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亜・穂奈子クローネ三号

 蒼い大青斑が見える、なりそこない恒星系の蒼い巨大ガス惑星近くに浮かぶ小惑星群──その一つの小惑星。かじられたリンゴのような歯型空洞の中にある【実験施設(ラボラトリー)】の培養カプセルが並んだ部屋。


 歯車が埋め込まれた、黒いアイパッチで片目を隠した天才科学者。

『亜・穂奈子クローネ』は、腕組みをして前方の培養液の中に浮かぶ最後の物体を眺めていた。

 穂奈子クローネが呟く。

「どうしたものかな……溶解処分するのも、少し気が引けるが」

 穂奈子クローネの視線の先には、十七~八歳くらいの裸に近い格好の少女が両目を閉じて浮かんでいた。


 両肘のところから、イカに酷似した触腕が伸びていて。

 少女の背中には、イカ形の生物がリュックでも背負っているように癒着していた。

 少女の胸部と腰部には、包み隠すようにゼリー状の下着が装着されている。


「まいったな、カプセル内の洗浄が不完全だったようだ……まさか、こんな化け物が誕生するなんて」

 亜・穂奈子クローネ三号。

 オリジナルの穂奈子クローネは、自分の細胞をクローンニング技術で培養して。

 年齢、性格の異なる穂奈子たちを作り出した。

 赤ん坊のままの穂奈子から、老婆の穂奈子まで……さまざまな穂奈子に、疑似記憶を移植して、さまざまな人生を歩ませている。


「やっぱり、今まで残してきたが三号は失敗作だ」

 オリジナルの穂奈子クローネが、穂奈子クローネ三号の溶解処分ダイヤルに手を伸ばしかけた時、視界の隅に。

 骨付き肉を食べながら部屋の中を横切って行く、頭に牛の角を生やして赤いフンドシをしたクマのヌイグルミが見えた。


 咄嗟に机の上に置いてあった分厚い本を、ヌイグルミのクマに向かって投げつけて叫んだ。

「おまえか! 食糧倉庫から、やたらと骨付き肉が減っているから変だと思った! 草食の宇宙ゴキブリは野菜しか食べないからな」

 分厚い本をぶつけられた、ヌイグルミクマのような生物は立ち上がると、キュッと赤いフンドシを引き上げる。


 オリジナル穂奈子クローネが、フンッと鼻を鳴らして言った。

「おい今、後ろに何が隠しただろう見せろ」

「これか、これはゲットしたお守りだ」

 ヌイグルミの、クマ生物が穂奈子に見せたのは、赤い女性の下着だった。

 赤面した穂奈子クローネが、もう一冊厚い本をクマに投げつける。

「この、エロクマ! それは、あたしの勝負下着だ!」


 床に倒れているヌイグルミ生物を、呼吸を乱しながら見て穂奈子クローネが言った。

「サイコパワーの世界では、ものすごく有名な導師らしいけれど……単なるエロいクマ! いくら追い出してもラボに入り込んでくる」

 エロクマ導師は、ある日、世捨て人の天才科学者、穂奈子クローネの小惑星にフラッとやって来た。


 エロクマ導師が言った。

「余っているクローニング穂奈子を、一体くれてもいいじゃないか」

「たとえ、クローニングした、あたしでも変態クマのオモチャにされるのはイヤ!」

「ケチっ、じゃあこのお守りを儂に」

 フンドシの上から、穂奈子クローネの赤いパンツを穿こうとしているエロクマに、三冊目の分厚い本が飛ぶ。


 厚い本を不思議な力で、空中停止させたエロクマ導師は、トコトコとオリジナル穂奈子クローネの方に近づいてきて。

 培養カプセルの中に浮かぶ三号を眺めた。


 エロクマが、穂奈子クローネに訊ねる。

「なぜ、この三号を残し続ける……自分の細胞をクローニングしたコピーたちに、自分が体験できなかった。さまざまな人生を体験させているのに……なぜ、三号だけ残し続ける」

 穂奈子クローネは、無言で唇を噛み締める。


 エロクマ導師が、さらに言葉を続ける。

「お主は迷っている……この三号には、与えられた人生ではなく。三号自身が選んだ可能性の人生を歩ませたいと……だから、なかなか処分できないのだろう違うか」


 溶解処分のダイヤルに手を伸ばす、オリジナル穂奈子クローネ。

「バカバカしい、あたしのコピーに、不確実な可能性の人生など」

 穂奈子がダイヤルを回そうとした、その時──穂奈子の頭の中に、声が聞こえてきた。

〝殺さないで〟

 頭を押さえて、しゃがみ込む穂奈子クローネ。

「精神感応? テレパシー? イカ型生物『ペッタンコ』と融合して生まれた能力か……あたしの可能性?」


 エロクマ導師が、三号を見上げて言った。

「やはりな、そんな気がしていた……この三号を儂に預けてみないか、弟子として修行をさせれば、精神だけの存在や言語体系が大きく異なる生命体と精神を通わせて自らの口を使って、意思を外部に伝えるイカ巫女になれる」


 穂奈子クローネが、吐き捨てるような……それでいて、少しホッたした口調で言った。

「欲しけりゃくれてやる、覚醒させるから連れて行け」


「そうか、感謝する……ついては胸と腰の部分を隠している、あの変なクラゲみたいなモノを外して三号の包み隠さない、生まれたままの姿を儂の目に焼きつけて……」

 赤面した世捨て人科学者の穂奈子クローネが、大量の本をエロクマ導師に投げつける。


「部屋から出ていけ!  覚醒させた三号に服を着せて呼ぶまで、この部屋から半径十メートル以内に近づくな!」

 オリジナル穂奈子クローネの声が聞こえたのか?

 カプセルの中に浮かぶ『亜・穂奈子クローネ三号』は微笑した。


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