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第33話 兄弟と絆

「う~ん……事情は分かった……けど、ほんと?」

『グルゥ……』

『ヴォゥ……』


 プチの繭を丸めて採った後、ぼくたちは拠点のほら穴へ向かって歩いていた。そして、ポチとプチがたどたどしく、事情を打ち明けたところでもあった。

 『ヒノ』の囁きで液体の効果に気が付いたのは起きた時に聞いていた。繭も似たようなものであり、限りなく凝縮された魔力の塊ということだった。

 精霊は万物の事象の傍らに存在するとも言われている。自我もないのに知識的なものが蓄えられるのかが不思議だけど、でも事実としてポチたちが聞いた以上、疑う余地なんてない。というか、ヒノもヒノでぼくに――とは言わないけど、もっと早く教えてよ……

 それとも……ほんの少しずつだけど、自我のようなものが育まれているのだろうか。


『……』


 まぁ喋らないよね。精霊と魔獣という近しい存在だから……なのかな。


「嘘言ってもしょうがないもんな……でもそういうことなら……これはお前らの親? お前ら自身? が残したお前らのためのものなんじゃないのか?」


『グルゥ~!』

『ヴォゥ~!』


 本来は繭から出た後に、繭や魔力液を吸収して強くなるはずだったということだ。

 ()()魔力を以て作り上げられたもの。それを考えるだけでどれだけの莫大な魔力が込められているか、ぼくに計ることなど到底できない。

 だから、あの魔獣(マダニ)は強靭な個体になり、ぼくも降霊による肉体強化が段違いの性能になったということだ。

 そして、プチはそんな繭を魔獣(マダニ)が喰らったからこそ、あんな普段以上の怒りを見せていたんだ。


『グルゥルゥ!』

『ヴォ~~ゥ!』


 うん。『美味しくな~い!』って、そういう次元の話じゃないからね。

 こんなの崖上の世界だったらいくらでも出す……いや、そんな取引を飛び越えた交渉が行われる代物だと思う。

 いや……――交渉なんて上品なことすら行われず、各国が『力』を以て手に入れようとする(たぐい)のものだ。

 高位の魔獣は単体で国を亡ぼす災害として認識される個体もいた。

 そして事実として滅ぼされた国はいくつも存在する。

 ぼくが崖上で実際に出会ったことはなくても、国から忘れ去られたような村だからこそ、物語や口伝で語り継がれている。

 そんな『力』そのものをふたりは……うん、なんか分かってない気がする。


「もう使っちゃった分はともかくとしてさ――」

『グルゥ!』

『ヴォゥ!』


 ぼくが食べろの一点張りだ。

 しかもプチに至っては、ポチのを食べたんだから自分のも食べろってすごい暴論を捻じ込んできてる。


 このときのぼくは何も分かっていなかった――


 兄弟同然に過ごした日々が、ふたりにとってどれだけの救いになっていたのか、ということを。

 どれだけの感謝の気持ちを持っていたのかを。


 ひとと魔獣――


 そんな何も繋がりのない中に、自分の魔力をぼくが取り込むことでささやかな繋がりになる。なんて、ふたりが考えていてくれたことに、このときのぼくは気が付くことすらできなかった。

 傷の治癒でふたりがぼくを舐める。

 それもぼくとの小さな……ほんの僅かな繋がりになる、なんて思ってくれていたことも。

 気が付いたとしても、照れくさくて何もいえない――ということは別にしても、だ。


「じゃあ魔力液のほうは緊急用に竹筒の中に保管しよう。いざという時に使う」

『グルゥ!』

『ヴォゥ!』


 反対意見はでなかったようで一安心だ。

 そして。


「――で、繭のほうは日々の食事で少しっつ食べてこう。みんなで」

『グルゥ!』

『ヴォゥ!』


 お前が食べろの非難を集中砲火で浴びることになった。交渉は困難を極めた。

 それでも最後にポチの繭はプチも食べる。

 プチの繭はポチも食べる。

 ぼくは両方食べる、という結論に収まった。


「ん~……めちゃくちゃすごいことだよな……これは、ふたり? それとも親? に、どっちに言えばいいかわからないけど――ありがとう……ね。ぼくが強くなれる手段なんて限られすぎてて、これは本当に……助かる」


『グ~ルゥ……!』

『ヴォ~ゥ……!』


 ふたりが鳴らす喉がいつもより心なしか高い気がした。

 至る所に魔獣の残骸が打ち捨てられているにも関わらず、ぼくたちは強い……とても力強い抱擁を交わした。

 改めて兄弟の絆を確かめるように。

 ひとと魔獣。

 異なる種族だとしても、抱き合えば温かい。

 それは身体だけじゃない。

 心だって温めてくれるんだ。


 そんな大切なことをふたりはぼくに教えてくれた。


 ちょっと前まで死を覚悟していたことが嘘のようだ。

 死と隣り合わせだとしても、全力で抗い、生き抜くからこそ見出せる喜びもあるはずだ。

 そんなことをぼくたちは笑いながら考えていた。


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