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第57話 ひとと魔獣

「……どした? 怖いのか? それはぼくも一緒だぞ?」

『グルゥ……』

『ヴォゥ……』


 ふたりが口を揃えた。

 『村に戻れるなら、ボクたちが一緒にいてはおかしいんじゃないか……』と。

 ひとと大蛇(だいじゃ)の関係を聞いたことも原因の一つかもしれない。崖下では多種多様の魔獣が生息していたからこそ、特に気にすることも気にできる状況でもなかったこともある。


 ふたりにとって、『ひと』とはぼくを指すものだった。


 様々な種族がいる魔獣の中のひとつ、と考えてもいい程度の認識だ。

 そして類似の種族は群れるということも認識の一つだ。

 ぼくがその群れに帰るという解釈をした結果、この選択をとったのだろう。

 自分たちとは違う。

 そんなことを考えてこの選択を取らざるを得なかったんだろう。


「ふたりが崖下の生活を望むならぼくは止める気はない……けど」


 踵を返しふたりの元へ歩み寄る。そして……それぞれの頭に手を添えた。


「そうじゃないなら……何もおかしいことはない。一緒に……行こう」

『グルゥ……』

『ヴォゥ……』


 ふたりの瞳は不安気に揺れている。ふたりにとっては未知の世界である以上、当たり前だ。

 分からない、と言う事は期待が詰まる可能性を秘めているけど、同時に不安という黒い靄が蔓延る可能性だって十分にある。

 でも、それ以上に当たり前のことをぼくは知っている。


「何を言ってるんだよ。『兄弟』なんだから一緒に暮らすのは当たり前だろ? 独立するのはもう少し大きくなってからだ」


 俯いていたふたりが顔をあげた。その瞳に星にも似た輝きを伴いながら。崖上(ここ)に着いてからずっとその想いがあったのだろうか。

 だとすればぼくの失敗だ。

 ぼくにとって、もう一緒にいることは当たり前すぎて、その気持ちまで汲んであげられていなかった。


 ひとと魔獣は相容れない。


 そんなことを思うやつは『魔獣』という括りで知った気になってるやつだ。

 ふたりがどれだけ自分たちの身を挺してぼくを守ってくれたのか、それはぼく自身が一番理解している。

 そしてぼく自身も……そんな気持ちに少しでも……――報いたい。

 それでも魔獣を恐れるひとはいるかもしれない。それはそれで仕方のないことだ。事実ぼくだって崖下に落ちる前は、多分に漏れず怯えるばかりだったのだから。

 そうなったのなら、ぼくもふたりと共に安住の地を探す冒険をしたっていい。

 ぼくたちは崖下の地獄を駆け抜けたあらゆる意味で頼りになる兄弟だ。崖下より広いこの世界なら、危ない時だって飄々と逃げ切ってみせるさ。


「不安にさせてごめんな。でもこれで……ちゃんと……ぼくたちの目的は一緒になったな……!」

『グルゥゥゥ~ッ!』

『ヴォ~ゥッ!』


 だから、ぼくは弟たちをがっちりと。離さないぞ! って言葉の代わりに抱きしめる。覚えたての難しい言葉で気持ちを並べることが軽いとは思わない。

 でも……それよりも、ぼくたちはこうすることが一番伝わると思ってるから。

 首元にうずまるふたりの温もりが、ぼくにゆっくりと浸透していく。そしてふたりもぼくの温もりを覚えて安心したのか、強張っていた体の力が抜けていくことを感じた。

 でも……

 後は村に帰るだけ――なんて共通の思いとは裏腹に。


 この最後の最後であんなことが起きるなんて、この時ぼくたちの誰もが知る由もなかったんだ。


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