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第25話 ぼくとプチ

『パゥ~!』

『プォ~!』


 夜の帳が捲られ、朝の日差しが差し込む時間帯になった。出番を待ち焦がれていたのかと思うほどに眩い光に思わず目を細める。

 でも。

 ぼくが目を細めている理由はそれだけじゃない。


「お前ら結局朝まで起きなかったな……」


 さすがにあの状況で寝直せるほど、ぼくは図太い神経を持ち合わせてはいない。そこで二匹が自然と起きるのを待った挙句、この時間ということだ。

 ぼくは魔獣じゃないけど『ひと』だぞ?

 お前らの親? 生まれ変わり前? に持ち合わせていたヒリつくような警戒心はどこにやったの?

 うん。言ってて思った。

 ぼくもぼくでした。ぐっすり寝てました。

 敵意がなかったから、だと思いたい……


「でも……やっぱり大きさはポチと変わらないんだなぁ……」


 ポチ同様にこの魔獣も子犬サイズだ。

 ――とは言っても、三本角(さんぼんづの)は四足歩行とはいえ犬とか狼にはまったく似ていない、極大の大きさの(サイ)みたいなものだった。あくまでパッと見の外観の話だけど。

 口先は鳥類のくちばしのように尖っているし、鱗みたいに丈夫な皮膚。

 首元を守るように備えたフリルに特徴的な三本の角を持っていた。

 かぎ爪がえぐかったし……あれに引っかかると逃げようがない気がする。

 そして尻尾。見た目はしなやかなんだけど……岩の剣を纏う大爪(おおづめ)に対して、三本角(さんぼんづの)は炎の鞭だった。

 あの薙ぎ払いだけでぼくは百回くらい死ねると思う。

 そして、この生まれた三本角(さんぼんづの)も面影はしっかり残されている。けど、角がぼくの指より短い。

 突き刺そうとしてもただの頭突きになりそう。


『ゥ~』


 ぼくが観察していると、ポチが足元に体を擦り付けてくる。

 さらに、三本角(さんぼんづの)を見ながら喉を鳴らした。


『プォ~』


 その声に導かれたのか、三本角(さんぼんづの)もぼくの足元に寄ってくる。

 あれ、なんか仲良くないか?

 ちょっと怖かったのが、繭になる前の死闘の続きをされたら困る。ということだったんだけど……杞憂に終わったなら何より。

 ――というよりも、ポチが驚くことも警戒もないってことは、ぼくが寝てる間に三本角(さんぼんづの)をここに連れて来たのがポチってことなんじゃ……


「子供だから? なのかな……本能で拒絶するわけじゃないなら、あのときも……」


 と、いうのも違うのかもしれない。あの頃の二匹がどれだけの時間を生きたのかは分からない。でも、それだけの積み重ねの中で譲れない何かがあったのかもしれない。


『パゥ?』

『プォ?』

「ううん……なんでもない。子供同士だから――って言うのも変に警戒しなくて良かったのかもしれないしね」


 ぼくは膝を折り、二匹の頭に手を伸ばした。

 興味深い視線を送りつつも、二匹共に警戒する素振りもなく、頭を撫でられていると目を細めて喜んでいるようにも見えた。


「変に孤高な存在って決めつけてたぼくも良くなかったな……お前も……どれくらい強いか分からないけど……しばらくは一緒に過ごしてみるか?」

『プォ~!』


 ポチと同じように、理解できなくても返事はバッチリのようだ。と、すれば残る問題は一つだ。


「……(クチバシ)ノスケ」

『プォ!』


(ツノ)ジロウ」

『プォ!』


「よし……分かった。お前は今日から『プチ』だ」

『プォッ!』


 見た目が全く違うけど、ポチと兄弟みたいなものなんだから似たような名前にしておいたほうがいいだろう。

 一気にぼくは弟が増えた。増えるならできれば綺麗なお姉さん、もといお姉ちゃんがいいというのは欲張りだろうか……

 魔獣は種族の名前で呼ばれるばかりで個体名が付くことは滅多にない。

 だから。

 同じような名前の仲間――兄弟がいるってことを、ひとりじゃないってことを覚えてほしい。という意味もちょっとだけある。


「よし……プチも元気に生まれたことだし、過ごしやすい元のほら穴に帰るか!」

『パゥ!』

『プォ!』


 こうしてぼくはこの壮絶な環境で生き抜いた末、かけがえのない兄弟……弟たちと出会うことになった。


 精霊と出会い。


 魔獣と出会い。

 

 そろそろ綺麗な女のひとに出会いたい。

 ――っていうのはここでは無理だ。


 だから。

 必ず崖上に帰ってみせる――


 いつのまにか不純な動機にすり替わってるけど……少なくとも希望は少しずつ明るさを増しているような気がしていた。


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