第23話 三本角と繭
「ふ~……日課はこれでよ~し!」
『パゥ!』
ぼくは大怪我で動けない日を除けば、欠かさず行っている剣の鍛錬を終えたところだ。
鍛錬と言っても自己流だからどこまで効果的なのかは不明だけど、やらないよりはマシということで……
ポチは何をするにも目を輝かせて見つめてくるので今日はちょっと集中力を欠いていたことは秘密だ。
体をほぐしながら地べたに腰を下ろすと、ポチは膝の上にすかさず乗り込んでくる。
「お前の魔法も扱いに慣れるために何かしたほうが……って思うけど、ぼくが分からないからな……」
『パゥ~……』
ロウソクの火程度しか扱えないぼくでは今のポチにも魔力という点で及ばないことは明白だ。
でも、さっき獲った魚を焼くには十分でもある。
ちなみにポチは焼いた魚も与えたら普通に完食していた。魔獣ってひと以外でも普通に栄養とれるってことなのだろうか。
膝の上で転がるポチのお腹を撫でまわすと気持ちよさそうに喉を鳴らしている。猫じゃないはずなんだけどな……
「あとは……あの繭がどれくらいで……」
『ゥ~ゥ~……』
そう、あとは繭からいつ生まれるかだ。
犬や猫なら二か月くらいっていうけど……案外ポチも早すぎた、とかそういうわけでなかったのならそれが一番だ。産まれてすぐに目も開いてたので、どこまで成長して出てくるかも気になるけど。
でも……ぼくが見る限り繭が変化しているようにはとても見えない。
お腹を撫でられ続け、至極の表情を浮かべるポチをよそに、ぼくの視線はいまだ沈黙を保ち続ける繭を捉えていた。
「まぁ長期戦覚悟だしね。よし……まだ明るいけど少し睡眠をとろうか」
『パゥ!』
見張りを続ける上で、朝晩のサイクルは崩すことに決めていた。
夜にたっぷり……ではなく、昼間も数時間ごとに寝て、夜も似たようなリズムにするつもりだ。
ぎりぎりまで行動して寝ようとしたら魔獣が来た――では、満足に戦えないという考えがあってのことだ。
「寝床も草積んだからしっかり光も遮ってくれそうだ」
目視でほら穴が見える位置である以上、異変があれば気が付けるはずだ。
なんなら繭よりもぼくという『ひと』の匂いに魔獣が釣られてくる可能性のほうが高いはず。
「ポチも寝れそうか? 何か変な匂いとか感じたら教えてくれな」
『パゥ!』
ぼくが敷き詰めた草の上で仰向けに寝ると、ポチはぼくのお腹の上で体を丸める。
愛嬌というか、可愛げがあるのはいいんだけど、お腹の圧迫感が……
「そこで……寝るの?」
『パゥ!』
迷いのない元気満点の返事を受けてしまった以上、ぼくは悪夢を見ないように祈りながら、瞼を下ろすという選択肢だけしか残されていなかった。