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第09話 死闘とガルム その2

「ウワァァーーッ!」


『グルァァァーーッ!』


 ぼくの叫びとガルムの咆哮が重なり合った。

 ガルムは、背から尻尾に掛けて地獄を連想させる紫色の炎を纏い、牙を突き立てるべく飛び込んできた。

 ぼくは横に一回転すると息つく間も置かずに剣を振るう。

 でも。

 瞬発力の差から掠ることすらできない。


「もう逃げてなんかやるもんか――ッ!」


 獲物(ぼく)を鋭く見据える金色の瞳から、ぼくは目を離さない。

 注意すべきは牙と爪。

 そして、背中から生えている鮫の背ビレのように突き出した二対の骨だ。あの骨と紫色の炎があるせいで、ガルムの背後から掴みかかることもできない。

 毛や皮に包まれることのない紫の炎の海を泳ぐ剥き出しの骨は、鋭さで言えばぼくの持つボロボロの剣よりも上だろう。

 いや……唯一、短剣だけなら互角かもしれない。

 そう思わせる程度に鈍くも禍々しい光沢を放っている。


『グルルゥ……グルァーッ!』


 左右に飛び跳ねながら距離を詰めてくるガルム。素早さは明らかに相手のほうが上だ。違う、ぼくが勝っている部分を探すほうが難しい。

 それでも、ぼくはガルムに向かって地を蹴った。全身の力を込め、下から掬い上げるように振るった剣はまたも空を斬る。

 そしてガルムはその隙を逃すことはなかった。

 グチリ――と。

 ぼくが振り上げた無防備な左腕にその牙を突き立てた。


「ぐ――ッ! うぐぅ! い……いたッ――(いた)く……なんて――ないッ!」


 飛びつかれた勢いのままに引きずられていく中で、ぼくは気が付いた。相手に牙を突き立てられている今こそが、一番相手に近い――と。

 砂埃を巻き上げる足に力を入れ、右手に力を込める。

 そして逆手に持った短剣を。

 ズプリ――とガルムの右眼に突き刺した。

 感触が右手から全身に伝播していく。あまりにも生々しい感触だった。歯を軋ませながら、緩みそうになる手に力を込め抉るように手首を捻った。


『グガァッ! グルァァァァァァ――ッッ!』


 狂ったように頭を振り回すガルム。

 その悲鳴にも似た声を上げた時、突き立てられた牙がぼくの腕から離れ、それと同時にぼくは吹き飛ばされていく。


(いつ)っ――ぐっ……! ど……どうだァーッ! 初めてお前に傷を負わせてやったぞ……ッ!」


 短剣は突き刺さったまま。

 魔獣(まじゅー)特有の紫色の血が涙のように溢れ出している。

 発狂するような叫びから、唸り声に変わった時、憤怒の色に染められた金の瞳がぼくの姿を映し出した。

 ぼくだって……もう目を逸らさない――はずだった。

 いや、逸らしてはいない。

 相手を捉えていても、それでも反応できない速度でガルムが跳躍を繰り出したんだ。


『グルァァ――ッ!』


 強靭な爪が剣を弾き飛ばし、そのまま胸元を抉り裂いた。


「いぎぃーッ! こ……のォォォ――ッ!」


 とっさに腰に差していた剣を抜き、突き出した。

 ガルムの爪の間に突き刺さり、切れ目をなぞっていくように深々と切り裂いていく。あんな爪の一撃を受けてもまだ反撃できるという事実に、ぼく自身が一番驚いていたかもしれない。

 でも、ガルムが怯むことなく背中をぼくに擦り付けるように、突進しながら回転すると突起した鋭い骨がぼくのお腹を搔きむしっていく。


「うぐっ――ゲグブッ! ……うぷっ!」


 痛みの声と共に喉を満たす赤黒い血を我慢することができず、吐き出すと幸運にも相手の残った目にかかり、ガルムは弾けるように後退した。

 朱色に染まったぼくと、紫色に染まったガルムが向かい合う。噛み千切られかけた左腕がほとんど動かない。それでもぼくは申し訳程度に剣の柄に添えた。

 ぼくの全部をぶつけるんだ……

 だから後少しだけ……


「お……おぉ……――ガアァァァァァ――ッ!」


 ぼくは最後の力を折れた剣と足に託し、獣の如き咆哮と共に跳び出した。そしてガルムも牙を剥き出しにこれまで見せたことのない大跳躍を繰り出す。

 これが最後の接触だということを……ぼくはなぜか感じ取っていた。それはきっとガルムも同じだったと、なぜかそう思った。


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