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第1話・名も無き惑星にて 

【ウロボロスの蛇の呟き】


 レオノーラ、君が望む人生だったとしても。望まない人生だったとしても、次の人生サイクルはやってくる……尻尾をくわえたウロボロスの蛇のように。

 君の繰り返す人生の旅は終わらない。


~虫喰い惑星の酒場で、名も無き放浪詩人が織羅・レオノーラに呟いた言葉より~

 「あら? 移動していくのは三つ首の『多首長竜型植物巨獣』の群れだったかしら? 氷山の浮かぶ海原を移動していく、毛長首長海竜の群れだったような気も?」

 赤っぽい髪をした老婆は、そう呟いて首をかしげた。


 無法の旋律が奏でられる時──銀牙系の歴史が動き出すそれが『銀牙無法旋律』の響き。


 二つの星雲が交差衝突している別宇宙の【銀牙系】──宇宙海賊が暴れまわっていた、海賊大航海時代も終焉(しゅうえん)に近づいていた頃。


「今日の『極楽号』の残骸は、夕日を反射して、いつもよりも輝いて見えるわね」

 ロッキングチェアに座り、肩にタータンチェック柄のショールを掛けた、赤っぽい髪の老婆がそう呟いた。

 中破崩壊した球体の衛星級宇宙船『極楽号』の残骸リングが衛星軌道上に連なる、ラベンダー色の夕焼け空。

 銀牙系の、名も無き辺境惑星……赤い草原の中にある西部劇風の木造一軒家。


 入り口テラスに並べられた、ロッキングチェアに双子の老婆が座って草原を眺めている。

 草原の彼方には移動していく三つ首の『多首長竜型植物巨獣』の群れがラベンダー色に染まった夕日の中に見え。

 巨獣群の上空には、同じように植物の多葉を翼のように羽ばたかせ南下していく『翼竜型植物』の群れがいた。


 極楽号の内部に残っていた、エネルギーが思い出したように、宇宙空間に噴き出すのが見えた──まるで衛星火山の噴火のように、それを見たレオノーラが呟く。

「極楽号の機関部は完全に死んでいなかったみたい……まだ、船内のプラントに供給できる程度の熱量エネルギーは残っていたのね」

 青っぽい髪でインテリ眼鏡をかけた姉の老婆が、草原を眺めながら言った。


「南下していくアレは今年、発芽した子たちね……数年後に、この地にもどってきて地に根を張って実をつける」

 膝掛けをして揺れるロッキングチェアに座っている双子姉妹老婆の姉の髪は、灰色が混ざったくすんだ青色のスレートブルー色をしていて。

 シルバーグレイ色の房髪がエクスティションされているように数房、青い髪に走っている。

 妹の老婆の髪はくすんだコーラルピンク色をしていて、背中でバンダナで縛った先端がレグホーン色の箇所は、まるで老狐の尻尾のようだった。

 スレートブルー色の髪をした姉の老婆が呟く。


「また、今年も南下していく渡り植物たちの群れが見れたわね……来年、もどってくる群れが見れるかしらね」

 コーラルピンク髪をした妹の老婆が言った。

「大丈夫よ……また、草原一面を紫色に染める『忘れ娘草』の花と一緒に見られるわよ」

「そうね……楽しみね」

 青い髪の老婆は膝の上に乗せている、分厚い『銀牙法律書』の何度も読み返してボロボロになった表紙をシワが刻まれた手で撫でる。

 青い髪で眼鏡をした、タレ目気味の姉──『織羅・セレナーデ』が言った。


「ところで、レオノーラ……あなた、この前の誕生日でいくつになったの?」

 年齢を訊ねられた赤い髪で、上がり目気味の妹──『織羅・レオノーラ』が答える。

「二百二十歳よ……双子だから、セレナーデも同じ歳」

「そうだった……年齢を重ねると、物忘れが激しくなって自分の年齢を忘れたらダメね」

 草原を微風が吹き抜け、セレナーデは苦笑しながら言った。


「あたしね、時々思うの……銀牙系の秩序のために、法で銀牙に秩序を作ろうと若い時から奮闘してきたけれど。果たしてそれが正しかったのかって……レオノーラみたいに無法の世界に身を置いて、守るべき事柄が自然に生まれる世界の方が正しかったんじゃないかって」

 レオノーラは星が瞬きはじめた夜空に浮かぶ、今は動かない『極楽号』の残骸を見上げて言った。

「何が正しくて、何が正しくなかったかなんて……ボクにもわからない、ボクが身を置いた無法の世界が正しい世界の道標だったのか、間違っていた道標だったのかなんて……誰にもわからない、ただ」

 ミッドナイトブルー色に周囲が染まりはじめる中、レオノーラは膝上に乗せたカウガールハットを撫でる。


 光弾銃の弾痕が残る、レオノーラと幾多の冒険を供にしてきた、カウガールハットをいたわるようにシワのある手でレオノーラは撫でながら言った。

「セレナーデとボクは、自分の信じる道を懸命に歩んできた……それだけでいいんじゃない」

「無法者……『バグ』の妹に教えられたわね」

「元バグの泣き虫ガンファイターだけれどね」

 夜空に星雲の大河が輝きはじめると、大草原の小さな家に明かりが灯り、家の中から遮光器土偶タイプの異星人が出てきた。


 遮光(しゃこう)器土偶型異星人──織羅(おら)家財閥の執事『アラバキ夜左衛門』が言った。

「レオノーラさま、セレナーデさま、少し夜風が吹いてまいりました……そろそろ家の中に入っては?」

 レオノーラが答える。

「もう少しだけ……この場所で星を見させて、今夜の星は特別に綺麗な輝きだから」

「そうですか……何か温かいお飲みモノでも、お持ちしましょうか?」

「ホットミルクを一杯……それと、ボクの愛銃をココに持ってきて」

「銘銃『レオン・バントライン』をですか……わかりました。セレナーデさまは、いつものホットココアでよろしいですか?」

「ええっ、少し熱めでお願い」


 夜左衛門が室内にもどると、レオノーラがクスックスッ笑いはじめた。

 セレナーデが不思議そうな顔で笑っている妹に訊ねる。

「何を笑っているの?」

「ふっと、昔セレナーデがボクの身代わりで一人二役をやって、てんてこ舞いだったアノ事件を思い出して」

「アレは『極楽号』の衛星国家【サンドリヨン】の代表を名乗っていたレオノーラが、突然雲隠れしたからしかたなく」

「ボクの髪色ウィッグまで夜左衛門さんから渡されて、一人二役を演じていた姿は傑作だった」

「あなたね……」

 そこまで言ってからセレナーデも、クスクス笑いはじめた。

「お互いに若かったわね。今となってはすべて楽しい思い出……そうか、もう二百二十歳か長かったような短かったような」

 セレナーデは微笑みながら、老婆の目を静かに閉じる。

 夜左衛門がガンホルスターに収まった黄金色に輝く、銃身が長い大型光弾銃を持ってきて。レオノーラに銘銃の光弾銃を手渡す。


「レオノーラさま愛用の『レオン・バントライン』でございます……ミルクとココアは、すぐにお持ちしますので」

 うなずいたレオノーラは、ホルスターから抜いて膝に乗せた黄金の大型光弾銃を撫でた。

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