第12話 目覚めと勝利
臭い……じゃない――そうじゃない! ぼくは思わず飛び起きた。
そう……起きたんだ。
「生き……てる?」
自分の体を見ようと両手を上げると、ベトベトだった草が渇いた状態でまとわりついていた。
恐る恐る草を剥がしていくと、
「痛ッ!」
ガルムに噛みつかれた部分の草がとれない。
皮膚の一部にでもなったみたいに剥がそうとすると痛みが伴った。
「この草……治療のために……?」
爪や背中の骨で抉られていた部分も草がくっついて取れないが、出血はすっかり止まっている。魔法の類と言っても大袈裟ではないくらいの治療効果に思えた。
ぼくは後で草を探すために、払った草の一部をポケットにつっこむ。
いくつか噛んで混ぜてたみたいだけど、一個くらいは判別できるだろう。
「でも……まだしばらく付き合いは続きそうだな……!」
『……』
ヒノは相変わらずだ。それでも側に居てくれたという事実がぼくはとてもうれしい。
契約しているから離れられないんだろうけど……
残りの草を払おうと立ち上がった時、世界が揺れた。
ぐるぐると回り始めまともに立っていられない。ふらつきながらぼくは背後の岩に背を預ける。
「目が……回る……あ、そうか……」
出血しすぎたということに気が付いた。
拠点の穴ぐらに戻って食べ物を食べて……
そんなことを考えて、歩いてきた道に目を向けた時、ぼくは言葉を失った。
ばかでかい蜘蛛のような魔獣。
蜘蛛よりもさらに長い百足のような魔獣。
翅が多すぎて、蜻蛉と言っていいか分からないけど、似たような形で他に負けない大きさの魔獣。
それら全てが、全て岩や地面に叩きつけられて……? いたからだ。串刺しにされたようなぽっかりと空いた穴の周辺は溶けていて、すごい高熱の槍でも突き刺されたみたいだった。
「……なに……が?」
明らかにぼくが倒したガルムよりも強い。魔力が分からなくても、見た目の迫力だけで十二分に伝わってくる。
そしてこの惨状は魔法によるものだと言える。ぼくがどんなに意識が途切れかけていたとしても、これはなかったと断言できるからだ。
なぜなら、ぼくが歩いてきた――そう、踏み固めた獣道と呼べる地面は、溶かされたように大きな穴に変わり果てていたからだ。
「ヒノ……実はお前がぼくを助けるために……?」
『……』
そんなわけないよね。できるなら、ガルムの時にしてほしかったしね。
こいつらはたぶんぼくが背後で感じた気配の持ち主たちだ。他の魔獣もいて、ただ殺されたのだろうか。
少しだけ心当たりがあるのは、三本角だ。
ぼくを助ける心当たりはないけど、あいつは戦う時に角にすごい炎を纏いながら戦っていたのはこの目で見ている。
大爪のほうは大地の魔法を使ってたから惨劇の主ではないことは確かだ。
「昔子供を産み落としたけど……死んでしまってぼくに面影を見ているとか……」
『……』
ぼくはあいにく角もなければでも獣でもない。手とか足に角の生えた種族はいるけど、ぼくとは無縁の種族だ。そもそもそんな種族なら魔術一つ習得できずに苦労することもない。
それに……そもそも魔獣って子供産めるのかな。
――というよりも、面影を見てるならもっと全面的に助けてほしい……なんて言うのは欲張りだ。
そして惨劇が誰であれ、ぼくは大爪の草のおかげでぼくが生きている事実は覆すこともできない。
だから何かの形で恩を返せたら……とは思うけど、たぶん無理だろう。
力が違いすぎる。
「うん……でもまずは――」
ぼくは生き延びたことと眩く輝きを放つ空から注ぐ光に感謝をしつつ、穴ぐらへ足を向けた。
出来ればお肉を食べたいけど。
保存してる岩芋と果実で初めての勝利を喜ぼうと思った。