第40話 ぼくと魔術道具
「……?」
あれから二日。
多少の魔獣と交戦を挟みつつも、ぼくたちの進行に影響はなかった。そんな中で珍しく中央地帯で、形が残っているひとの骨と遺品を見つけた。大事そうに抱えているリュックもすでに風雨でボロボロの状態だ。
「このひとも調査に下りて来たひとなのかな……?」
『グルゥ……』
『ヴォゥ……』
どんなひとだったのかは分からないけど、ぼくたちはしばらくの間、瞼を下げ祈りを捧げた。このまま風雨に晒され続けるのも可哀そうということで、穴を掘って骨を埋める。
そこで、一緒にリュックも埋めようと手に取るとすでにボロボロだったリュックは崩れ去るようにその中身を地面にばら撒いた。
「む……? なんだこれ?」
『ルゥ……?』
手に持てるサイズの筒状の道具だ。ミノムシが蓑を葉で作ったような色と形をしているけど、自然のものではなさそうだ。水を入れる筒代わりだろうか。それにしては小さすぎるけど。
「そんなに固くないし……握ると潰れ……あっ――」
『ヴォゥ?』
筒を何気に握りしめると先端から小指の先ほどの粒のような『泡』が飛び出てくる。結構な勢いで飛び出し、先端を向けていた方へ突き進み……
木に触れると小指の先ほどだった泡が、フワリ――とぼくの顔を包み込めるほどの大きさになった。
「何かに使えるかも? 悪いけどこの筒はもらっておこう。代わりにしっかり埋葬をしてあげることでチャラにしてもらおう……大事に使わせてもらうね。え~っとふろり~……フロリア・ゴティエさん」
道具も一緒に――と思っていたけど、何か利用できるならと、この筒をもらいうけ骨を納めた穴を埋める。
名前は薄い鉱石に刻まれていた。
この鉱石は自分を識別してもらうために持ち歩いていたものなんだと思う。きっと危険な場所を調査する以上、命の危険も承知だったのだろう。
「どこのひともやっぱり似たようなことを考えるんだなぁ……」
ぼくがいた村でも似たようなものがあるので気持ちはよく分かる。緩めの装飾品に、名前と髪を詰める風習だ。
行方知れずとなった場合、基本的に死んだとみなされる。けど、遺された家族とかは頑なに信じないことが多い。
信じないというより、信じたくない――と言うほうが正しいんだろうけど。
どこかで生きている。きっと逃げ延びている。
想ってくれる家族が踏ん切りをつける意味もあると言っていたけど、突発的な死を迎える場合、その装飾品をその場に残すそうだ。
「もしも崖の上に戻ってあなたの家族と出会うことがあれば、ちゃんと……伝えるからね」
緩めなのは外しやすくするため。
この骨と同じように、朽ちていても誰だったのかが分かるし、魔獣に体を食べられたとしても装飾品は残ることが多い。
不意に外れてしまうこともあるから、古い風習という認識のひとが多かったように思えた。
「なんかぼくもそういうもの持ってたほうがいいのかな……まぁ……ぼくは死んだら自然に還るだけでいいかな」
これで三名の名前をこの崖下で知ることになった。
残りの二名は手記を残していたひとたちだ。
『クリストフ・ラフォン』
『マノン・ルフェーブル』
特にマノンさんの手記は読みやすいし分かりやすかった。
『ヴォ~ゥ』
そんなことを考えていると、ポチが魔法の行使で石碑代わりに岩を打ち立てる。最後にもう一度祈りを捧げると、ぼくたちは筒の扱い方に思考を向けることとなった。
「魔術の道具っぽいな……この泡じたいがきっと魔術なんだろうけど……問題は……」
そう、使い方が分からない。
村で生活していた頃、魔術を使える道具を利用したことがないわけではない。でも、単純にそういう道具は高いので、よく目にするとはとても言えなかった。国に属する町とか村ならもっと利用頻度は高いんだろうけど……
『ヴォゥ……ォゥォゥ』
ぼくが唇に指を当て、思案に耽ってる風を装って何も考えないでいると、好奇心旺盛なプチが角で木に引っ付いた泡を突っついている。
「割れない……のか。そこそこの耐久も備えてるってことか」
指先で触れてみると粘着力があり、弾力も強い。本物の泡のようにすぐに割れるようなものではないということが分かった。
そして試しに足元へ撃ってみる。すると、泡はぼくを持ち上げるほどの膨らみを見せ、なおかつ割れることもない。
足に張り付いた泡を剥がしても、まだ割れることはなく持ってみた感じ浮力も感じる。
「なんかこれ浮きそうだな」
泡の粘着力で土も付着していた状態だったが、手を離すとゆっくり……静かに上空へ浮き上がっていく。
『グルゥ……!』
『ヴォ……!』
そこで、ぼくたちは同時に気が付いた。
「これ……空を浮くことができる道具か!?」
『ヴォゥ! ヴォ~ゥ!』
プチが自分のお腹に撃てと催促を始める。
いや、お前の体は無理だろう。
そう思いつつ撃ち込むが……お腹で泡が成長するも、プチの体は一切浮く気配がない。
うん。知ってた。
『グルゥ……!』
同じくポチもダメ。
知ってるか。これはひと向けに作ってあるんだぞ。
そして。
結論から言うとぼくも浮くことはできなかった。
一度、空中に撃ち出して捕まえたりも試してみたけど、浮き上がることはできず、泡と一緒にゆらゆらとゆっくり落ちてくるだけだった。
「使い方が違うっぽいな……水に潜る時の呼吸用? それも無理だよな……かなり弾力があるっていっても顔入れられないし……とりあえず泡筒と名付けよう」
初めて壊れていない道具を見つけはしたものの、ぼくたちの知識では現状有効活用ができそうにもない。
それでも、何かに――という思いから、お守り代わりとは言わないけど、腰にブラ下げておくことでこの件は一段落を迎えることとなった。
この道具じたいの活用方法は分からなかった。もしかしたら遊びの範疇なのかもしれない。
でも……
遊びの最中だからこそ、見つけられるものだってある。
ぼくはふたりを手招きしつつ、岩壁に向かって歩き出した。




