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第22話 ぼくとポチ その2

「これで……よし!」


 魔獣を討伐後、ぼくとポチは三本角(さんぼんづの)のほら穴が見える位置に簡易的な寝床を作っていた。

 周囲のしなる枝を屋根代わりとして、床は草を寝かせただけだけど。

 なるべく木々が密集した位置を選んだので、寝床の死角に何かがくれば音くらいはなるはず。


「でも、お前の鼻? それとも感知なのかな? さっきは助かったぞ~」

『パ~ゥ!』


 すでに寝床で仰向けに転がっているポチのお腹を撫でる。

 ちょっと油断しすぎじゃないだろうか……


「それであそこの繭を守るのがぼくらの役目だ」


 ほら穴を指差すと視線を向けてはくれるが、理解してくれというのも無茶だろう。

 なんといってもポチはまだ一才どころか、生まれて三日だしね……


「だからさっきみたいに何かが来たら教えてくれるとぼくはすごい助かるぞ」

『パゥ!』


 とりあえず反応しておけ、とばかりに元気な鳴き声が返ってくる。

 尻尾を千切れ飛びそうなほど、振り回しているのでうれしいけど、ちょっと心臓に良くない。

 動物でも一緒に過ごしていると少し分かった気になれる。みたいな話は聞くけどぼくにそんな日がくるのだろうか。


「とりあえず周囲も見回ったし……食べ物を取りにいくか~!」

『パゥ!』


 ここから川までなら行き帰りをしても、そう時間はかからない。道すがら果実もとってくれば一石二鳥だ。

 ここしばらくは岩芋ばかりの生活だったので、気分転換にもちょうどいいだろう。心配は猫じゃないので、魚で喜ぶか、というところだけど、試してみないことには始まらない。

 立ち上がると周囲を駆け回り見上げてくるポチ。

 どこかに行く。ということは理解しているようで、意思が思ったよりも通じていることにぼくは正直驚いていた。


「これが川っていうんだ。水がいっぱい流れてるだろ?」

『ゥ~……パゥッ』


 初めて目の当たりにした川に物怖じする様子はなし。

 流れる水を前足でパチャパチャと叩いている様子は、興味を持った子供の姿そのものだ。


「こっちは浅いけど奥に行くほど深くて流れが速いから……――」

『パ~ゥ~……』

「――ぬおぉぉぉぉぉぉぉ! ポぉぉぉぉぉチぃぃぃぃぃぃ!」


 注意点を説明する前に奥まで突き進んだポチが彼方へ流されていく。

 ぼくが叫び声を上げているうち、あっという間に豆粒ほどの大きさに……

 好奇心旺盛なのは素敵だと思うけど、躊躇がなさすぎるのも問題だ。


「――ハッ! ハァッ……ハァッ!」

『……パゥ!』


 ポチはピルピルと体を振り水気を飛ばす。

 かつてないほどの全速力で疾走し、川に飛び込んで助け出したところだ。


「初めての川で興奮するのは分かるけど……」


 最近は滅多に息を切らすこともなくなっていたのに、生まれたてでここまでぼくを乱すとはさすが強者の子供? なだけのことはある。

 ポチが必死で毛を乾かしている隙をつき、ぼくは近場の枝を短剣で研ぎはじめていた。


「それにお前、魔法使えるんだから……それで壁を作るなりして止まることもできただろう……」

『……パゥ!』


 いつかぼくの言葉(おもい)が通じるとうれしいな。ぼくはとても……それはもう強く願った。


「それじゃ何匹かご飯用に魚を獲っていくからね」

『パゥ!』


 川岸に立つと、隣に佇みぼくを見上げるポチは、行動をそのつぶらな瞳で凝視している。

 ぼくはせせらぎの音だけが耳を打つ透き通った川を眺め続ける。

 そして――

 魚が二匹直線状に重なった瞬間を見計らうと、手首の力を利かせ、音もなく枝を川へ投げ入れた。


『ゥ~…パゥ!』


 かなり力を入れて投げたつもりだったけど、ポチは完全に枝の動きを目で追っていた。


 やっぱり資質が違いすぎる――


 さらにぼくの行動の意図を汲む。という賢い行動に出たのか、突き刺さった枝を取りに川の奥へ跳躍を繰り出した。

 そして――


『パ~ゥ~……』

「――なんでぇぇぇ! ポぉぉぉぉぉチぃぃぃぃぃぃ!」


 先ほどの光景を繰り返すように、その身を川の流れに攫われていた。


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