星月夜に、贈る思い。
時間が、経っていった。どれくらい、経っていったのだろう。颯太に、慰められ、花梨も、いつの間にか、眠っていた。人の気配に、目を覚ますと、青いマスクをした手術を、済ませたらしき医師が、目の前に立っていた。
「あの・・・。」
しっかりしなきゃ・・・。花梨は、思い、寝ぼけた顔を叩いた。
「どうだったんですか?」
「とりあえず・・・。一命は、取り留める事は、できました」
一命は。と、聞いて、少し、ほっとしたのか、立ち上がっていた膝の力が、抜けた。
「でも・・・。脊髄を、損傷していて・・・。良くなっても、もう、ご自分の足で、歩くことは・・・。」
「!」
颯太は、まだ、眠っていた。自分の脇の、ソファーで、体を、横たえ、気持ちよさそうに、眠っていた。この話は、颯太に、聞かせたくない。颯太は、パパとサッカーをするのが、好きだと言っていた。助かったとはいえ、もう、一緒に、遊べないなんて・・・。話は、まだ、続いていた。
「以前。油断できない状況です。」
間近で、轢かれたのに、助かったのは、奇跡的だった。このまま、ICUになると、聞かされたので、花梨は、面会も出来ないまま、颯太を、連れて、実家に、帰る事にした。星が、空一杯に、広がっていた。どこまでも、どこまでも・・・。こんなに、街中で、星を、綺麗に見たのは、何て、久しぶりなんだろう・・・。花梨は、寝ぼける颯太を、背負い、病院の、玄関外で、空を、見上げた。静かな夜だ。もう、あんなに、いた人達が、いない。お昼前に、病院に、駆けつけてから、なんて、時間が、たっていたんだろう・・・。もう、何年も、たってしまったような気さえした。手術が、終わるまで、あの病院で、何年も経ち、自分も、周りも、過去の、人間のような気さえしてきた。青い空に、広がる星は、無数で、月さえ、冴え冴えとし、美しかった。
「もう、少しだから・・・。」
背中の、颯太に、声を、かけ、花梨は、タクシーに、乗り込んだ。
星も、月も、美しい。
「諒・・・。」
胸が、痛んだ。何か、特別な夜の、ような気がしてきた。ここに、今、自分は、生かされている。
とめどもなく、涙が、零れてきた。
携帯が、なった。
「花梨?」
瞬から、だった。
「今・・・。あたしも、しようと思っていたの。」
何から、話せばいいんだろう。自分に、起きたこと?それとも、これからの事?心は、乱れているはずなのに、異様に、静寂だった。冷静だった。今夜の、月を、映した湖の、湖面のように、静かな心。
「何から、話したらいいか・・・。」
花梨は、寂しいそうに、笑った。
「花梨。」
瞬の、声は、花梨の寂しい笑い方で、何があったか、察したようだった。暖かく、落ち着いた声。大好きな瞬。
「逢えなくなった」
感情を、抑えた瞬の声。
「何か、あったのね」
予測できた。結亜が、黙って、自分の事を、認める訳がない。昨日までだったら、責めただろう・・・。どうして?何があったの?って。でも、今、自分は、瞬を、責めtる事は、できない。
「最後まで、一緒にいたいと思っていた」
瞬の声が、涙ぐんでいた。本当に、心の奥底から、花梨を、愛していた。その声だ。
「あたしも・・・。」
何も、言えない。責めない花梨に、瞬も、花梨に、何があったかを、察した。
「ずーっと、一緒にいたいと、思っていた。嘘じゃないの。」
そこまで、言うと、二人は、お互いの息使いを、確認するかのように、黙り込んだ。
「一緒に、居れなくなった・・・。」
ぼそっと、静寂を、破って瞬が言った。
「傍に、居なきゃならない人が、できた」
辛そうだった。好きで、一緒にいるんじゃない。そう、告げているように、感じた。
「そう・・・。」
携帯の、向こうで、瞬が、泣いていた。
「あたしも・・・。ごめん」
この、状況で、引き止める事ができようか・・・。自分を、愛してくれと、瞬に、言えるだろうか・・・。諒と、颯太から、今、離れる事は、出来ない。所詮、瞬とは、一緒になれないんだ・・・。
「花梨・・・。」
「なあに?」
「星。綺麗だな・・・。」
花梨は、タクシーの、窓から、外を、見た。
「うん。」
「あの時見た、星みたいだな」
「うん」
涙が、止まらない・・・。あの時、瞬が、まだ、学生だった時に、2人抜け出して、見にいった夜景を、思い出していた。忘れられない若すぎた夜。
「お願いがあるんだ・・・。」
瞬が、小さい声で言った。
「いつか・・・。いつか、逢おうな。」
「そうね。いつか、また、逢えるわよね」
「今まで、そうだったからな」
「うん」
「じゃ・・・。」
「じゃ・・・。」
2人は、お互いが、先に、携帯を、切るのを、待った。
「先に、切ってよ・・。」
花梨が、笑っていった。
「だな・・。」
瞬が、笑った。
「じゃ・・・。花梨?」
「うん?」
「愛してる。」
そう言って、瞬からの携帯は、切れた。
「・・・」
携帯を、みつめ、花梨は、長いため息をついた。青い夜空に、冴え冴えとした月の光だけが、冷たく光っていた。




