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第44話 血戦と大蛇 その1

「くっそ……結局箱と杯くらいしか見つからなかった……」


 ぼくたちは入口付近の建物で夜を過ごし、改めて出発していた。

 箱と杯はそのまま放ってきている。装飾品とか歴史的な意味合いでは貴重かもしれないけど、今ぼくたちに必要なのはあの大蛇を倒しうる情報か武器だけだ。


「古代の魔獣はアホみたいに強いって言うけど、結局挑むんだから一緒だよなぁ……」

『グルゥ~……!』

『ヴォ~ゥ……!』


 ふたり揃って『若さが勝つ』的なことを言っている。魔獣って年齢みたいな概念持ってるのかな……

 時が経ったら衰えるみたいな印象ないんだけどな。むしろ長い年月を生きるほど魔力を蓄えてるような……


「ん~そろそろ警戒していきたいな。崖同士の間隔が狭くなってきた」


 ぼくたちが生活していた場所と違って、ここは崖同士が近く道幅が狭くなってくる。崖下の道幅は狭いと言っても歩けば一日くらいかかるけど。

 遥か上に見える崖同士も見上げれば両方の崖が見える程度には近い。

 だからこそ問題が起きる。

 道幅が制限されることで、魔獣との遭遇頻度が格段に跳ね上がるからだ。

 おまけに、


「しかも大蛇(あいつ)竜巻(まほう)で木々が吹き飛んで……すっかり荒野みたいなもんだもんなぁ……」

『グル……』

『ヴォゥ……』


 見通しもよくなっていた。

 草木という皮を剥がされた痛々しい大地を歩き始めると、ポチは頻繁に鼻を掲げ匂いを気にする素振りが目立つ。

 ぼくと同じく先に気が付きたいという気持ちの表れだろう。


「剝げた土地だけど、魔獣も一緒に吹き飛ばされたのかな? 物静かなのはありがたいね」

『ヴォゥ』


 以前来た時はかなりの数の魔獣と戦闘を繰り広げた区域だ。頻繁に休息をとったことをよく覚えている。

 そしてぼくよりも魔力の機微を敏感に感じ取るポチとプチは、すでにヒリついた空気を醸し出している。


「…………使い勝手が悪いって思ってたけど……ぼくの感知も捨てたもんじゃないかもしれないな」


 遥か上空。

 ところどころで崖の岩が突き出しているため、()()目視は不可能な場所だ。


「思った通り……やつの探知範囲はポチとプチよりも広そうだね」


 ふたりがぼくに続いて顔をあげる。

 きっと探知じたいも視線の先に集中しているだろうけど、距離が遠すぎるみたいだ。


「そういう意味でいうとぼくの感知は意識を向けられてれば距離は関係なさそうってことかな……?」

『グル……?』

『ヴォゥ……?』


 思わぬ収穫かもしれない。

 先手を取ることはできなくても、相手が気が付いたことに、ぼくは気が付くことができるということだ。

 長剣(きば)を握りしめる手に自然と力がこもる。


「うん。かなりの距離だけど……ぼんやりとぼくたちの周辺を認識しているみたい」


 ぼくの言葉を受けると。

 ポチが牙を軋ませ、プチは角に熱の収束が始まっているのかチリチリと空気を焦がす音を発し始めた。


『グル……グルッ! グルルルルルゥ――ッ!』

『ヴォゥ! ヴォオオオオゥッ!』


 あれだけの距離があったにも関わらず、すでにふたりの探知範囲に入ったようだ。そこで上空の突き出した岩からまるで糸のような物体が渦を描き飛び出した。


「さぁ……半年前のぼくらとは何もかもが違うってところを見せてやろうか……ヒノ。行くぞッ! ポチ! プチ! いいな……!」

『グルルルルルゥッ!』

『ヴォゥ……! ヴォオゥッ!』


 ぼくの声に雄叫びを以て答えるふたり。

 その間も上空から飛び出た影は、見る見るうちにその巨大な姿を露わに舞い降りてきてる。そしてぼくたちをはっきりと認識したことを、ぼくの魔力が感じ取った。


「あのとき……戯れなのか、ぼくたちに(とど)めを刺さなかったことを後悔させてやろうか……――ッ!」

『グルゥ――ッ!』

『ヴォオ――ッ!』


 この戦いはぼくたちの崖下の集大成だ。


 強力な武器がなかった?

 半年間で集めた牙や爪で十分だ。


 古代の魔獣は凶悪?

 重要なのは今を生きる力だ。


 そして何より――

 ぼくにはヒノ。そして……弟たちがいる。

 それが一番大切なことでそれ以外は些末なことだ。

 どんな困難にも共に立ち向かった大切な――かけがえのない家族の絆がぼくの最も誇れる『力』だ。

 だから――


 ぼくたちの全てを懸けて、この地獄から這い上がってやる。


「――〈始まりの火を灯せ〉」


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