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第35話・美鬼アリアンロードは伝説となった・第五章ラスト

 時間は【荒野ステージ】──カダが『空腹細菌』を風に乗せて敵陣に流した直後。

 サルパ軍の作戦本部では、上級兵士がこれからの作戦を話し合っていた。

「ライバ将軍は、まだ到着しないのかよ?」

「なんか古い地図を見て『六角星陣』の外に抜ける坑道の抜け道を探しているらしい 」

「まさか、将軍は自分一人で逃げるつもりじゃ」

「ありえるな、将軍はそういうバがつく人だ」

「それ以上言うと、国家機密漏洩罪になるぞ、ははははっ」

 談笑をしていた二人の兵士は鼻の奥にムズ痒さを覚え、腹の虫がグウゥと鳴った。

 互いの顔を見合わせて笑う二人の兵士。

「腹が減ったな」

「オレもだ」

 その時、空腹に腹を鳴らした一人の兵士がテントに飛び込んできた。

「大変です! いきなりの空腹感に耐えられなくなった兵士たちがテント内の食糧を食い尽くして。次々と風上の美味そうな匂いが漂ってくる敵陣に向かって投降しています! わたしも腹が減ったので敵陣に投降します、失礼しました」

 二人の上級兵士は、顔を見合わせると空腹に鳴る腹を押さえて先を争うように、ゲシュタルトンが作った荒野の陣に投降した。


 カダたちがいる食事配給テントには、投降してきたサルパ軍の兵士たちで大混雑していた。

 大鍋から食器に料理を取り分けているカダが言った。

「ひょひょひょ、腹の皮が破けても食べ続けろ。パンも飯もたっぷり用意したからのぅ」

 兵士たちは、いくら食べても空腹感が満たされずに、膨れた腹で苦しみながらも食べ続けた。

「食べても食べても、空腹が満たされない……ひいぃ苦しい」

 兵士の食べている器に、料理を継ぎ足すカダ。

「ひょひょひょ、腹が減っては戦はできぬからのぅ……もっとも、満腹でも戦はしてはならぬぞ」


 治療医療テントでは、カダがたちが。

 すでに遊びがはじまっていたステージの陣から、牛頭や馬頭の衛生兵が搬送してくるサルパ軍の負傷者で溢れていた。

「ひょひょひょ、敵も味方も治してやるわい──もっとも、アリアンロード十五将は誰も搬送されてくるコトはないがのぅ……死者さえも生き返らせてやるわい、ひょひょひょ。この兵士には開発中の新薬を投与してみるかのぅ、腕が何本生えるか楽しみじゃ」

「ひいぃぃぃぃぃぃ!」


 外科医療テントでは、カダが造った人造美女で、助手兼外科医の『蝉々(ミンミン)』の恐怖オペがはじまっていた。

 手術着姿の蝉々をグルッと取り囲むように、負傷者が乗った手術ベットが放射線状に並べられている。

 外科女医『蝉々』が言った。

「あたしのこの体には、カダさまの手で天才外科女医の肝が移植されている……あたし、手術絶対失敗しませんから。野戦病院術式開始」

 蝉々の体から千手観音のように多数の腕が飛び出して、放射線状に配置された患者に対する同時オペが進行する。

 麻酔なしのオペにサルパ兵の悲鳴が響き渡る。

「ぎゃあぁぁ! 麻酔を! 麻酔をして手術してくれぇ! うぎゃあぁぁ!」

 手術助手をしている牛頭馬頭の看護師が、手術の痛みにのたうち回るサルパ兵を押さえてなだめる。

「男の子なら我慢、我慢、痛いの痛いの飛んでいけぇ……ほら、もう痛くない。そんなに動いたら先生が手術できないでしょう」

 首をグルグル回転させている『蝉々』の地獄のオペは続く。

「この患者の使える部分と、こっちの患者の使える部分をニコイチでくっつけてと……あっ、この上半身、女性兵士だった。上と下が別々の変なのができちゃった。まっいいか……あはははは、なんか楽しくなってきた」

 首をグルグル回しながら、人造美女は笑った。


  ◇◇◇◇◇◇


 テント外の【荒野ステージ】では、バハムートとゲシュタルトンがサルパ軍の戦車部隊を相手に奮闘していた。

 バハムートの別次元世界へ繋がった口から、高熱源のエネルギーを怪獣が口から吐く光線のように使って戦車部隊を粉砕する。

 ゲシュタルトンの機械体空間転移で、メカになった片足の膝から放物線を描いて発射される、長距離小型迫撃弾の爆風が戦車を吹っ飛ばす。

「バフゥゥ(次から次へとキリが無い)バウゥ(二人だけじゃ限界がある)」

「もう少し頑張れ、第十五将は、すぐそこまで来ているアイツさえ到着すれば……空を見ろ、アイツが来たぞ」

 上空に鉛色の雲が渦を巻き、渦の中心から超弩級の巨大宇宙戦艦が出現した。


 ゲシュタルトンが宇宙戦艦に向かって言った。

「二度寝でもしていたのか、アリアンロード第十五将・武者駆逐戦艦『幻龍』」

 自立型人工知能の幻龍が、曲げていた機械のハサミ腕を艦体から伸ばして、腕立て伏せをするような格好で着陸する。

 地響きが轟き、着陸の衝撃だけで数百台の戦闘車輌が転がる。

 医療テントから飛び出してきたカダが言った。

「まったく、アイツはもう少し静かに着陸できんのか……まぁ、幻龍は子供だからしかたがないが」

 幻龍の戦艦精神年齢は中学二年生程度だった。

 腕立て伏せで、上体を起こした幻龍の底が開き、陸上戦艦・空中戦艦・地中戦艦が次々と出てきて、瞬く間に艦隊が構成された。

 幻龍から出てきた各種戦艦からも、装輪戦車やホバークラフト戦車、翼やプロペラがある空中戦車、先端にドリルが回転する地中戦車が次々と出てきた。

 ゲシュタルトンが幻龍に向かって言った。

「幻龍、今回は戦闘機や爆撃機の類いは出撃させなくていいからな……お遊び相手との戦力差が開きすぎる、行けぇ幻龍」

 幻龍の大部隊が進撃を開始する、それを見たサルパ軍は慌てて後退をはじめ。

 幻龍部隊は鬼ごっこでもしているように、逃げるサルパ軍をどこまでも追っていき──恒星の渡りカラスがカーカー鳴く夕方まで続けられた『お遊び』は終了した。


  ◆◆◆◆◆◆


 第十五将『幻龍』が惑星アダマスの荒野に現れる少し前──鉱山に避難していたボルツ族の前に『悪魔の口』に落とされていた村人の生存していた数名が現れた。

 衰弱した様子で棒を杖代わりにして歩いてきた、村人の中には少女の弟も含まれていた。

 喜びの涙を流しながら、駆け寄って生きていた弟を抱き締める兄と姉。

「良かった、本当に良かった」

 弟の目は長い間、暗闇の中にいたのと、栄養状態の悪化で見えなくなっていた。

 美鬼アリアンロードのヌイグルミが喋る。

《きょほほほ、幻龍の地中戦車が掘った横穴から生存者を救出しましたわ》

 ヌイグルミの話しだと、穴の底に自生していた燐光コケを食べて生き延びていたらしい。

《栄養状態が良くなれば、視界も回復しますわ……きょほほほ》

 ボルツ族が生存者との再会に喜んでいると、鉱山の壁にボコッと穴が開き、穴の中からライバ将軍が出現した。

 恐怖に凍りつくボルツ族。ライバ将軍は軍服の土汚れを手で払うと鉱山に避難していた、ボルツ族を見渡してから言った。

「鉱山に繋がった抜け道だったのか……ネージ皇帝の不在中に新サルパ帝国の軍力を壊滅状態にさせてしまった、どこかに身を隠すか」

 ライバ将軍がそう呟いた時、将軍の近くの暗闇から染み出るように飛天ナユタが現れた。

 ナユタの姿を見て、安堵の表情を浮かべるライバ将軍。

「あんたのコトはなぜか覚えている……何回もオレを生まれ変わらせて、新しい人生を送らせてくれたな。さあ、またオレを生まれ変わらせてくれ」

 ナユタは無言でライバ将軍の額に触れると、将軍を受精卵の状態に戻した。

 手の中でピクッピクッと鼓動をしている、真珠色の受精卵。

 少女がナユタに向かって叫ぶ。


「その男を殺して! 生まれ変わっても、また非道な人生を歩んで、どうせ人々を苦しめる! 今すぐ殺して!」

 鉱山の天井を仰ぎ見るナユタの手が、ゆっくりと握られていく。

 ふたたび開いた手の平を見ながら、ナユタが言った。

「うっかり、受精卵を握り潰してしまいました……まぁ、九回も人生をやり直したんだから、もう十分でしょう……そのどれもが悪党の人生でしたが」

 そう言ってナユタは手の平の汚れを、ハンカチで拭き取った。 


  ◇◇◇◇◇◇


 意識を失っていた聖母が、ボルツ族村のテント内で意識を取りもどす。

「いったいナニが? 首筋を誰かに叩かれたような?」

 乾いた喉を潤そうと水瓶に近づいた聖母は、水の中から覗く複眼の一つ目を見た。

 突然、水瓶の中から水響きをあげて現れた睡蓮の水掻きの手が聖母の胸に触れる。

 悲鳴を発する偽聖母。

「ひいぃぃぃ!」

 聖母は体の中に何かが、押し込められたような感覚を覚えた。

 腰を抜かして怯えている聖母に睡蓮が言った。

「おまえの心に、時限式の精神爆弾を仕掛けた。いつ起爆するわからない恐怖に怯えながら、残りの人生を生きるがいい」

 睡蓮が水瓶の中に消えると、裏切りの聖母は頭を抱えて恐怖に絶叫した。

「い、いやあぁぁぁぁぁぁ!」


──惑星アダマスのネメシスリューム鉱脈はボルツ族の無計画な採掘で数年で掘り尽くされ、ネメシスリュームの採掘収入で支えられていた至福都市ジルコニアは鉱山の閉鎖後。

 急速に衰退して廃墟都市の一つとなった。


 そして、惑星アダマスに美鬼アリアンロードと、アリアンロード十五将の伝説が残った。

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