第20話 大爪と魔法
あれから三日。
ぼくは三本角のほら穴付近で寝床を探した結果、密林の中にそびえる巨大な岩を拠点に決めた。
剣で何度も岩を繰り抜き奥行きも確保、前の巨大なほら穴に比べれば小さいけど、ぼくの荷と寝るだけなら十分な広さだ。
繰り抜いた時に『岩芋』もかなり確保できたので、食料の備蓄にも役立っている。しかもこの周辺はあの美味しい『炎の果実』が数えきれないほどに実っていることも見逃してはいけない。
でも、少し問題もあった。というか継続中だ。
『パゥッ!』
そう、大爪が付いてきてしまっているんだ。
前の拠点からの移動中も、ぼくが走り始めると全力で走り出しはするものの追いつけず……それでも匂いを頼りにしているのか、追いかけてくる。
何度か説得を試みたけど通じるわけもなくて……
とりあえず岩芋と炎の果実を食べさせてるけど、これで余計に懐いてしまった気がしてしょうがない。
「んと~……お前の好きなとこに行っていいんだぞ~……?」
『ゥ~……パゥッ!』
ヒノと違って反応してくれることは素直にうれしい。
でも、ぼくは魔獣から獲物として狙われる立場な以上、あまりにも危険だ。だからこそ三本角のほら穴に拠点を構えることなく、あくまでも近場にしている、という側面もある。
「追い払ったりはしないけど……でも……――!?」
その時、奇妙な物音を捉えた。
密林を歩く。というよりも木から木に移るような一定のリズムを保った音。
「――魔獣か!」
ぼくは周辺を見回した後、急いで三本角のほら穴へ向かう。すると、予想が的中。繭に近付く、あの『マダニ』のような魔獣の姿を捉えた。
「またお前かッ!」
ぼくは銀色の剣尖を走らせる。すでにヒノを降霊済だったぼくの一撃であっさりとその身を両断される魔獣。
「『マダニ』今まであまり見かけなかったのに、急によく見るようになったな……」
両断された身に魔力の凝縮が発生しているマダニを見下ろし、ぼくは呟いた。
「しばらくはほら穴じたいが見える場所で見守ろう……」
腰をかけるのに手頃な岩を探した時、もう一匹のマダニの魔獣を見つける。
でも――運がない。
マダニは、ぼくを追いかけてきた大爪と向かい合っていたんだ。
『パルルゥ……ッ!』
迫力がない。
犬や狼特有の低く構えた姿勢ではあるものの、唸り声に威圧感がこもっていない。
以前の大爪だったなら、マダニは、その唸り声だけで生存するという本能すら塗り潰されるほどだったのに。
『パルゥ……ウゥゥッ!』
吸血前のマダニは、ぼくの顔くらいの大きさ。サイズ的にも今の大爪と変わりないくらいだ。
それでもお互い見合う時間が長い……でも今の大爪からすれば『初めての狩り』になるのだからそれもしょうがないのかもしれない。
すると――
『ギュキィィィ――ッ!』
先手を取ったのは魔獣だった。背丈の数十倍の跳躍力を見せつけるように、宙を舞う。
でも……それは悪手。
身動きがとれない空中じゃ、大爪の岩の突起のいい的になるだけだ。そこで狙っていたかのように大爪も喉を震わせた。
『パゥゥッ!』
すると、
ピョコリ――
と地面から突起が突き出した。でも、そのサイズはマダニを串刺しにするどころか、ぼくの膝にも満たない高さの突起だった。
「――えっ?」
そんな状況でも空中から襲いかかる魔獣は止まることはない。
でも……魔法だけが大爪の強さじゃない。
しなやか、かつ強靭な筋肉が生み出す俊敏性。その攻防一体となった動きこそが大爪の強さの土台と言ってもいい。
『パゥゥ……クゥゥン……!』
――と思っていたんだけど。
いとも簡単に魔獣に取りつかれていた。しかも八本の脚で抑えつけられ、今まさに鋏角が迫っている。
そんな鳴いてる場合じゃないって理解できていないような……
ちょっと待て……もしかして――ッ!
「ガアァァァ――ッ!!」
ぼくは弾けるように飛び出すと、魔獣を一閃の元に切り落とす。
『パゥゥゥ……パゥ!』
そしてぼくを見上げ歓喜の声に喉を震わせる大爪。
思わず地に両膝をつくと、ぼくは大爪と向き合った。
「お前……赤ん坊そのもの……なのか?」




