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第21話ミリ・ヘレン≧ドドド・リアン

 各地域で嫌がらせをしている宇宙船からの報告に、ドドド・リアンは満足そうな笑みを浮かべる。

「ふははっ、いいぞもっとやれ! ホボ邪魔団の恐怖を思い知らせてやれ!」

 アシ・クサヤが、送られてきたデータを薄型タブレットで見ながら言った。

「アズッキ地域の住民が、長雨に文句を言ってきていますよ……どうします?」

「あの地域は雨乞いをしていて、集中豪雨は可哀想だと思ったから。長期間の霧雨にしてやっただろう……軽く外出着が湿る程度の霧雨だ……そんなに日差しが欲しかったら雲の隙間から太陽の光が差し込むようにしてやる……ただし、それ以上は晴天にするな、幻想的な絵画風の天使のハシゴ的な風景を毎日見せてやる、ふぁはは」

 ドドド・リアンの発案する子供並みの嫌がらせに、クサヤはタメ息を漏らす。

 クサヤは自分たちが乗っている主戦艦母船と、対峙を続けている防御特化艦に目を向けて首をかしげた。


(なぜ動かない? こちらの惑星への嫌がらせ行為を黙視している? 向こうの艦長は何を考えている? それとも動けない理由が?)

 クサヤは、嫌がらせが開始された日に防御特化艦に着艦した。

 織羅家の中型宇宙船が今だに艦外に出てきていないコトが気になっていた。


  ◆◆◆◆◆◆


 防御特化艦ブラックハートの艦内格納庫──カウダ・ドラコニスが操縦してきた中型宇宙船は、船内に『穂奈子クローネ三号』を残したまま、外に出た月華とカウダ・ドラコニスは。格納庫でキャンプをして穂奈子が外に出てくるのを待ち続けていた。

 月華たちの近くには、ブラックハートの面々もいる。

 枝に刺した巨大なマシュマロを火で炙りながら、ミリ・ヘレンが月華に質問する。

「もう長い間、イカ巫女は閉じこもったままだが、大丈夫なのか?」

「精神接触は繊細な作業だから、相手によっては時間がかかるの………意思を疎通させるのが難しい種族もいるからね」

『穂奈子クローネ三号』──(かばね)は『亜』

 年齢や性格の異なる複数のクローン体が存在する。


 三号にはイタコや神託をするシュビラのように、精神だけの存在や言語体系が大きく異なる生命体と自らの口を使って、意思を他者に伝える能力がある。

「まぁ、憑依なのか体に神を降ろすのか、とにかくそんなような精神世界の作業よ………待ちましょう、穂奈子の話しだと目安箱に信号を送ったのは人間じゃないみたいだから」

「未知の知的生命体か」

「かもね……」

 ミリ・ヘレンが炙っている溶けたマシュマロが床に流れ落ち、下にいたポアズは慌てて落下してきたマシュマロの滝から逃れた。


 数十分後──中型宇宙船のハッチが開き、少し疲れた様子の穂奈子が出てきて言った。

「整いました……通信を送った存在は会話に応じてくれるそうです。あたしの肉体も同調受け入れの準備整いました」

 肩当てや胸当て、腰防具を装着した巫女姿の穂奈子は、耳ぎわにある鬢髪(びんぱつ)の位置から垂れているイカの菱形触手のような器官を揺らした。

 穂奈子の髪はウィッグで、そのつど長さや色が変わる。

 穂奈子三号の本来の髪の長さはショートヘアーだ。


 月華が穂奈子に訊ねる。

「SOS通信を発信してきた存在はなんだって?」

 穂奈子は額に巻かれた白い包帯を締め直して、喉から口元を覆う包帯をモグモグ動かして答えた。

「詳しい会話は、惑星ガルバンゾのココ教授の前で話したいそうです──惑星ガルバンゾに、あたしを連れて行ってください」

「わかった」

 カウダ・ドラコニスが操縦する中型宇宙船は、穂奈子クローネ三号を乗せて惑星ガルバンゾへ向かった。


 ブラックハートから、極楽号の中型宇宙船が出てきて惑星へ下降を開始したのを見た。

 嫌がらせが順調に進んでいるので上機嫌で、テンションマックスのドドド・リアンは少し暴走気味に言った。

「おっ⁉ 何か防御特化艦から出てきた? かまわねぇ! 撃ち落としちまぇ!」

 ビーム砲の発射スイッチを押そうとしているリアンを見て、悲鳴を発するクサヤ。

「あっ! このバカ血球人なにやっている!」

 止める間もなく、発射されたビーム砲の閃光は穂奈子が乗った中型宇宙船目掛けて飛んでいく、直撃寸前に超絶な操縦テクニックでビームを回避するカウダ・ドラコニス。

 ビーム砲は宇宙船外装の数センチの位置を通過して、宇宙船はそのまま惑星ガルバンゾの大気圏に突入していった。

「ちっ、外れちまった」

 残念がっているリアンの耳に通信機を通して、ミリ・ヘレンの声が聞こえてきた。

《撃ったなぁ……攻撃したなぁ》


 ブラックハートが艦首方向を変えて、こちらに向かってきた慌てるドドド・リアン。

「撃て! 撃て! でかぶつ女の船を沈めろ!」

 悲鳴を発して、クモ脚を動かして脱出ポットに駆け込むアシ・クサヤ。

「やめろぅ! このバカ血球人! ひぃぃぃ!」


 主戦艦からのビーム砲が、ブラックハートに向けて集中する。

 強固な艦装が、ビームを防ぐ。

 歯ぎしりするリアン。

「なんて、硬い艦装だ! 撃て! 撃て!」

 防御特化艦は、集中砲火を浴びてもびくともしない。


  ◆◆◆◆◆◆


 ブラックハートの艦橋でニュートンが言った。

「さすが、防御に特化した艦……銀牙最強シャー、この後はどうしますか? 艦長」

「しばらく様子を見ながら前進して、頃合いを見て『反射防御』」

「了解」


 リアンは狂ったように砲撃命令を艦のAIに出す。

「撃て! 撃て! 撃て! ひゃははは」

 突然、ブラックハートの表面的が多面型の鏡面に変化した。ビームが命中した箇所から銀色の粒子が宇宙空間に飛び散る。

 リアンはキラキラ輝く粒子に見とれる。次の瞬間、鏡面艦装に着弾したビームは乱反射して、撃ってきた艦の方に直撃した。

 パニックになるリアン、AIにプログラムされていたクサヤの声で、被弾状況が報告される。

《機関動力部近くに直撃被弾……出力低下航行不能です……バーカ》

「なにぃ⁉」

 ブラックハートの前面に、ツタ科植物の葉模様に似た光学のネイビーシールドが現れ。

 ドドド・リアンが乗っている主戦艦の側面をシールド押しはじめた……押されて下降している戦艦の後方には衛星キドニーの赤い地表が迫る。

「うわぁぁぁぁぁぁ?」


 ドドド・リアンが乗る艦を押している、ブラックハートの艦橋で艦長椅子に座り、ミルクティーを飲みながら頬杖をしたミリ・ヘレンが呟く。

「そのまま、小惑星の地表に挟んで押し潰せ……防御こそ最大の攻撃なり」


《小惑星キドニーの地表激突までの予想時間……約十分、こりゃ助かりませんわ。とっとと脱出ポットに乗り込んで逃げ出してください……バーカ》

 迫り来る小惑星の赤い大地にドドド・リアンは悲鳴を発した。

「や、やめろぅ! やめろぅ! ぎゃあぁぁ!」

 押し潰されて爆発する主戦艦……爆煙の中から、防御特化艦ブラックハートがその姿を現す。

 操舵を握るロックウェルが言った。

「乗員は全員、脱出成功、死傷者ゼロ」


 小惑星キドニーは、移住可能に改造され、酸素と植物のある小惑星だった。

 赤い大地に落下着陸した脱出ポットの上部が開き、ドドド・リアンとアシ・クサヤが這い出してきた。

 リアンは空中に浮かんでいるブラックハートに向かって怒鳴る。

「降りてこい! でかぶつ女!」

 リアンの声が届いたのか、ブラックハートはゆっくりと下降してきた。

 クサヤがリアンの頭をハリセンで叩く。

「本当に降りてきちゃったじゃないですか! どうするんですか!」

 着陸したブラックハートから、ミリ・ヘレン以下乗員たちが出てきた。

 リアンを見下ろす格好で、ミリ・ヘレンが言った。

「希望通り、降りてきてやったぞ、なんの用だ」

 慌てる土下座するドドド・リアン。

「すみません、すみません、冗談です。すみませんでした」

 クサヤは、ペコペコと這いつくばっているリアンを蔑みの目で眺めながら言った。

「変わり身早っ、血球人最低」


 そんな中、ブラックハートの上空を取り囲むように、惑星ガルバンゾに散っていたホボ邪魔団の船団が、少しづつ集結してきていた。

 土下座姿勢で含み笑いに変わるリアンの表情。

「ひゃははぁぁ、バカめ引っ掛かったな、オレの頭脳戦に──こうなるコトは最初から計算済みだ!」

「ウソつけ、あたいが呼んだんだよ」

 と、クサヤ。

 宇宙船団から次々と、ワイヤーを使ってホボ邪魔団の、寄せ集め空挺隊が降下してきてミリ・ヘレンたちを取り囲む。

 その顔は全員が、自分たちの責任者が誰であるか明示するために。ドドド・リアンのフェイスお面をつけていた。

 ハンマー系や棍棒系の打撃武具を持った空挺隊に、リアンが指示する。

「やっちまえ! でかぶつ女の手足にワイヤーを引っ掛けて転倒させろ! 血球人の悪知恵をナメるな」

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