってきた。

 男子生徒の手には、鎖が巻かれ握られている。

 男子生徒が、月華に向かって鎖拳を弱々しく突き出しながら叫んだ。

「お礼参りですぅぅ!」

 月華がスイングした杵が、男子生徒を川に向かって吹っ飛ばす。


 側転しながら、叫ぶ男子生徒。

「ひぇぇぇい! 月面宙返りですぅ!」

 吹っ飛ばされた男子生徒が、川に落下すると。

 月華は何も無かったように歩き出した。

 少し歩いた月華の後ろから、川から上がってきて。ズブ濡れになったお礼参りの男子生徒がピョンピョン跳ねながらついてきた。

 立ち止まった月華は、振り返って男子生徒に向かって。

 たった今、壊滅させてきた任侠組の組長から奪った革の財布を放り渡して言った。

「もう、母ちゃんが稼いだ生活費。こっそり持ち出して遊び金に使おうなんて考えるなよ……今度、カツアゲされたら助けないからな。自力で取りもどせ……それから、あまりウソばかりついていると。取り返しがつかない事態に発展するからな、ウソつきウサギは嫌われるぞ」


 男子生徒──稲葉は、土手に掘られていた無数の横穴の一つに飛び込むと、穴から顔を出してニンジンをモグモグ食べた。

『脱兎』では、最大級の感謝を相手に示す時は「お礼参り」と称して、相手に襲いかかるのが慣習になっている。


 月華が稲葉に言った。

「早く家に帰れ」

 そう言うと、月華は杵を天秤担ぎして、実家の『玉兎組』にもどっていった。 


  ◇◇◇◇◇◇


 小一時間後──『玉兎組』の屋敷から、組長で月華の父親の怒鳴る声が響いた。

「月華! 今月に入って何組の任侠組を潰した! 脱兎星の組を全滅させるつもりか!」

 屋敷の畳部屋──壁に玉兎組の象徴の(いかり)が飾られた部屋で。

 バニーガールのように、頭から黒いウサギ耳を生やして、頭から湯気を出しながら怒鳴る父親を。

 胡座をかいた月華は、ニンジンをポリポリ噛りながら、反省する様子もなく聞き流している。


 月華の父親は、壁に掛けられた額縁の中に肖像画で描かれ飾られた和装の女性に目を向けた。

 頭から白いウサギ耳を生やした、月華の母親は絵の中で変わらない笑みを浮かべ続けている。

 少し落ち着いて、しんみりとした口調で月華の

父親が言った。

「これ以上の騒動は、儂の力でも抑えきれなくなるぞ……月華」

 月華は、食べ終わったニンジンの茎を口の中に放り込んだ。


 その夜──月華は玉兎組屋敷の庭にある、イバラがカマクラ型に盛り上がった茂みの中で、膝抱え座りで夜空の月を眺めていた──玉兎の月の表面模様はカメだった。

 月華が、ぼんやりと月を眺めていると茂みの中を覗き込んできた者がいた。

「やっぱり、ここにいましたか……月華お嬢さんは親分に怒られた時は昔からイバラの茂みに潜り込んでいやしたね」

 月華が子供の頃から玉兎組にいる、月華の世話係りの『加地(かじ)山』だった。


 月華が加地山に言った。

「そこどけ加地山、月が見えない」

「こりゃ、失礼しやした」

 加地山もイバラ茂みの近くに立って、月華と一緒に月を眺める。

 ウサギ擬耳の加地山が言った。

「親分は月華お嬢さんのコトが心配なんですよ……月華お嬢さんは、一人娘ですから」

「そんなコト、わかっている……加地山は、なんで玉兎組に来たんだ? 他にも任侠組はあっただろうに、なんでうちの組を選んだ?」

 加地山が照れくさそうに言った。

「親分が、あっしの火打ち石を扱う腕前を偶然に見てほめてくれたんでぇ……嬉しかったぁ、ガキの頃からカチカチ石を打ち鳴らして遊んでいたもんで……あっしの家は貧しくて、遊びと言えば、火打ち石で焚き火をして畑から引き抜いてきたニンジンを焼いて、弟や妹と一緒に食べるくらいしか楽しみが」

「ふ~ん、カチカチ山の加地山か」


 ウサギの擬耳をピコピコ動かしながら加地山が言った。

「大きな任侠組相手に、でっかい喧嘩は吹っ掛けないでくださいよ……取り返しがつかなくなったら、あっしも月華お嬢さんをフォローしきれませんから」

 月華は無言でカメ模様の月を眺めた。

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