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第36話 半年前と襲来の魔獣

「な……――んだあいつは!? で……かすぎだろ?」


 大きすぎて全貌が見えない――が、蛇のはずだ。

 見えるのはぼくたちを見据える巨大な双眼と、覗かせた三股の舌を有する蛇の顔。胴体はどこまで続いているのか分からない。

 羽毛に包まれた二対の羽も備えていることから、ただの陸を這う蛇でないことだけはたしかだ。


『グァアァアアア――――ッ!』


 直後、迷いをおくびにも出さない――いや、元から戦闘において迷いなど持つことなどないのかもしれない。

 それほどの速さでポチは迎撃の巨岩の突起を撃ち放つ。


『ヴォオォオオオ――――ッ!』


 プチも遅れをとることはなかった。三本の角に荒ぶる炎の魔力が収束し、巨大な一本の角を作り上げると同時に解き放つ。

 ふたりの動きに呼応するように、唾液の滴る牙を剥き出しに大蛇(だいじゃ)が咆えた。

 思わず耳を塞ぎたい衝動に駆られるほどの、爆音だ。

 そもそも蛇って鳴き声を出さないんじゃないのかよ――ッ!

 同時に無風にも近かった一帯に暴風が渦巻いた。うねりを上げ、土を巻き上げ、草木はおろか岩までも飲み込み巨大な竜巻を作り上げると、ポチとプチの魔法とぶつかり合い相殺となる。


「ガァアアア――ッ!」


 雄叫びが喉を震わせれば、体は全力で呼応する。これは相手に示すためじゃない。ぼく自身を鼓舞をするための魂の叫びだ。

 様子を伺うなんて戦い方は強者に任せればいい。ぼくがここで学んだことは全力の出し方だけだ。

 奇襲に対して引いていれば相手の思うツボ。

 流されるままの逃走では相手をノせてしまうだけ。だからこそ全力の応戦をして初めて継戦か撤退かを決めるべきだ。


「でかけりゃいいってもんじゃないんだよッ!」


 ポチは初撃の魔法を放った直後、すでにぼくの足場となる岩の壁を蛇の顔に向けて伸ばしていた。弾けるように飛び出す。ぼくの体躯を優に超える牙を剥き出しにするも、飛び越えれば関係ない。


「その鼻先から真っ二つにしてやる――ッ!」


 無防備な鼻先へ渾身の一撃を見舞った。


「ガア――ッ!」


 鼻先に斬り込んだ瞬間だ。

 僅かな……ほんのわずかな拮抗を感じた後、握りしめた長剣代わりの牙は粉々に砕け散った。


「え――なッ!?」


 驚愕に身を固めたのはほんの一瞬だ。でも、その隙を相手が見逃すはずがない。邪魔な虫を払うように三股の舌が薙ぎ払われると、それはぼくの脇腹へ深々とめり込み――


「ぐぅぎっ――や……――べ――ッ」


 くぐもった音が体の内から響く中、弾き飛ばされる。


『グァア――――ッ!』


 岩に激突する寸前――

 ポチが体を滑り込ませることで、直接叩きつけられることを回避するも、ポチも巻き込み岩の壁の中へその身を埋没させることになる。

 さらに岩に埋もれたぼくたちへ、その大口をあけて迫る大蛇。


『ヴォオ――――ッ!』


 プチが角に炎を纏わせ、自身の体を巨大な矢の如く撃ち出した。大蛇の牙とプチの角が衝突するとまるで閃光が走り抜けたように、魔力の火花が舞い散った。

 高密度の質量同士のぶつかり合いは、大気を切り裂くような甲高い音色が轟かせるが。


『ヴォオオオ……!?』


 勢いを止められたプチが空中で静止した時。大蛇の上顎が跳ね上がった――と、同時に振り下ろされた。


『――ヴォッ! オヴォオオ……!?』


 牙はプチの装甲と言っても過言ではない皮膚を易々と貫き、続く動作で振り払う。


「ぷっ……――チィ――ッ!」 


 地面に叩きつけられる直前、ぼくが横っ飛びで抱き着き、振り払われた勢いのままに激突することを回避する。


『グァア――ッ!』


 ぼくがプチに飛んだとき、すでにポチは足場を作り大蛇の隙を突くべく、飛び掛かっていた。

 ――にも関わらず、それすらも物の数ではないと言わんばかりに、大蛇の三股の舌先がうねりを見せる。

 それは魔法の合図だった。即座に荒れ狂う風を圧縮した球体が現れ、ポチに向かって解き放たれる。


『グア!? グゥ……――グガガガガッッ!』


 腹部に直撃を受け、猛り狂う風がポチの腹を食い散らかしていく。


「ポ……チ! くっそがァ――!」


 プチを引きずる形になりながらも、ぼくはポチの元へ駆け寄った。

 大蛇(やつ)は暇つぶしにも、ましてや食うまでもない。

 ――というように。


 そして。

 嘲笑の対象ですらない。

 ――と一瞥すらせずに。


 眼前の全てを捩じり潰す巨大な竜巻をぼくたちへ向けて解き放った。


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