第01話 別れ
「……母ちゃんッ! 助けてぇー!」
ぼくが必死で叫んでも何も変えることはできないって分かってた。
この底の見えない崖の下に落ちていくだけ。
それでも……届かないって分かっていても。
ぼくは必死で手を伸ばしていたんだ。
そんなぼくから母ちゃんは決して目を離さなかった。
血だらけの自分の姿なんて気にもせず。
痛みを忘れたように笑って――
ぼくに向かって腕を伸ばして――
そしてぼくは深い深い崖の底へ落ちて行ったんだ。
最後にぼくへ向けて言った言葉は、母ちゃんに群がった獣たちの叫び声に紛れて聞き取ることができなかった。
それだけが気になったけど――
もう……この深さじゃ助かりっこない。
魔法が使えるなら助かる可能性もあるんだろうけど、ぼくはあつかえたことがない。
底にへばりついて生きるものだと思っていたけど、まさか実際にこんな高さの崖から落ちてへばりつくことになるなんて思ってもいなかった。
ぼくは生まれながらの落ちこぼれだと分かっている。
だから。
期待を込めた目。
あこがれを込めた目。
どころか――
がっかりした目。
バカにする目。
軽べつする目。
すべてに、縁がなかった。
だって、本当の落ちこぼれは……誰にも『にんしき』されないものだから。
だから……いても、いない。
空気のような存在ですらない。だって空気は大事だからいなくなれば誰でも困る。
だから……ぼくがいなくなっても……誰も困らない。
それは言い過ぎかも。父ちゃんと母ちゃんと姉ちゃんだけは、ぼくの六才の誕生日を祝ってくれようとしていた。
けど……もう……
そんなことを考えているうちに、ぼくの記憶はそこで途切れてしまった。