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第17話 少女は自力で夢と未来をつかんだ・第二章ラスト

 美鬼は鐙 総十郎の鼻先を撫でながら、バルトアンデルス文字が刻まれた石棺を見る。

「そろそろ、現れてもいい頃ですわね……鍵外しが得意な例の将が……出てきなさい、もう到着しているのでしょう」

 美鬼の声を受けて部屋の数十センチの隙間に、中央が膨らんで樽型に歪曲(わいきょく)した黒い糸巻きのようなモノが現れ。

 ミミズかカタツムリが悶絶しているような電子音楽が聞こえ。糸巻きがシルクハットと黒マント姿の怪盗に変わった。


 若い美形怪盗が言った。

「アリアンロード十五将……第十三将・次元怪盗『テルミン』参上」

「きょほほほほ……いつも、最後のおいしい場面に現れますわねテルミン、古代文明の鍵を開けてください」

「お任せを」

 怪盗テルミンの口から電子音楽器機テルミンの音色が流れると、石棺の上部が立体パズルのように動き開く。

 石棺の中には黄金色に輝く石板が一枚入っていた。

 美鬼がヒロエの背中を軽く石棺の方に押す。

「その黄金の板を手にするのですわ」

 言われた通り、ヒロエが板を手にすると表面に古代文字が現れてから数秒後──石板は砂状に崩れた。

 不思議そうな顔で立っているヒロエに美鬼が言った。

「きょほ、今後のために偉そうな態度でアドバイスをしますわ──嫌な書き込みを目にしたら相当のポジティブな思考者で無い限り、誰でも多少のダメージは心に残りますわ……ただ、その時々の状況や各自が自分に合った方法でダメージを心に残さないように軽減工夫しているだけですわ……『反射するか』『吸収するか』『柳に風の受け流し』『反復返し』ですわ」


 腰に手を当てて美鬼が力強く言った。

「顔もわからず、素性もわからず、年齢もどこに住んでいるのかもわからない嫌な相手からの書き込みは『何もわからない相手なら幽霊と同じで、存在しない者』ですわ──顔もわからない幽霊は、今ごろ『トイレでウ●コしていまわ』……きょほほほほっ、幽霊を無視したあとは笑ってリフレッシュですわ……それでは地上へ戻りましょうか」


 迷路から出て地上に戻った美鬼は、大きく伸びをしながら深呼吸をした。

「きょほ、外気が気持ちいいですわ……さてと、ナラカ号の目安箱に匿名で届いた学園不正の厄介事も解決しちゃいますか」

 美鬼は振り袖ドレスの胸元から、ボタン式スイッチのようなモノを取り出すと押した。

「怒りなさい『ナラカ号』……ポチッとな」

 衛星軌道上に浮かぶナラカ号の、愛らしい目が吊り上がった怒り目に変わり、口にピラニアのような鋭い歯が生える、ヒレも荒々しいヒレへと変貌した。


 腰が抜けて悲鳴を発する教頭。

 熱帯魚型の衛星宇宙船は、さらに古代甲殻魚類の姿に変貌する。

「きょほほほ……あの形態が、ナラカ号第二形態ですわ、さらに第三形態へ」

 古代甲殻魚類の外殻が飛び散り、惑星ザイイーネの青空に流星を描く。

 外殻の下から現れたのはカブトガニのような甲虫型の衛星級宇宙船だった。

 第三形態に変わったナラカ号の超巨大な挟角が、惑星ザイイーネの大地にガッチリと食い込む。

 ググレカス学園の上空がナラカ号の陰で暗くなり、少しだけ大地が揺れる。

 見上げると、ものすごい勢いで流れていく雲の間から、アノマノカリスのような円形の口が見えた。

「きょほほほ……さすがバルトアンデルスの非常識科学力、惑星を挟み込んでもほとんど揺れませんでしたわね」

 座り込んで驚愕している教頭を見下ろす美鬼が、教頭を指差して言った。

「さあ、あなたが今までやってきた悪行の数々を洗いざらい白状しなさい……きょほほほっ」

「い、いったい何を言って」

「とぼけるつもりですか、ナラカ号の挟角牙顎で惑星ザイイーネを挟み砕いて崩壊させますわよ」

「そんなコトをすれば、あなたも無事では」

「知ったこっちゃないですわ……さあ、あと数十分で惑星が崩壊しますわ。ナラカ号の異名は〝星砕き〟ですわ……きょほほほっ」


 空に稲妻が走る、風も吹き荒れはじめる、雹がパラパラと降ってくると教頭は悲鳴を発した。

「ひぃぃ! 全部話す! だから星から出て行ってくれ!! 学園長が私腹を肥やすために……数えきれないほどの不正や悪行を繰り返していた!! わたしは学園長の指示に従っただけだ! 悪いのは全部、学園長だ! わたしは被害者で、まったく悪くない、ひっ⁉」

 教頭の近くに池から竜巻で巻き上げられた、手足が生えた魚が降ってきた。


「きょほほほ……やっと白状しましたわね。実は昨夜、ゲシュタルトンに頼んで学園長を尋問しましたら、あなたとまったく同じコトを言っていましたわ『教頭に指示されてやっていた』と」

 美鬼がボタンを再度押すと、惑星ザイイーネに二つの渓谷のような噛み傷を残して、ナラカ号が惑星から離れ衛星軌道上に戻った。

 美鬼がゲシュタルトンに言った。

「ゲシュタルトン、市長補佐官兼任教頭の今の言葉と姿……動画として記録できましたかしら?」

 片目がテレビカメラのレンズ、片耳を集音マイクに機械体空間転移させたゲシュタルトンが答える。

「しっかり撮影して、脳内編集したモノを惑星ザイイーネのインターネットに流しました……再生アクセス数がすでに、百万回を越えてさらに更新を続けています」

「きょほほほ……教頭の処分は、惑星ザイイーネの人たちに任せますわ。

さてと、それではネットいじめの件の仕上げといきますか……学園の体育館に全校生徒を集めなさい。ちょっとしたイベントを開催しますわ」


 数十分後……体育館に私立ググレカス学園の全生徒が集められた。

 何がはじまるのかと、ざわついている生徒たちの前でステージに上がった美鬼が生徒たちに向かって言った。

「きょほほほっ……わたくしの名は、美鬼アリアンロード──銀牙系の性悪女ですわ、下着は蛇皮の下着。好物は黄身が青い目玉焼きですわ……これから、みなさんには、このステージに上がって。夢がある人は、その夢を叫んでもらいます最初にグリフ・ヒロエ、ステージの上へ」

 生徒列の中から出てきたヒロエがステージに上がる。

 大勢の視線が集中する中、震えるヒロエの肩にそっと手を添えた美鬼が囁く。

「迷路でのコトを思い出しなさい……緊張しているのなら、カボチャかスイカの畑の中心で自分の夢を叫ぶのだと思うといいですわ……ほらっ、種を抜かれて顔を彫られたカボチャが畑に生えていますわ……夢があって自分を変えたいと思ったから、ステージに上がってきたのでしょう」


 一面のカボチャ畑を想像して、少し笑ったヒロエは深呼吸をするとステージの上から叫ぶ。

「あたしはネットでいじめられていた! とっても辛くて毎日泣いた! 死にたいと思ったコトをたくさんあった! でも、あたしは絵を描くことが好きだから『画家』になりたい! 多くの人に感銘や勇気や元気を与えるような絵を描く画家になりたい!」


 数秒間の沈黙の後、ポツポツと疎らな拍手が起こり、やがて体育館に響き渡る大拍手へと変わる。

 ヒロエに続いて、ラーマもステージに駆け上がって叫ぶ。

「ボクは『小説家』になりたい! 読んだ人の心に何かが届き残るような、そんな作品を書きたい!」

 生徒たちが、次々とステージに上がって夢を叫ぶ生徒主体のイベントへと変わっていく。

「オレは!」

「あたしは!」

 盛り上がる中……美鬼とゲシュタルトン、エントロピーヤン、アズラエル、鐙 総十郎は生徒たちに気づかれないように体育館から静かに出ていった。


 多くの生徒たちが自分の夢を叫ぶ中……ヒロエとラーマをネットでいじめていた。

 ジモ・ルーンを含む生徒たちだけは最後までステージに上がって叫ぶコトは……なかった。


 体育館から響く拍手と生徒たちの希望の叫びを聞きながら、私立ググレカス学園の校庭を横切り正門へと向かう美鬼が言った。

「この星での目安箱に届いた件も、終わってしまいましわね……二つの渓谷みたいな足跡を残せたから良しとしましょう」


 並んで歩く美神アズラエルが美鬼に質問する。

「そういえば、石棺の中にあった金色石板に浮かんだバルトアンデルス文字は、なんと書いてあったんですか?」

「きょほほほっ……あの板は書物ですわ、手にした人物が一番必要としている言葉を示す辞書みたいなモノですわ……そうですわね、一番わかりやすい言葉で現れた文字を翻訳すると」

 鐙 総十郎の背中に横座りをした美鬼は、熱帯魚の第一形態に戻ったナラカ号を見上げながら言った。

「『自信を持てば、何事も大丈夫』……ですわ」

 校庭を吹き抜ける、そよ風にシーサイドアップの金髪ツインテール髪が揺れる。

 空を見上げた美鬼アリアンロードは。

「気持ちがいい風と青空ですわ……きょほほほほほほっ」

 そう言って、いつもの笑い声を校庭に響かせた。

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