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第36話 『終りのはじまり真実の世界』と『はじまりの終わり虚偽の世界』

 中破した球体の衛星級宇宙船『極楽号』が、ワインレッド色の朝焼け空に残骸のリングを衛星軌道上に繋ぐ。

 銀牙系の名も無き辺境の海洋惑星──丘の上にある西部劇風の木造一軒家。

 入り口のテラスに並べられた、ロッキングチェアに双子の老婆が座って海を眺めていた。

 海原には移動していく、鼻が長い象が海中生活に適応進化した白い体毛の『海ゾウ(トランコ)』の群れが赤く染まった朝焼けの中に見え。

 海の上空には、フワフワと漂うように偏西風に乗って北下していくバルーンのような『空中クラゲ』のグループがいた。


 膝掛けをして揺れるロッキングチェアに座っている、双子姉妹老婆のスレートブルー色の髪をした姉の老婆が呟く。

「また、今年も北上していく空中クラゲたちの群れが見れたわね……来年、もどってくる群れが見れるかしらね」

 コーラルピンク髪をした妹の老婆が言った。

「大丈夫よ……また、海が見える丘一面を黄金色に染める『はじまり草』の実実が見れるわよ」

「そうね……楽しみね」


 青い髪で眼鏡をした、タレ目気味の姉……『セレナーデ』が言った。

「ところで、レオノーラ……あなた、この前の誕生日でいくつになったの?」

「百二十歳よ、双子だから同じ歳?」

 レオノーラは、自分の言葉に前にも同じコトを何度も言ったような気がしたが、その疑問は波の音に打ち消された。


 レオノーラの手から膝に乗せた黄金銃『レオン・バントライン』が床に滑り落ちる。

 カフェオレとホットミルクを運んできた夜左衛門が、ハッとした表情で言った。 

「おやみなさいませ……セレナーデさま、レオノーラさま」

 夜左衛門が一軒家の中に消えると、名も無き海洋星に朝霧が漂い双子姉妹の一軒家を包む。

 霧の中──レオノーラは刹那(せつな)の夢を見ていた。

 霧の中から次々と現れる、昔の仲間や過去に出会った人々。

 最後に現れた『飛天ナユタ』が、座ったロッキングチェアでうなだれている老婆のレオノーラに カウガールハットを深めにかぶせると、片手を差し出して言った。 

「さあ、レオノーラ……まだ、無法の旋律は奏で終わっていないよ。君の無法な旋律を聞きたがっている人たちが開演を待っている……顔を上げて行こう、レオノーラ」

 織羅・レオノーラが、ゆっくりと顔を上げる──その顔は老婆の顔ではなく、若々しい十八歳のレオノーラの顔だった。

「そうだね、また冒険しようか。ナユタと一緒に……」

 ナユタに途中まで手を差し出したレオノーラは、その手を引っ込めて首を横に振る。

「いや……もういやぁぁ……やめてぇ! もう安らかに眠らせて!」

 レオノーラが悲痛な表情で叫ぶと、霧がナユタの姿を包み隠す。


 気がつくとレオノーラは、霧の中に一人で立っていた。レオノーラの背後から女性の声が聞こえてきた。

「やれやれ、また気づいちゃったか……これで何回目かしら、百回は軽く越えたところまでは覚えていたけれど──忘れちゃったわ」

 振り返ると、そこにはヘソ出し女子プロレスラー姿で、頭の後ろに手を組んでスクワットをしている『ウェルウィッチア』の姿があった。

「ウェルウィッチア超おばさま?」

「はぁ~い、若々しいレオノーラ」

 スクワットをやめた、ウェルウィッチアは柔軟体操で体をほぐしながら言った。

「気づかなければ気楽にループできたのに……と、言っても。それもムリな話しか」

「どういうコトです?」

「この説明も繰り返しているわね……まぁ、いいか何回同じ説明しても。時間は永遠にあるんだし」

 真顔になったウェルウィッチアが語りはじめる。

「あたしが織羅家の始祖母なのは知っているわよね……永遠の命を持っている罪を受けた女、別の銀河系ではアダムの最初の妻。リリスと呼ばれていた時もあった」

「???」

 自虐的な苦みを浮かべながら、会話を進めるウェルウィッチア。

「この世界にはね、世界の終わりを望み新たな世界の構築を期待する【終末願望】と、永遠に今の世界が続いていくコトを望む【永劫願望】がある……これは、どの種族や文明でも変わらない二つの異なる願望。デミウルゴス文明でもバルトアンデルス文明でも、今のシュミハザ文明でもね」

 レオノーラの頭の中に、繰り返されてきたリピート世界が次々と流れていく。


 気が狂いそうなほどの悠久(ゆうきゅう)の時間に、両手で頭を押さえたレオノーラは恐怖に震える。

「あぁぁぁぁ……いやっ、いやっ!」

「ふふっ、思い出しちゃった? 今まで繰り返して通ってきた世界を──あたしは永遠の時間を生きる退屈しのぎに、銀牙系の何巡回目にループさせるコトを思いついたの……そして、あたしは実行した。ある時間軸に到達するとループしてもどる世界を作り上げた──あなたたち織羅家の子孫のために」

 一つ前のループ世界では、草原惑星で老後をセレナーデと一緒に迎えて、渡り植物の群れを眺めていた。

 今回のループ世界では海洋惑星で姉と一緒に、空中クラゲを眺めていた。

 ガックリと膝から崩れた、バグ・フリーダム姿のレオノーラにウェルウィッチアが言った。


「最初にこの永遠を望んだのは。レオノーラ……あなた自身よ──…怖がらなくてもいいから、何回繰り返してもすべて同じコトの繰り返しじゃないから……少しづつ変化していくから退屈はしない……あなたが平気で人を殺す、残忍なバグ・ディランだった時や。バグ・ファジーの時もあったじゃない……大丈夫、次の世界でもちゃんとサポートしてあげるから……ナユタ、お願いレオノーラを導いて、デミウルゴスの力で」

 ウェルウィッチアの姿が霧の中に消えると、飛天ナユタが現れて片手をレオノーラに差し出す。

「さあ、レオノーラ……永遠の時を」

 織羅・レオノーラはナユタの手を握ると立ち上がる──銀牙系に、再び無法の旋律が奏でられはじめた。


  ◆◇◆◇◆◇◆


「……さま、レオノーラさま!」

 衛星級宇宙船、極楽号の船橋でボゥーとしていた織羅・レオノーラは男ディアの呼び掛けにハッとした。

 雛壇状の船橋にいる、通信と暗号解読責任者のディアがレオノーラに言った──今のディアは男の子だ。

「どうしたんですか? 心ここにあらずみたいな感じでしたけれど?」

 カウガールハットをテーブルに置いた、ガンファイター・バグ姿のレオノーラが言った。

「ごめん、少し考え事をしていた……状況は?」

 航行責任者で東洋竜頭の、カプト・ドラコニスが操縦テーブルに足を乗せた格好で答える。

「相変わらず、変化なし……あちらさん、退去通達に応じる気配なし」

 船橋の前方にある巨大モニターには、惑星をバックに宇宙空間に浮かぶ超巨大要塞艦が映し出されていた。


 スダレ前髪でロップ種ウサギ耳の、防衛と迎撃責任者──鉄ウサギの月華がイカリ型の武具にボールチェーンで繋がっているドクロ鉄球を磨きながら、カプト・ドラコニスの言葉を補足する。

「こちらが指定した期限まで、あと十数分……素直に、この星域から退散してくれれば。こちらとしても手荒なコトはしなくて済むんですけれどね」

 月華の隣席には、肩当て防具の付いた黒いつなぎライダースーツ姿でバク剣客の、仁・ラムウォッカ・テキーララオチュウ・ギンジョウワインが、朱ひょうたんに入ったノンアルコールの救世酒を呑んでいた。

 鼻梁に刀傷があり、ゴーグル型のサングラスを頭にかけた仁が言った。

「あいつらに、衛星級宇宙船に捨て身で向かってくるほどの度胸があるとは思えねぇけれどな……惑星侵略の宣言をした直後に、オレたちが現れたから。簡単に引き下がったら示しがつかないんだろう」

 超巨大要塞艦は、非力な戦力の惑星に力の差を存分に見せつけた後……「降伏か? 死か?」の選択肢を迫り期限を設けた。


 その期限終了間際に、今度は跳躍航行してきた極楽号が「この星域から退去するか? 否か?」の選択肢を超巨大要塞艦に突きつけた。

 超巨大要塞艦の出方を見守っている、船橋に巫女姿の穂奈子クローネ三号が入ってきた。

 頭に包帯をハチマキのように巻き、口元と喉にも包帯を巻いていて。

 鬢髪(びんぱつ)からはイカの触腕が垂れていて、両腕の肘から先にも数本のイカの触手や触腕が袖から覗いていた。

 肩や腰に防具を装着したイカ巫女の穂奈子は、レオノーラの近くに立って状況を傍観する。


 十数分経過──ディアが言った。

「タイムリミットです、超巨大要塞艦からの退去承諾なし」

 自暴自棄になった超巨大要塞艦からの砲撃が極楽号に集中する、強固な光学シールドと分厚い外装壁の極楽号には蚊に刺されたほども効いていない。

 ビーム兵器の集中砲火を受けている極楽号の、防衛&迎撃責任者──鉄ウサギの月華がレオノーラに訊ねる。

「どうします? レオノーラさま」

 少しタメ息を漏らしながら、カウガールハットをかぶったレオノーラが言った。

「〝マンダラ砲〟発射」

「了解」

 眼球のような形をした極楽号の、黒目部分の上下が弧に歪み、極楽号が妖怪バックベアードのような目に変わる。

 その目の奥に星雲空間が見え、目の中から巨大な女性天使が上半身を外に乗り出してきた。

 満面の笑みを浮かべる天使が両手を広げて、超巨大要塞艦に向かってテレパシーのような感じで語りかける。

《さあ、天国にいらっしゃ~い……うふふふ》 

 引き寄せた超巨大要塞艦を手の平で包み込んだ天使は、そのまま抱えるように目の中に引っ込み、極楽号は眼球型にもどる。

 マンダラ砲は熱源兵器の類いではなく、遥か彼方の別星雲に敵を連れ去る兵器だった。

 月華が言った。 

「マンダラ砲……発射完了、巨大要塞艦……天使に連れ去られました」

 ディアがレオノーラに質問する。

「今回のマンダラ砲は、どこの星雲と繋がったんですが?」

「ここよ」

 巨大モニターに銀牙系とは異なる星雲が映し出される。その星雲の端にはギリシャ神話かローマ神話の神殿のような建造物が確認できた。

「遥か彼方の別星雲……もう二度と銀牙系に戻ってくることはない。物理法則も銀牙系とは異なっていて、離れすぎているから跳躍航行もできない」

「あの神殿みたいなの、どのくらいの規模なんですか? 星雲の大きさと比較してみても、とてつもなく巨大な建造物ですよ……連れ去られた要塞艦が万が一帰ってくるなんてコトは」


 仁が救世酒を仰ぎ呑みながら答える。

「それはないな、どんな場所でも住めば都ってやつだ……誰が好んで天国から、気が遠くなるほど離れた銀牙系にもどりたいと思うかよ」

 椅子から立ち上がったレオノーラが、巨大要塞艦の脅威が去った、虹色の遊色オパールの輝きを放つ惑星を見ながら言った。

「目安箱に届いた助けを求める声も一件落着したから、極楽号の船外に出て『惑星見の宴』でも、久しぶりにやってみない?」 

「いいですね」

「やりましょう」

 レオノーラたちは、船外活動準備室へと移動する。

「夜左衛門さんは?」

「後から重箱に詰めた料理を持っていくから、先に船外に出て惑星見の場所を確保して欲しいそうだ」

「ふ~ん」

 船外活動準備室に入ると、特殊な液体が満たされ、レオノーラたちの肉体が船外活動可能なようにナノ被膜で生体ラッピングされる。


 船外に出ると、その区域に重力場とドーム型の大気カプセルが完成していた。

 オパールのような宝石惑星を眺めながらレオノーラが呟く。

「綺麗ね……あの星、侵略したくなる気持ちもわかる」

 遮光器土偶型異星人の織羅家執事、アラバキ夜左衛門が極楽号のスタッフたちと一緒に宴の料理を船外に運んできた。

 惑星見の席に並べられる重箱と飲み物、少し遅れてやって来た月華が仁に持ってきた一升瓶を見せる。

「ほら、こういう時のために用意しておいた、とっておきのノンアルコール酒だぞ」

 一升瓶に貼られているラベルを見た仁の顔に笑みが浮かぶ。

「奇酒『鬼嫁殺し』じゃねぇか! ノンアルコールでも酔っぱらった気分になれる高級酒だぞ……よく手に入ったな、百年先まで入手困難だって聞いたぞ」

「特別なコネがあってね……今日は一緒に飲もう仁、結婚記念日だから」

「あっ⁉」

 仁・ラムウォッカ・テキーララオチュウ・ギンジョウワインが、レオノーラの顔を見る。

 微笑みながら静かにうなづくレオノーラ。

 照れながら頭を掻いて月華に詫びる仁。

「面目ねぇ、おまえとの結婚記念日……今の今まで忘れていた」

「気にするコトないよ、あたしもレオノーラさまに言われるまでコロッと忘れていたから。お互いさまだ……もともと、あたしら別姓の通い婚だから」


 惑星を肴に宴がはじまった。

 ノンアルコール類の飲み物が飲めない者たちは、炭酸トカゲがエコペットボトルの中に浮かぶ、清涼飲料で惑星見の宴を楽しんでいる。

 青い花弁が舞い散る、桜の樹の立体映像がドーム内に映し出され。オパール惑星と青桜がコラボした幻想的な光景が広がる。

 レオノーラのコップに、宇宙炭酸トカゲから炭酸の泡が出ている清涼飲料を注ぎながら夜左衛門が言った。

「良き日でございますな、レオノーラさま」

「そうね」

 レオノーラは、炭酸飲料を飲みながら。

(こんな、日が毎日続けばいいのに……永遠に)

 そう思った。

 重箱の卵焼きを食べ終わった男の子ディアが、少し照れた顔でレオノーラの所に行って耳打ちする。

「すみません、レオノーラさま……突然、周期的な例のアレはじまっちゃいました。しばらく自分の部屋にこもっていてもいいですか」

「アレになったならしかたがないわね……通信班の仕事は他の人にやってもらうから、安心して変態して」

「はい……いつも、すみません」

 顔を赤らめたディアは、足早に船内にもどる。

 惑星見の宴は、最後に夜左衛門が酒盃と十文字槍を持って、定番の節をつけて舞い終わるまで続けられた。

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