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第31話 ぼくと魔力液

 ここは……水の中……?

 川の底にいるような浮遊感を覚えながら、天井を見上げていた。


 天井……? 水……?

 ――えっ!?


「なんだこれっ!?」


 とっさに上半身を起こした。見慣れたような見慣れないような景色……というよりも、拠点にしてたほら穴だった。

 そして、ぼくのお腹に引っ付いているヒノは安定の無表情。


『グルゥ~!』

『ヴォ~ゥ!』

『……』


 ぼくの側で寝ていたのだろうか。

 ポチとプチが目をあけてぼくに向かって喉を鳴らしている。


「お前ら……えっ……でもこれって……」


 ぼくが寝ていたのは、『繭の中』だった。

 正確にいえば、ぼくが持ってきたポチの繭で、ポチが目覚めた後は、特に気にせずほら穴の奥に置きっぱなしだったモノだ。


「この水……じゃなくて液体……まだ残ってたんだな」


 手ですくいあげて、そのまま()()()()()と、疑問は半分だけ解消した。この液体は呼吸ができるんだ。

 そもそも液体なのだろうか……いや、違うそれよりも――


「傷……塞がってる……? これポチ、お前の唾液で……?」


 左の脇腹をさすると少し肉が張っているようにも感じる。

 ――けど、あの抉られた傷は跡は残っていてもすっかり塞がっていた。

 こうして意識もあるってことは()()も治癒されているのだろうか。確認なんてしないけど。


『グルゥ~……』


 残念ながら違う。と首を振っている。

 ポチとプチは顔を見合わせると、


『ヴォゥヴォゥ……ヴォ~ゥ』

『グルグルゥ~……ルゥ』


 どうやらこの液体がとんでもない治癒の力を持っているらしい。

 ポチとプチも理解していたわけではなく、きっかけは『ヒノ』の囁きだということだ。ぼくには一切無反応なヒノがなんで……


「でも……考えてみるとこの繭じたいが強大な魔力の塊みたいなモノだもんな……」


 あの頃のポチとプチ……親と言ったほうが正しいのだろうか。

 垂れ流す魔力でも魔獣に生きることを諦めさせるほどの禍々しさ。そんな魔力が凝縮された体から紡がれたものである以上、理解はできなくても納得がいくだけの説得力は持ち合わせている。少なくともぼくは、そう感じていた。

 そしてもう一つ気になっていた点は、ポチたちの後ろに転がるナーガの牙を見て自然と解消していた。


「お前たちで両方とも……倒したんだな……声変わりもしてるし成体になったってことなのかな……? 大きさは声変わり前と変わりないけど……」


『ヴォ~ゥ!』

『グル~ゥ!』


 おまけにぼくの剣としてちょうどいい、ということで魔力の凝縮後に残されていた牙を取りにいってくれたようだ。

 言われてみれば、ぼくの背丈よりもちょっと短いくらいの長さ。そして剣と違って牙なので丸みを帯びた反りがあるけど、問題はなさそうだ。ぼくの村の鍛冶士が作る武器もそんな感じだったし。

 付け根の骨が持ち手としては、ちょっと長いので削れば十分に長剣として使えそうだ。


「なんにせよ……ふたりともありがとう……おかげでまた命拾いしたよ。あっ……それを言うならヒノも、ありがとう……――だね」


 繭から出て両の腕で抱き寄せると、グルルゥ――と、穏やかに喉を鳴らしている音が聞こえた。

 ついでにぼくのお腹もグゥグゥと鳴り出しているけど。


「結構眠ってたみたいだからお腹も空いた……穴が開いたから(から)になっちゃったのかもな。食料は食べ尽くしてから出発したから取りに――」


 なんて、冗談交じりに言えるのはポチとプチの頑張りのおかげだ。

 すると、


『グルゥ~……』


 ポチが繭をかじりとってぼくに差し出した。


「……え? これを食べろって?」


 ふたり揃って頷いている。

 これは守るものじゃないのかな?

 でも中の液体もとてつもない効果があった以上、もしかしたらこれを食べることで体内の治癒も(はかど)るとか……?

 思い切って口に入れてみる。


「……ぐっ! ぐぬぬ……っ!」


 弾力がすごい。歯で噛んでもギュムギュムと歯応えを返すだけで一向に噛み千切れる気がしない。

 しかも――


「これ……あの時の実と同じくらい苦くて酸っぱいんだけど……治癒なのか分からないけど食べて大丈夫なら一緒に食べようよ……」

『グルゥ……』

『ヴォゥ……』


 出た。

 『大丈夫』と言いながら、ぼくにお尻を向け始めたふたり。

 しかもぼくが食べることを()めようとすると、その行為を()めに入るふたりがちょっとズルい。

 でも、繭はともかくとして、中の液体の治癒効果については大発見だ。

 そしてぼくは保存方法と共に、もう一つの繭の存在を思い出していた。


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