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第46話 血戦と大蛇 その3

 ビキリ――一本目の長剣(きば)が断末魔の呻きをあげた。大蛇(やつ)の鱗と羽根を斬っただけにも関わらず、だ。

 あまりにも耐久が足りない。というより、すでにもう一本にもひびが入っているって……どれだけ硬いんだよ……


「プチィィィーッ!」


 ポチが咄嗟に足場を作ると、プチは強靭なかぎ爪を掛け、ぼくに向かって一直線に飛ぶ。空中ですれ違い様、プチに巻き付けていた長剣(きば)を抜き去る。


「こんのォ……――ッ!」


 ぼくは腰に備えていた短剣代わりの爪を大蛇(やつ)のギラつく双眸に向かって投げた。目は魔獣の弱点の定番だ。何よりも魔獣の魔力は瞳に集中することが多い。だからこそ……大蛇(やつ)の守りも堅固なものだった。

 甲高い音と共に爪が弾かれる。

 プチが後方から炎の角を放つも、同様に表面を撫でるに留まり、傷を負わせることができない。


「瞳で弾いた……!?」


 透明な瞼? 鱗? ともかく膜が張っている。

 お前は魔獣だろうが……!!


「いらないところで蛇の真似をするんじゃねえよ――ッ!」


 それでもやはり瞳に対する攻撃には過敏なのか、ぼくに向かって顔を向けた。大蛇(やつ)の正面は危険すぎる。かつてプチの装甲すら容易く貫いた牙は受ける(すべ)がない。

 壁面を大地の代わりに蹴り、頭を飛び越えようとするぼくを注視しているが、その行動じたいがミスだ。

 眼が膜で覆われていたことは想定外だとしても、ぼくたちの目的は達成できる。


『グガァアァアア――――ッ!』


 ポチが背後から特大の岩の突起を大蛇の首元へ突き立てる。それでも砕けたのは岩だ。

 さらに砕けた岩を搔い潜り、強靭な魔力を通した爪を首元へ叩き込む。鱗が呻きをあげるようにひび割れを広げるが、割るにはあと一手が必要だ。


 大蛇(やつ)は振り払うようにその身をうねらせる。

 さらに羽根を飛ばすが、ポチは首元から飛び退いた後だ。大蛇(やつ)も煩わしいと感じているのか、明らかに圧の質が変わり地に降り立ったポチを見据えた。

 間を空けることなく、ぼくが瞳に向かって牙を投げつけるがすでに意に介さず、ポチから目を離すことがなかった。

 が――


『ヴォオォオオ――――ッ!』


 さらに首元へ背後からプチの灼熱の角が突き刺さると。僅かな拮抗を見せた後、耐久の限界を超えた一枚の鱗が、渇いた音を立てて砕け散った。


「よくやった――ッ!」


 プチがさらに角を無防備な鱗に突き立てていく。だが、いつまでも好き勝手にさせるほど、太古の魔獣は愚かでもなかった。

 体を伸ばし、背を擦り付けるように岩壁に沿って上昇を始めた。

 ポチが魔法で岩肌を窪ませるが、お構いなしと言わんばかりにその巨躯を押し付け引き潰していく。

 見る見るうちに高度を上げていき、プチの体が豆よりも小さくなったとき。


『ヴォオ……オゥ……』


 削りきられる前に、突き刺しておくことさえも困難になったプチが遥か上空で剥がされる。

 この高さはまずい――


「プチッ!」


 反応がない。意識が混濁していることを示すように放り出されたプチは四肢を投げ出すように落下している。

 ぼくが叫んだ時、ポチがすでに岩を繰り出していたが。


「――なッ!?」


 大蛇(やつ)が暴風を圧縮した魔力の弾を狙い定めることなく乱れ撃っていた。そのうちの一つがプチに直撃し、落下速度がさらにあがる。

 プチを支えるべく繰り出した岩は砕かれ、ポチの胴体に暴風の弾が耳障りの悪い音を奏でながら突き刺さった。


「――ポチッ!? く――そッ!」


 それでも今はプチが先だ。あの高さあの速度で地面に叩きつけられたらいくら頑丈なプチでも……

 崩れ落ちる崖を駆け上がり、プチに向かって跳躍を繰り出す。

 両手の長剣(きば)で、プチの脇腹を抉り続けている魔力弾を斬り刻むと長剣(きば)が砕け散るも弾を掻き消すことに成功した。


「プチ! 目を回してる場合じゃねえぞ――ッ!」


 このままじゃ間に合わない。


「くっそ――ッ!! ならせめて!」


 プチとぼくの位置を()()()()()

 無意識に叩きつけられるより、ぼくが着地の衝撃に耐えるほうがまだマシなはずだ。ぼくの足が砕けたなら、ポチかプチに乗って戦えばいい。


「足だけで……済んでくれよ……――ッ!」


 そのときだ。

 腰に下げていた道具が降下の勢いに揺られながら、眼前に現れた。


「……これ……泡筒(あわづつ)……いや――迷ってる場合じゃないッ!」


 真下に向けて一度……二度――幾度も筒を握る。放たれた泡は落下中のぼくらに付着するといくつもの泡が膨らみぼくたちの体を覆い尽くしていくが……


「くっそ――ッ!! 浮力が弱いのは分かっていたけど――」


 落下の勢いが緩んだ気配は感じることができなかった。


「プチッ! せめて目を覚ませェーッ!」


 叫び声だけが空しく響き、プチは目を覚まさぬままに、ぼくたちは大地に突き刺さった。


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