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第37話 集大成と最後の一歩

 手記を書いたひとたちの時代にも存在していたようだけど、その頃は崖上から下る道のりをナワバリにはしていなかったんだろう。

 そんなぼくらが殺されかけた魔獣『ルコアトルス』。手記では、飛んでる姿を目視しだだけで生を諦めかけたそうだ。神話の産物とされていたはずが、いつの間にか自分が迷い込んだかのように記されていた。


 蛇のような体を持ちながらも、二対四枚の羽毛に包まれた羽を持つ魔獣だ。体躯――全長的な意味でいえば、この崖下で見た魔獣の中で一番でかい、というか長い。

 鳥型のほうがまだよかったかもしれない。

 地上の障害物を利用することで有利に戦うことができる。でも、蛇のようにしなやかな体は地上に降りてなお、滑らかな動きを損なうことがなかった。

 おまけにやつの放つ魔法は、強大な竜巻そのものだった。周辺の巨木を、まるで草を毟るように巻き込んで暴風圏を作り出す。


 最後の最後もプチの全力の炎を打ち込み、ポチの全開の岩壁で防御をしたからこそ、ぼくたちは致命傷程度で済んだ、と今でも心から思っている。竜巻に途轍もない高度まで巻き上げられたことまでは覚えてるけど意識はそこで途切れていた。

 意識を失っていた――余計な力が入らなかったのが功を奏したのだろうか、岩壁の岩の上でぼくたちは奇跡的に目を覚ますことになった。

 魔力液がなかったら、仲良くもう一度眠ることになっていただろう。次は目覚めることはないけど。


大爪(おおづめ)三本角(さんぼんづの)が倒しててくれればよかったのになぁ……」


 情けなくもため息と一緒についつい弱音が漏れ出てしまった。そもそも大爪(おおづめ)三本角(さんぼんづの)の行動が《《特別過ぎた》》、ということは身を以て学んでいる。

 ナワバリへ安易に入り込めば普通に襲うだろうし、それがひとならなおさらだ。


『グルゥ!』

『ヴォゥ!』


 ふたりは『そんな過去は忘れた……!』と鼻息を荒げている。弱腰になってもしょうがないとはいえ、あそこまでズタボロにされたのに……いや、されたからこそ、汚点を残したままにしておけないのかもしれない。


「あいつを避けて、岩壁を登るって手もあるけど……」

『グルゥゥゥゥ!』

『ヴォオゥゥゥ!』


 ですよね。それはダメですよね。

 言ってみただけだから……もうなんていうか弟たちが怖い。もっとお兄ちゃんを敬う的な気持ちがほしい。

 目的と手段がもう逆になっているけど、他の道のりに似たようなやつがいないという保証もない。

 まぁあいつを倒してそのまま登っていける保証もないけど……

 それでもナワバリ的な意味合いでいけば、あいつを倒して登れる道のりはかなりの距離になるだろうし……


「まぁ悔しい思いしたままじゃ……故郷に帰っても、崖下(ここ)が嫌な思い出になっちゃうからな……!」

『グルゥ~!』

『ヴォ~ゥ!』


 避けて通れない敵かどうかはもう関係ない。どっちが捕食者として優れているか。それを証明してやらなければいけない。

 最後に見せたあからさまに興味を持たない冷めた瞳。

 魔獣だから感情表現が豊かなのだろうか。しっかりぼくたちに伝わった。

 だから――


 必ず後悔させてやる。

 

 なんだかんだでずっと居座ることになった、三本角(さんぼんづの)があけたほら穴を振り返る。

 ポチとプチはぼくの隣で感傷に耽っているのか、黙って眺めている。


「……よし! もうここに戻ってくることもないだろう……行こう!」

『グルゥ~!』

『ヴォ~ゥ!』


 この崖下に落ちて三年の月日が過ぎた今、集大成を見せる時だ。

 どれだけ足掻いてどれだけ強くなったのか。

 それを知るためにぼくたちは新たな――いや、崖下での生活を締めくくるであろう最後の一歩を踏み出した。


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