君思う夜に。
「ママ・・・。早く」
「もう。ダメ」
颯太の、脚は、早い。追いつくのは、やっとだ。花梨は、息をきらせながら、坂を、上りあがり、墓地にたどり着いた。
「だって、ママは、花束を、持ってるんだから、颯太とは、違うの。」
抱えきれない白いバラの花束を、花梨は、墓前に供えた。
「もう、1ヶ月経つのね・・・。」
花梨は、缶コーヒーを、供えた。
「颯太ったら、自分で、パパの、お墓に、お花を供えるって言ってた癖に・・・。」
墓前に、小さく座っている颯太を、見ると、颯太は、小さな手を、合せて、何か呟いていた。
「何を、言ってるの?」
「うん・・・。」
颯太は、花梨を、見上げた。
「パパが、居なくなっても、ママがいるから、大丈夫だよって。」
「そう・・・。」
結局、諒は、完治する事なく、1ヶ月前に、逝ってしまった。最後まで、花梨は、諒の妻になる事は、なかったが、颯太を、迎え、家族として、暮らしていた。意識のある時に、花梨は、諒の、結婚の申し出を、受けようとした。だが、諒は、自分の先が、あまりない事を、感じ、結婚しようとは、2度と口にする事は、なかった。
「ごめんな・・・。結局、約束は、何も守れなかった。」
諒が、意識を失う前の言葉だった。
・・・何も、いらなかったのに・・・
花梨は、墓前のバラをみつめた。
・・・ただ、一緒にいられればいいと思っていた・・
こんな簡単に、人は、死んでしまうのか。諒と一緒にいると幸せだった。そして、諒を、思う事で、幸せになり、そして、苦しみ、人を憎んだ。諒という人に、長い自分の、人生をかけていた。
「諒。颯太の事は、心配しないで」
颯太は、自分の、家族として、一緒に生活していくつもりだ。今まで、一緒に生活していない親戚に預けるには、あまりにも、可愛そうだ。
「ママは、なんて?話したの?」
颯太は、花梨を、ママと呼び、親しんでいる。この子を、これ以上、悲しませる事は、出来ない。
「颯太と一緒にいるからって」
「うん」
颯太は、花梨の、腕に抱きついた。
「ねぇ。瞬。お願いがあるの。」
結亜は、キッチンで、コーヒーを入れている瞬に声をかけた。
「バイトを、頼まれたんだけど、力仕事なのよ」
最近、結亜は、上機嫌である。つい、この間は、白いバラを、もらってきたらしく、花瓶に生けていた。どうやら、他人に、もらったのか、大切に、花が終わってからは、ドライフラワーに、して壁に飾っていた。大翔に逢ってから、1ヶ月、結亜の心は、瞬と、一緒に居る時には、得られなかった満足感でいっぱいだった。
「頼まれてくれない?」
「お前のバイトだろう?」
結亜は、通う病院の花屋で、バイトを始めていた。それが、どういういきさつなのか、瞬は、知らなかったが、次第に、明るく生き生きとした結亜に、安心していた。
・・・あんな、傷があっては・・・・
結亜の、左の頬についた傷に、瞬は、心を痛めていた。自分が、上手く、立ち回れなかった。結亜の、気の済むように、自分は、寄り添っていこう。心に、決めていた。
「毎月、同じ日に、お花を、届けるんだけど、大翔が、腰を痛めて・・・。」
「大翔って?」
「あの・・・。バイト先の」
結亜が、少し、紅くなった。
「ふうん。」
瞬は、笑った。
「そういう事なら。」
「じゃあ、明日。ここの花屋に行って。住所渡されるから。そこに、届けるの」
結亜は、活気付いた。
「絶対よ」
ポカンとする瞬を、尻目に、メモを渡すと、忙しそうに、メールを打ち始めた。
「・・・ったく。現金な奴だ・・・。」
瞬は、呆れながらも、結亜が、誰かの、お蔭で、幸せそうに、いるのを、感じていた。
・・・それで、いいんだ・・・
・・・いつか、お前も、恋をする・・・・
そう、自分は言った。その時、結亜は、ありえないと言った。・・・が、今が、その時では、ないか。
結亜は、恋をし始めている。ようやく、その時が、来たのである。
・・・・花梨・・・・この広い星空のどこかに、いるのだろうか・・・。
噂で、元恋人の諒と、一緒にいると聞いた。それでも、逢いたいと、思うのは、何故だろう・・・。
まだ・・・。花梨への、自分の思いは、終わっていない。あの日と、同じ星月夜の夜だった。




