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第27話・未熟惑星【ネオテニー】

 女王が少し落ち着いたセレナーデに言った。

「実はナバーでは生殖医療技術が発達していまして……女性同士での繁殖が可能なんです」

「はぁ?」

「ここからはプライベートな話しですけれど……レオノーラさんとセレナーデさんの写真を一目見た時から、わたくしお二人を気に入ってしまって、双子なのでどちらを選ぶか決めかねていたのです」

「へっ⁉」

 セレナーデは奇妙な話しの流れに女王を見る、

女王の目は風呂場に覗きに来ていた女たちと同じ目の輝きをしていた。


「どうやら、セレナーデさんの方が遺伝子の相性があたしの体質とピッタリのようです……あたしと繁殖しませんか」

「繁殖⁉」

 次第に身の危険を感じはじめるセレナーデ。

「そんなに難しく考えるコトはありません……あなたの赤ちゃんが欲しい」

「ち、ち、ちょっと待ってください!」

「最初からセレナーデさんが、一人二役を演じていたのは気づいていました──健気な変装姿も素敵でした。あたくしの願いを聞いていただけたら、宝のカギをお渡しいたします」

「宝のカギは欲しいけれど、それとコレとは」

「大丈夫、大丈夫、すぐにその気になりますよ……食事に混入した薬物の効果が、そろそろ現れる頃ですね」

「薬物って……あッ!」

 セレナーデの目が虚ろになる、微笑む女王がセレナーデの手を握って椅子から立たせる。


「さあ、プライベートな部屋でプライベートな楽しい時間を……素敵な会談を続けましょう」

「あい、会談は成功させないといけませんね」

 女王は、セレナーデの腰の辺りを押し歩きながら甘い口調で囁く。

「怖くない、怖くない、痛いのは最初だけ……大丈夫、大丈夫……うふふふっ、男なんていらないから」

 セレナーデとナバーの女王がプライベートルームに入って数分後──セレナーデの声で

「うぎゃあぁぁぁッ!」

 という悲鳴が部屋の中から聞こえてきた。


  ◇◇◇◇◇◇


 数十分後──女王のプライベートルームから出てきて、壁を伝わり歩きで控えの部屋にもどってきたセレナーデは部屋のドアを開けた。

 部屋の中には、椅子に座ったレオノーラが夜左衛門が用意した、ホットミルクを味わっていた。

 レオノーラがセレナーデに言った。

「おかえりなさい宝のカギは?」

 セレナーデは持っていた結晶キューブをレオノーラに差し出す。キューブを受け取ったレオノーラにセレナーデが低い声で訊ねる。

「あんた、この星が、こういう星だって知っていたでしょう……どこかに隠れて見ていたでしょう」

 レオノーラはセレナーデの質問には答えずに、キューブを覗き込んで呟く。

「次の目的地は『未熟惑星【ネオテニー】』か……ウェルウィッチア超おばさま、宝のカギは何個あるの?」


 スクワットをしながらウェルウィッチアが答える。

「百個かも知れないし、数個かも知れない……どうやら、カギが隠されている惑星には織羅家の兄弟が単独で向かった方が、全員で動くよりも探す効率は良いように思える」

「だね、次の惑星にはボクが行くから……ところでセレナーデ、女王のプライベートルームで何があったの?」

 セレナーデは口元を押さえて首を横に振った。

「おぞましすぎて思い出したくない……女同士であんなコトを」

 宝のカギを入手したレオノーラたちは、妖霊星ナバーを離れ極楽号にもどった。

 後にナバーの女王は、セレナーデから採集した細胞の遺伝子からクローンの女性を作り出し、クローンを女から男に強制性転換させて。

 ナバーの女性たちから「裏切り者!」と、怒鳴られながらも男と結婚した。


  ◆◆◆◆◆◆


 未熟惑星【ネオテニー】──レオノーラとウェルウィッチアは、白きシェヘラザード号でネオテニーの大地に降り立った。

 今回はカウダ・ドラコニスはシェヘラザード号の中に残して、レオノーラとウェルウィッチアの二人だけだ。

 ウェルウィッチアが、着陸地点の平原から少し離れた場所の密林の中にある、蔓で覆われたピラミッドを見て言った。

「文明レベルは原始石造レベルの星ね」

 平原には全身が体毛で覆われた中型四脚恐竜の群れが人間の腰の高さまである、サボテンに似た植物を食べている光景が広がっていた。

 レオノーラがガンアーマーに装備されている機能を使ってネオテニーで人間がいる場所の方向を指差す。

「ウェルウィッチア超おばさま、あっちの方向に人間がいます……歩いて二十分程度の場所に集まっています」

「じゃあ、歩きましょうか」

 レオノーラとウェルウィッチアが歩きはじめて数分の場所に、ハゲ鷹のような頭で翼竜のような皮膜翼の恐竜が群がっている箇所があった。

 ウェルウィッチアが眉をひそめる。

「いやだぁ、動物の死骸でもあるのかしら?」

 よく見ると地面には無数の中型動物の足跡と、破壊されたロボット兵団の残骸が転がっていた。

 屈んで地面に残されている足跡をガンアーマーの撮影機能で写すと、該当する生物の姿と説明がガンアーマーの小型モニターに表示される。

 それは、人間と同等の身長をしたカンガルー体型の恐竜だった。

「『カンガルー竜』立ち上がった時の体長は二メートルを越える個体も存在する……乾季には餌を求めて何百キロも移動する……なるほど移動中の群れに巻き込まれたね」


 レオノーラたちが、ハゲ鷹に酷似した翼竜型恐竜の群がりに近づくと、一斉に死肉に群がるハゲ鷹翼竜が飛び立ち。

 地面にうつ伏せで横たわっている、ザガネ総帥が現れた。

「死んでいるの?」

「いや、まだ息はある」

 ウェルウィッチアは、意識を失ってうつ伏せになっていたザガネ総帥の体を仰向けにすると、座らせたような姿勢から

無理矢理立たせ。ザガネの後方に回り込む。

「こうして、背中側から腰に腕を回して……と、今から投げるよ。せぇのぅ! 」

 少し自分の腰を沈め気味に後方に倒れるように勢いをつけたウェルウィッチアは、そのまま反り返る姿勢で、意識が朦朧(もうろう)としているザガネをスープレックスで投げて、爪先立ちのブリッジ姿勢でザガネを大地にホールドした。

 いきなり、ワケもわからずに後頭部を地面に激突させられたザガネの口から。

「グブッ!?」という声が漏れる。

 プロレス技を解除したウェルウィッチアは、空を指差して。

「今日は見事に決まった、次はローリング・クレイドルホールドに挑戦してみよう」

 そう言った。

 完全に意識を取り戻した、ザガネがウェルウィッチアに向かって。

「殺す気か!」と、叫ぶ。

 後頭部を擦っているザガネに、ウェルウィッチアが質問する。

「どうして、あんな場所に倒れていたの?」

「占いだ」

「占い?」

「最初に訪れる星がここだとカード占いで出たから、先回りして待ち伏せしていたが、ぜんぜん来やしねぇ」


 ウェルウィッチアが、服についた土汚れを手で払っているザガネに言った。

「待たせちゃって悪かったわね、お詫びじゃないけれど……あたしたちと一緒に、この星の人間が集まっている場所に行きましょう。あなたとはいろいろと話してみたいから」

「サルパの栄光を再び……良いだろう、その代わり織羅家の宝のカギは、チャンスがあれば容赦なく奪うからな」

「いいわよ、争奪戦はライバルがいた方が盛り上がる……カギをひとつでも持っている者にも、宝の所有権を主張する権限を与える」

「その言葉を忘れるなよ……織羅家の秘宝は我ら『ネオ・サルパ帝国』が必ず手にする」

 歩きながら、ウェルウィッチアがザガネ総帥に質問する。

「ザガネ総帥さんは、どんな経緯でネオ・サルパ帝国に?」

「オレは元々、サルパ帝国の軍隊で見習い兵をしていた」

「ほうっ、それはそれは」

「こっちの銀河に来てから、成り行きでネオ・サルパ帝国の一員にいつの間にかなっていた」

「やっぱり、ザガネ総帥さんは根は悪い人じゃないですね……長年生きてきた、あたしには分かります」

 足を止めたザガネはウェルウィッチアを見る。

「もし、これから先、身を寄せる場所に困ったら。遠慮なく極楽号に来て歓迎するから」

「覚えておこう、そんな日は来ないと思うがな」


 レオノーラたちは、ネオテニーの人間たちが住む村に到着した。

 組んだ丸太と枝葉で作られた家が並ぶ、原始の村では粗末な毛皮の衣服を着た頭に二本の角を生やした鬼型種族の男女が生活をしていた。

 ネオテニーの人間たちは、石造物の建造技術や土器を作る技術はあるが、まだ農耕文明には到達していない狩猟文明レベルだった。

 ザガネが呟く。

「どこに宝のカギがあるんだ?」

 ネオテニーの人間たちを観察していたザガネは、あるコトに気づく。

 村の若い男女たちは、生まれた子供の育児放棄をしていた。


 育児放棄されている子供たちを見て、怒りに体を震わせるザガネ総帥。

「なんてことだ、子供が鬼のような親から育児放棄をされている! もう見ていて我慢できない注意してくる!」

 一歩進み出たザガネの前で、片手を水平に広げたレオノーラが制する。

「どけっ! 親から見捨てられて、助けを求める心の悲鳴を発信している子供を放っておけるか!」

「落ち着いて……あれが、この星の生態系だから」

「なにを言っているんだ?」

「まぁ、手出しをしないでしばらく見ていて」


 ザガネが見ていると、ラプトル種で二脚歩行をする恐竜型の生物が数匹やって来て。

 育児放棄されている子子供を連れ去っていった。

 ポカンとしているザガネにレオノーラが言った。

「ラプトル種生物のコロニーに行ってみましょう」


 ラプトル種生物の集団繁殖地(コロニー)では、人間の子供とラプトル恐竜の子供が一緒に育てられていた。

 地面に作られた巣の中には、人間の子供と卵から孵った恐竜の子供がラプトル種の親から一緒にエサをもらっていた。

 集団繁殖地には十五・六歳前後の人間の子たちもいた。

 ザガネがレオノーラに訊ねる。

「こりゃいったい何だ? 恐竜と人間が同等に育てられている?」

「これが、この星の生態系……鬼の親が育児放棄をした人間の子供を、ラプトル恐竜が連れてきて自分たちの子供と一緒に、ある年齢に到達するまで育てる」

「いったい、何のために?」

「それは、あの生物から卵を守るため」

 レオノーラが示した先には、口が湾曲した先細りストローのようになったワニに酷似した生物が、巣の中にあるラプトル種の卵に尖った口の先端を突き刺して卵の中身を吸っていた。

「あの生物は他生物の卵が主食で、特にラプトル種の卵が大好物で川から上陸してくる……見ていて、人間の子供を育てる意味がわかるから」


 ザガネが見ていると、十五歳前後の頭に角を生やした人間の子たちが、石器の石棒を手にワニ型生物を追い払い退散させていた。

 レオノーラが言った。

「ラプトル種生物と一緒に育てられた人間は、ラプトルの卵を兄弟や姉妹だと認識させられていて、卵を狙う生物から卵の兄弟姉妹を守る……ラプトル種の貧弱な手では道具は扱えないから。ラプトルに育てられた人間は、育ての親であるラプトル種を決して食べない」

「なるほど」

 さらに見ていると、特定の年齢に到達した人間と育ての親であるラプトルとの巣立ちの儀式も行われていた。

 人間からハグされているラプトル種の目からは、涙のような体液が流れている。

「巣立ちの瞬間ね、繁殖可能な年齢に達した人間は、ラプトルの集団繁殖地を出て人間の集落に帰巣本能でもどっていく」

「巣立ちした子たちは、育児放棄をしないで。今度はちゃんと子育てできるのか?」

「それが、この生態系システムの巧妙なところで。ラプトル種が人間に与えていたエサの中には、繁殖可能な年齢に人間が到達しても父性愛や母性愛を希薄や欠如させる成分が含まれていて、育児放棄される人間の子供ラプトル種が、また連れていって育てる生態系システムが確立されている──それが、未熟惑星ネオテニー」


 レオノーラの話しを聞いていたザガネ総帥は、不快そうに顔を歪めた。

「なんて、おぞましい星だ」

 ウェルウィッチアが言った。

「これが、この星では当たり前……育児放棄や虐待で子供が死亡するよりはいい。そろそろ、ラプトル種に聞いてみますか……ねぇ、あなたたち豪烈という人物が隠したキューブがどこにあるか知らないかな?」

 ウェルウィッチアの言葉を理解したラプトル型生物は近くにある、切り立った崖の中腹にある、何かの動物の巣に向かって一斉に視線を集中させた。

 それを見たザガネ総帥は、崖に向かって疾走した。ポリポリと頭を掻くウェルウィッチア。

「えーと、この場合は追いかけた方がいいのかな?」

 ウェルウィッチアとレオノーラは、ゆっくりとした足取りでザガネを追った。

 レオノーラたちが崖の下に到着した時は、すでにザガネは崖を何回かよじ登っていた。ボロボロになったザガネが崖の下にいるレオノーラたちに向かって怒鳴る。

「ぜーてぇ! この星の宝のカギは渡さねぇからな。まえたちが到着する前に何回も落ちているんだからな! ここまできたら諦めてたまるか!」

 もはや必死の形相で崖をよじ登り、枯れ枝を集めて作られた動物の巣に近づこうとするザガネ。


 巣には脇の下に飛行するための皮膜がある、大型の猫科動物が、巣にいる子供を守るために待ち構えていた。

 大型の猫科生物は、崖をよじ登ってきたザガネに向かって、ネコパンチを浴びせて崖の下に叩き落とす。

 何度落ちても登りを繰り返しているザガネの姿に、さすがのレオノーラも頭を掻く。

「どうする……ウェルウィッチア超おばさま、あれだけ必死に何回もチャレンジしている姿を見ちゃうと」

「彼に取らせてあげたくなってくるわよね……がんばれ! ザガネ総帥さん!」

 ウェルウィッチアの声援が届いたのか、一気によじ登ったザガネはネコパンチを交わして、巣の中にあった宝のキューブをオモチャにしていた、子供ごとつかんで崖をかけ降りてきた。

 キューブを持ったままの猫科生物の子供を、頭上に掲げて歓喜の声をあげるザガネ総帥。

「取ったぞぅ!」

 ザガネがキューブの中を覗いて言った。

「なんだぁ? キューブの中に迷彩模様の星が見える……そういえば紫色恒星の中に、この星浮かんでいたなぁ」

 ザガネがそう呟いた時……子供を奪われて激怒した大型猫科の生物が皮膜を広げて崖の巣から滑空して追ってきて、ザガネは慌てて逃げた。

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