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第16話 心が弱い卑怯者と心の強き未来の勝者

 実はヒロエや他の生徒や教頭よりも早い朝焼けの時刻に美鬼から呼び出されていたラーマは、ある質問を受けていた。

「学園内外ではヒロエとラーマに口をきいただけで、ネット上に誹謗中傷が書き込まれていますわね……ヒロエが落とした荷物を拾っていても、あなた以外は書き込まれるコトを恐れて誰も助けようとはしない」


 美鬼の質問に唇を噛み締めるラーマ。

「ホームルームでヒロエに対するクラスのネットいじめを取り上げた教師でさえも、書き込まれた悪口に耐えきれずに学園を去っている──もしかして、ヒロエに接触してもいじめの対象になっていない人物が一人くらいいるのでは?」

 少し考えてから、ラーマはある人物の名を口にした。

「以前から気になっていたクラスメイトが一人……なぜ、この人だけ何も書かれないのか不思議だったんです」

 ラーマから、その人物の名前を聞いた美鬼は、意味ありな笑みを浮かべながら言った。

「やっぱりいましたわね……その人物がおそらくネットいじめを煽動(せんどう)している主犯格ですわ」


  ◆◆◆◆◆◆


 回想が終わったラーマが体を怒りに震わせながらルーンに問う。

「どうして、ヒロエをネットいじめのターゲットにしたの!」

「生け贄よ……クラスには生け贄が必要だったのよ」

「生け贄⁉」

「ザイイーネのインターネットシステムは人間の弱肉強食の本質を引き出すのよ! 自然界の摂理に従って弱いヤツは淘汰されて消えていくのよ! 才能なんて幻よ、叶うワケないじゃない……あんたもヒロエも現実を見たらどう」


「それだけの理由で……そんな、くだらない理由で……許さない」

 ラーマは近くに落ちていた先端が尖った金属を手にすると、ルーンに向かって泣き叫びながら振り下ろした。

「謝れ! ヒロエに謝れ! ボクに謝れ!」

 ヒロエ以上に、ネットいじめに耐えて心が悲鳴を上げていたのはラーマの方だった。

 咄嗟に、アズラエルがラーマがルーンに向かって振り下ろした金属棒を手刀で弾き飛ばす。

 弾き飛んだ錆びた金属棒は天井で、跳ね返りアズラエルの二の腕を貫通する。

 金属棒を腕に刺したまま、アズラエルがラーマに言った。

「やめておけ、心に二度と消えない傷を負って一生生きていくつもりか」

 傷口から血も出ない、表情も変えないアズラエルを見て、ラーマは泣き震えながらしゃがみ込み。アズラエルに詫びる。

「ごめんなさい……ごめんなさい……どんな罰でも受けます、天使さま」

「おまえなにを言っているんだ? オレは天使じゃない、血も涙も無い殺戮(さつりく)者だ」

 アズラエルは腕に刺さっていた金属棒を無造作に引き抜く、抜いた穴からも血は吹き出ない。


 アズラエルが、医術師カダの調合した万能薬を傷口に塗ると、すぐに傷に薄膜ができて再生した。

「いつの間にか、虫にでも刺されたかな? 刺した虫を処罰するヤツなんていないよな……立てよ、美鬼さまを追うぞ」

 手を差し出してラーマを立たせるアズラエル、その手は意外に温かった。

「他のアリアンロードの将も、美鬼さまの所に向かっているはずだ……もう少しだ頑張れ、とその前に」

 アズラエルが植物葉の翼を羽ばたかせると、鋭い結晶が壁へと飛んで突き刺さる。

 刺さった箇所から黒砂衆の黒い霧が漂い床に向かって流れる。

「ずっと、監視されていて気分が悪かったからな」

 何事も無かったように歩き出したアズラエルは、チラッと座り込んで失禁しているルーンを見て。

「逃げたら殺す、変な気を起こしても殺す、そこに座ったままでも殺す──死にたくなかったら立って前へ進め」

 そう言って睨んだ。


 美鬼アリアンロードとグリフ・ヒロエは、迷路の最深部へと近づきつつあった。

 美鬼が左右の壁に描かれた古代文字を見て呟く。

「どうやら、この古代遺跡迷路は『バルトアンデルス文明』のモノらしいですわ。バルトアンデルスの崇拝者である、わたくしには嬉しい限りの遺跡ですわ……わたくしのような熱烈なバルトアンデルスの崇拝者は自然と、引き寄せられるようですわね……きょほほほ」

 銀牙系には『デミウルゴス文明』が滅亡してから、しばらくして別次元からフラッと銀牙系に移住してきて数百億年栄え、去っていった謎の文明種族の『バルトアンデルス文明』がある。

 現在の銀牙系文明【シュミハザ文明】はデミウルゴスとバルトアンデルスの、二大古代文明科学遺産の恩恵で成り立っていた。

 織羅・レオノーラは『デミウルゴス』文明の遺産相続者。

 美鬼アリアンロードは『バルトアンデルス』文明の崇拝者だった。


 美鬼とヒロエはついに最深部にある、広い部屋に辿り着いた。

 部屋の中央にはバルトアンデルスの古代文字が装飾された、石棺のようなモノが置かれている。

 金属生命体の軍馬から下りて石棺に近づく美鬼。

「古代文明の鍵がされていますわね……後から来る、アリアンロードの将が到着するのを待ちますか」


 美鬼がそう言った時、部屋の中に陰気な男の声が聞こえた。

「待つだけムダだ……おまえは、二度とアリアンロードの将の顔を見るコトはない」

 部屋の中に猫目で黒衣姿をした、黒砂衆のリーダー格の男がいつの間にか立っていた。

 美鬼の甲高い笑い声が、狭い部屋に反響する。

「きょほほほほっ……惑星ザイイーネの暗殺集団『黒砂衆』ですわね。あなた方が現れるコトは予想していましたわ」

 特に驚いた様子もない美鬼に対して、黒砂衆の男は懐中から刃が湾曲した古代短剣を鞘から引き抜いて言った。

「アリアンロードの三将たちが、美鬼・アリアンロードから離れた、この時を待っていた」

「きょほほ、残念ながらアリアンロードの将は残っておりますわ」

「嘘をつけ、強がりのハッタリだ」

「強がりでも、ハッタリでもありませんわ……あら、なんだか眠くなってきましたわ……きょほ」

 美鬼は、その場に崩れるように倒れスースーと眠りはじめた。

 眠る美鬼に近づいた暗殺者が、迷路の中を流れる微風の風上から流した眠り粉で眠っている美鬼を見下ろす。

「他愛もない、夢を見ながら恐怖も感じずに死ぬがいい……眠ったままの死だ」

 黒衣の暗殺者は、怯えて立ち尽くしているヒロエの方を見て言った。


「安心しろ、おまえもすぐにあの世に送ってやる……ネットいじめを受けて将来に対する夢も希望も失った女子生徒が、地下迷路の閉鎖感に耐えきれず発狂して、衝動的に近くにいた美鬼・アリアンロードを刺し殺し、自分も命を絶つという筋書きだ──おまえに恨みはないが、運が悪かったと思って諦めろ」

 震えるヒロエは首を横に振って。

「いやっ……いやっ」 

 と、涙を流しながら嗚咽していた。

 黒砂衆の刃が眠る美鬼の喉元に迫った時……部屋の中に男性の声が聞こえてきた。


「それ以上の美鬼さまへの無礼は許さぬぞ……美鬼さまより離れよ下郎(げろう)

 黒砂衆の男は、怯えているヒロエに訊ねる。

「今の声はおまえか?」

 首を振って否定するヒロエ。

「では、誰が? まさか⁉」

 暗殺者は、金属生命体の軍馬を見た。

「おまえが、喋ったのか?」

「左様、拙者はアリアンロード十五将……第十将『(あぶみ) 総十郎』」

 片目が傷で塞がれた総十郎の馬体から、闘気のようなモノが吹き上がる。

 暗殺者は、総十郎の前足から肩までの高さが、美鬼が腰かけられるほどの高さしかない小型馬なのを鼻で笑った。

「おまえのような、小さい馬に何ができる」

「愚かな……本質が見抜けぬ男よのぅ、忠告しても美鬼さまから離れぬのならば排除するのみ」

 総十郎が、どこの言語かわからない奇妙な詩を詠みはじめた。

 意味はわからない詩歌に、なぜか暗殺者とヒロエの心は震え戦場の悲惨な情景が浮かび涙する。

 暗殺者から戦意が消えていく。


 総十郎が言った。

「お主の心にも届き見えたか……幾多の戦場を渡り歩き、見聞きした武士(もののふ)たちの悲劇を詠った戦場詩だ」

 戦場詩人──鐙総十郎の馬体が膨れ上がり、見上げるほどの巨馬となる。


「これが我が、本来の姿……滅せよ下郎」

 総十郎の後ろ足が暗殺者を壁に向かって弾き飛ばす。

「ぐぼぁ!」

 詩の効力で身動きができなかった、暗殺者の体はそのまま古代エジプトの壁画のように、奇妙なポーズで壁にめり込んだ。

 総十郎の馬体が空気が抜けるように縮むと、美鬼も眠りから覚めた。

「きょほっ……総十郎、わたくしの身を守ってくれたのですわね……感謝しますわ」

「アリアンロードの一将として当然のコトをしたまで……美鬼さまの、ありがたきお言葉。この鐙 総十郎、心に刻み一生忘れませぬ」


 その時、部屋の壁が爆殻の衝撃波で崩れ、分断されていたグループが美鬼と合流した。

「バフッ(美鬼さま)」

「ご無事だったでゲロス」

「きょほほほ、心配をかけてしまいましたわね……総十郎が助けてくれました」

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