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第61話 あの時と真実

「何事もなく着いちゃったねぇ……」

『グルゥ~……』

『ヴォゥ……』


 ぼくたちは砂漠に降り立っている。どこかと言えば、それは東側の崖の(ふち)と言うことだ。

 ポチとプチは揃って『ボクに恐れをなして魔獣たちも手が出せなかったか……』と生後二年に満たないふたりで、渋みを醸し出した表情を見せているところだ。

 砂漠の渇いた風が、とても素敵な演出をしてくれていることに感謝したほうがいい。


「まだ目を覚まさないみたいだけど……魔力液は飲ませたし……様子を見るしかないよなぁ……」

『グルグルッ』


 橋の上でも彼女は目を覚ますことがなかった。

 休憩の間に水を口に含ませたりはしていたけど、大丈夫かちょっと心配でもあった。それを見かねたプチが結局折れてくれる形になり、最後の魔力液を飲ませることを承諾してくれたのが唯一の救いと言えば救いだ。

 ついでに胸元と手にも塗っておいたけど。

 なんだかんだでプチも優しく育ってくれたようで、なんとも温かくそして、誇らしい気持ちにしてくれる。

 ポチが何か含んだ笑いを俯き加減にしていることが多少気掛かりではあるけど。プチが結局折れたことに対してだろうか。


「ま……まぁ何かあることに慣れすぎるのも良くないよな……――で……村はあっちなんだけど……少し……寄り道していいかな?」


 やや疑惑の眼差しを向けながらも頷いてくれるふたり。

 そこからぼくたちは崖に沿って、北上していくこととなった。



「双子岩があそこ。そんで水溜まり(オアシス)があっちだから……ここらへん……かな」


 ぼくたちはさっきと特に変わらない砂漠に立っている。

 目に見えるのは一面の砂と巨大な岩。そして大きな口を開ける崖だけだ。


『ヴォゥ……?』

「うん……ここらへんでぼくたちは魔獣に襲われたんだ。で、ぼくだけがここから落ちていった。そして……お前たちの親――大爪(おおづめ)三本角(さんぼんづの)と出会うことになったんだ。やっと……戻ってこれた……結局……三年かかっちゃったな……」


 ぼくがありのままの事実を告げると、ポチが鼻を掲げヒクつかせはじめ、プチも鼻を砂地に突っ込み始めている。

 最初は何をしているのか理解ができなかったけど、その意味をぼくに形付きで示してくれるとは思ってもいなかった。


『グルゥ……グル……』


 ポチが二度、砂の中へ鼻を突っ込んだ後、ぼくの元へ歩いてくる。その牙に引っかかっているのは、鎖が切れた二つの首飾りだった。


「それ……もしかして……」


 ぼくの村の風習だ。

 身に付ける装飾品(アクセサリー)に、名前と髪を詰める。

 受け取って開くとそれはぼくの(とー)ちゃんと(かー)ちゃんのものだった。ふたりの首飾りの中には、自分の髪の毛の他にぼくの髪も一緒に入っていた。


「ははっ……そうだよね。ふたりとはぐれちゃったらあの頃のぼくじゃ死ぬしかなかったはずだよね。でも……生きてるよ。とても頼りになる弟たちのおかげで……だから……安心して見守っていて……ほしい」


『ヴォ~ゥ……』


 プチが崖ぎりぎりまで進み喉を鳴らした。

 角先で砂を払う仕草をするとそこから出てきたのは、崖下でも見かけた『泡筒』だった。


「この首飾りと……同じ匂いがするって……? それって……――ッ!」


 はっきりと思い出した。

 (かー)ちゃんが伸ばした腕の先にこの道具を握っていたことを。

 ぼくに向かって泡を放ち、僅かな望みに賭けたことを。


 そして最後に「生きて」と囁いたことを。


「そ――うだ……ぼくが……この高さで生き残れたのは……(かー)ちゃんが……――」


 それ以上……言葉を紡ぐことができない。

 止めることができない涙。

 ぐしゃぐしゃの顔を必死で拭い、渇いた砂漠の地に嗚咽の声を漏らすことしかできなかった。


 そんなぼくにポチとプチはただ……黙って寄り添っていてくれた。


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