月夜の約束。
颯太も、最近は、すっかり、大人になったのか、生意気な事を言うようになった。
「今日は、ママ一人で行って来て」
毎月の諒の、月命日には、欠かさず、花を、捧げに来るのだが、今日は、行かないと言うのだ。
「お友達の家に行かなきゃなの」
颯太は、言った。
「来月は、行くからね」
舌足らずの口調で言った。
「この坂は、大嫌い!」
細い坂を、上らないと、墓地には、行けない。車も入れない。
・・・今日の、花の仕入れが、遅れたので、お届けします。・・・
花屋の、青年に、笑顔で言われた。
・・・別に、そんな大した量でもないのに・・・
丁寧に、言われたので、甘える事にした。ちょっと、キツすぎる坂を、上りきった。
「諒?」
違う・・・。墓前に、誰か居た。随分。見慣れた人。逢いたくても・・・。どんなに、恋しくても、逢っちゃイケナイって、心に、封印した人。もう、2度と、人を、失うのは、嫌だと、心に決めた今。
「瞬!」
今、逢いたくて・・・。ようやく、逢える。
「瞬!」
間違いないよね・・。心でも、叫んで、その人は、振り返った。
「!」
瞬は、驚いた。花屋で、渡されたのは、白い小さなバラを、大きく集めた花束だった。そう・・・。1ヶ月前、結亜が、家に、持ち帰ったのと、同じ。渡された地図を、頼りに、来ると、外人墓地の片隅にたどり着いた。ここで、指定された時間まで、人を待ち、渡して欲しいという花屋からの、依頼だった。
「誰に渡すんだい?」
怪訝がる瞬に、結亜は、笑顔だった。
「もう、あたしは、大丈夫だから」
「わかってるけど・・・。」
「そう。行っていいよ。瞬」
花屋のバイトと、笑いあう結亜に、瞬は、顔がほころんだ。
・・・邪魔だから、さっさと仕事に行けってか・・・
意地悪な笑いをし、瞬は、一人の男の、名前がある墓地の、前に居た。
「諒・・・?」
それは、2ヶ月前に、命が尽きたのをしめすものだった。
「そうか・・・。亡くなっていたのか」
諒は、旅立ち。花梨は、どうしているんだろう・・。懐かしい花梨。あれから、時間だけが流れていたが、何一つ、変わっていなかった。あの、別れを、告げた夜の、星月夜は、昨日のように、覚えてる。あの日の記憶のまま、時間だけが、止まっていた。
「瞬!」
懐かしい声に、瞬は、振り返った。
「花梨・・・。」
そこに、逢いたくても、逢えずにいた人が、立っていた。
「どうして・・・。」
「俺も聞きたいよ」
瞬は、バラを抱えたまま、花梨に歩み寄った。
「やっと・・・。逢えた」
花梨は、そっと、瞬の、胸に触れた。
「本当なのね。」
「本当みたいだよ」
瞬は、花梨の肩に、腕を廻した。もう、花梨と、離れる事はない。絶対に。
「こんどこそ・・・。一緒に。」
「うん。」
「約束」
「うん」
白い小さなバラが、諒の墓前に、そっと、置かれた。来月から、また、同じ日に、この坂を、上る人が、増えるだろう。きっと、その中の元気なちいさな男の子は、よく通る声で、はしゃいでいるであろう・・・。
「早く!瞬パパ」
まぶしそうな、日差しの中、新しい家族が、通り過ぎていくであろう。あの夜の、約束は、今度こそ、守られたのである。
・・・・・・・・・・・・・・END・・・・・・・・




