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第43話 ぼくと遺跡 その3

「この真下からってことは……埋まってるのか……」

『ヴォゥ……ヴォ~ゥ』


 崩落の残骸が敷き詰められた地。その上にぼくたちは降り立っていた。

 プチがすかさず辺り一面を照らすために、炎をばら撒いている。

 お兄ちゃんの火は不要みたいだ。


『グルルゥ……グル~……!』

「うん。しかも大蛇(あいつ)の魔力の匂いそのものっぽいって……なんだあいつ……負けて埋められたのか? 微弱な匂いみたいだし」


 答え合わせをするには掘るしかない。

 ここまで来て確かめずに帰ることなどできやしないのだから。


「よし……なんか平たいモノ持ってくるべきだったな。剣じゃ掘りづらいし――」

『グルゥ~……』


 ポチの一声でぼくの前の地面に『窪み』ができる。黙って見ていると窪みはさらに亀裂となり、やがてぼくの目の前で大地が割れた。

 突起の応用なんだろうけど、ちょっと万能過ぎじゃない?


「色々思うことはあるんだけど、今はありがとうだけにしとくね。――で……あれから匂いが出てる?」


 亀裂の奥深くに目を向けると、金色の箱と金色の杯が転がっていた。その身が土に塗れながらも輝きは失われていなかった。

 杯はもちろん空だし、箱は空いている状態だ。ポチが顎を引いたことを確認するとぼくは飛び降りた。


「やっぱぼくじゃ何もわからないな……金ピカで豪華だって感想しか湧いてこない」


 箱も杯もぼくが片手で持てる程度の大きさだ。ふたりに見せるべく、持ってふたりの元へ駆け上がる。

 ふたりの前に置くと鼻をスンスンと鳴らしながら匂いを探っている。

 するとふたりが顔を見合わせた後、ぼくに告げた。


「この箱に匂いがこびりついてるの? え……それって……」


 ぼくはここに下りる前の壁画を思い出していた。あのように絵を残す場合、それは何かを伝えるために残すものだ。

 一つはここにこんな素晴らしい精霊がいた、という可能性。

 そしてもう一つは……


「この中にあの大蛇(だいじゃ)が封印されてたってこと……?」


 ここに凶悪な魔獣がいる、という警告だ。

 そして現状を見れば壁画は後者を指し示しており、ぼくたちにとって凶兆以外の何者でもない。

 さすがにこんな小さな箱から……そんな思考は目の前のふたりを見て過ちだと気が付いた。

 繭と似たような原理で入っていた?

 なら杯は……繭の中を満たしていた魔力液が注がれていた?


「飛躍しすぎかな……でも、それならあの天井の抉られた跡は、あいつが飛び出て行った時にできたものだとも言える」


 ぼくが思考の渦に囚われていると、ポチとプチが亀裂の底へ降りていく。


『グルゥ~……!』

『ヴォ~ゥ……!』


 ポチが前足で叩く場所をプチが角先の炎で照らし出している。ぼくも続くとそれは石碑のような文字が刻まれた石だと分かった。

 文字は家屋にも刻まれていた文字だと思う。


「……? んと……『(よく)』……これ『(ふかい)』かな? 『(もの)』……『(さばき)』……? 『(すべて)』……『(つらぬく)』? 『(へび)』……『(きば)』……削れててちょっとこれ以上無理だな……」


 書いてる文字が不吉すぎる。

 どっちだ。

 裁きを下す側があの大蛇なのか、それとも大蛇が下されて封印でもされたのか。

 それと牙ってあいつの牙のことか?

 いや……どちらにせよ……かな。


「最後はこれ名前か? 『ヨルゲン・オーヴェ・オークランス』、ここだけひび割れしてても残ってるけど、名前部分とか一番不要だよね……」


 明らかに他部分の石碑素材と違う。力の入れ所を完全に間違えてる。

 一番伝えたい所ってそこなの……?


『グル……』

『ヴォゥ……』


 ふたりも揃って同意のため息を弱々しく吐き出している。

 その後、しばらく周辺を探ると箱は見つからなかったけど、杯はたくさん見つかった。

 欠けている物、割れている物、そして土塗れでも完品として残っている物どれも見つけたけど、結局どれにも匂いは付着していなかった。

 そもそも杯なんて儀式的な要素で使うほうが多いはずだ。

 祀るなり封印するなりしていた頃は、何かでこの杯は満たされていただけで、今はもう空の器でしかない。


「これ……正確なこと分からないけど年代物ってことだよね? はぁ~……なんか古代の強力な武器の一つくらい残っててくれよぉ……だって今分かってる情報を繋ぎ合わせたらさ……」

『グル……』

『ヴォゥ……』


 あまりにも収穫がなさすぎる。

 わかったことは最悪の事実ただ一つだけだ。


「あの大蛇。太古の魔獣ってことだよね」


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