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第02話 一日目 圧倒と大爪

 まぶしい……。

 目を閉じてるのにまぶしい……。


「……――えっ!?」


 思わず飛び起きた。

 生きてる……? ううん。違う。あれは夢だったんじゃないかな……?

 でも……目を開けるとぼくの予想は思いっきり外れていたことを思い知らされた。

 寝そべっていたのは、ごつごつの大地の上にあるふかふかの草の上。ぼくの背より大きい雑草ばかりで良く見えないけど、果実が実った木もたくさんある。

 でも、体がすごい重い。

 さらに空を見てみると、ここがとても深い崖の下だということはよく分かった。半分しか空が見えないからだ。

 ぼくの前にある岩の崖はとても高くて、てっぺんが見えない。そして……なんでこの高さから落ちて生きているのかも分からない。いくら深い草の上だからってどうにかなる高さじゃない……。

 体を見たり立ち上がって動いても痛いところもない。体が濡れててベトベトするくらいだ。

 でも……あまり考えてもしょうがないからいいや。

 こんな所で生き延びることはできないって……ちゃんとぼくは理解している。

 もしかしたら落ちて死んだほうが良かったかもしれない。

 お腹が空いて死んじゃうより……ずっと楽だと思うから……

 ううん、それよりも……


「うっ……うぅ~……うっ……ひぐっ……」


 ぼくは膝を抱えて泣きじゃくることしかできなかった。

 (とー)ちゃんも(かー)ちゃんももういない。

 もしここから帰れるとしても……あんまり意味がないと思った。


 ……――


 ……――――


 ……――――――


 誰にも邪魔をされないこの場所で、ずっと泣いていた。たまに辺りを見て。また泣いて……どこかから誰かに見られてる気もしたけど、やっぱり分からない。

 そんなことをどれくらい繰り返したのか。もうわからなくなってしまった。

 でも……もうこれ以上は続けられないと分かった。

 草とか木がたくさん生えている場所の先に、とても大きい獣が見えたからだ。


 こういう生き物を魔獣(まじゅー)と呼ぶらしい。

 崖の上でぼくたちをおそった魔獣(まじゅー)よりも、ずっと大きくてずっと強そうだ。形は狼にちょっとだけ似てるけど、大きさも濃い焦げ茶色の毛も何もかもがぜんぜん違う。あんなに大きい体なのに、音も立てず静かに歩く姿はとてもかっこいい。

 ううん。こういう生き物を『うつくしい』って言うのかもしれない。


 飛び掛かってくるわけでもなくて。ぼくの体よりも大きい爪が生えた足を一歩ずつ進めて近づいてくる。

 なぜか怖いって感じるよりもすごいと感じる気持ちのほうが大きかった。

 足で踏みつぶされても、あの大きな牙を持った口で食べられても、ぼくは一発で死ねるかな。

 もうそれがわかってるから……無理だって思うことができたのかな。

 ぼくは涙を擦って立ち上がった。

 いつもなら魔獣(まじゅー)を見るだけでうるさく跳ねるぼくの胸はとても静かだ。

 でも……


『グルゥ……』


 大きな魔獣(まじゅー)は、ぼくと少しだけどたしかに見つめ合ったんだ。少しだけど……ぼくにとってはすごく……すごく長い時間に感じた。

 その後は、ゆっくりと横を通り過ぎていく。


 この気持ちはなんだろう……?


 食べられなくてよかったって言う気持ちよりも、なんだかすごいものを近くで見た興奮(こーふん)のほうがすごい。

 これが『あっとー』されるって言うことなのかもしれない。触れることも、挨拶もなくて、もちろん言葉だって通じない。


 でも……ぼくを見たんだ。


 エサとして見ていたならもうぼくは食べられてるはずだ。

 だからぼくをぼくとして……あんなすごい魔獣(まじゅー)がぼくを『にんしき』したんだ。


「ぼくも頑張ればあんな風になれるのかな……」


 そんなバカなことを考えたら、途端に胸がドンドン騒ぎだした。うじうじと終わりばかり考えていた自分がとてもちっぽけに感じた。

 実際に小さいんだからしょうがないじゃないか。

 なんて、怒る気力も出て来た。

 ぼくの『けつい』なんて軽いものだと思う。さっきまでもうダメだって泣いてばかりだったんだから。軽いから……ふわふわしてるから、この場でも軽く変えてもいいんじゃないかって思ったんだ。

 みんなに語られるような『えーゆー』なんてなれなくていい――

 ぼくはただ……あんな風に強くたくましくなって……ここで生き延びて……

 (とー)ちゃんたちのお墓を作れればいい――


 ぼくは生き延びるための目標を、ここで誓ったんだ。

 そのためには、崖上に上がらなければいけない。

 『たとえ』じゃないここは世界の亀裂。本当のどん底だから。

 もうこれ以上落ちることなんてできないから。

 あとは……這い上がるだけだって。


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