あの時のプロポーズ。
「待ってた!」
病院のロビーに入ると、駆けてきたのは、颯太だった。花梨の、首に、思いっきり、飛びついてきた。
「颯太君・・・。」
「待ってたんだよ!僕」
花梨の肩に、顔を、うずめていた。花梨の、甘い香りが、颯太の鼻腔を、くすぐった。
「こないんじゃないかと、思ってた・・・。」
半分、泣き声だ。
「ごめん・・。」
つい、さっきまで、瞬と、一緒だったなんて、言えない。
「こいつ・・・。ずっと、待ってたんだ。」
照れ笑いしながら、颯太の、父親諒が、歩み寄ってきた。
「本当。もう、こないかと、思っていたみたいだ。」
諒まで、そう、思っていたようだ。少し、寂しいそうに、呟いた。
「飯・・・。くらい、一緒に、たべれるんだろう?」
「ん・・・。早く、帰りたいんだけど。」
瞬が、待っている。そう言いたかった。
「話したい事が、あるんだ」
颯太を、抱きかかえた花梨に、諒は、真剣な眼差しで、告げた。
「どうしても、言いたい。」
諒は、花梨の手から、颯太を、抱えようとしたが、颯太は、抵抗した。
「だいぶ・・・。颯太は、君に、なついてしまったようだな・・・。」
諒は、ふっと、笑った。
「本当は、あの日に、君に、言うべきだった言葉を、言いたい」
花梨の顔色が、変わった。
「待って!今は、聞けない」
驚いた顔をしたのは、諒だは、なかった。
「どうして?」
颯太が、父親の、これからするプロポーズを、察して、いたのだが、断ろうとする花梨の、気配を感じたのか、顔をあげた。
「どうして?僕の、ママになってくれないの?」
昨夜、花梨の、帰った後、諒から、男同士の相談として、颯太は、綾の事を、聞かされていた。そして、これから、花梨と、一緒に生きて行きたいという父親、諒の考えに、颯太も、賛成していた。幼い颯太は、花梨に、母親の影を重ねていた。何も知らないとは、いえ、子供は、無邪気なのだ。
「ねぇ・・・。」
颯太は。花梨の腕から、滑り落ち、見上げた。
「一緒にいてほしいのに・・・。」
「颯太君・・・。」
花梨は、口ごもった。
「あの・・・。」
なんて、言おう。こんな小さい子供に・・・。
「ごめん」
花梨は、いえなかった。
「バカ!」
颯太は、そう言い捨てると、前も見ずに、病院のロビーを、駆け出した。1階の、ホールである。混んでいるとは、いえ、このまま、飛び出したら、車の、往来の多い、大通りまで、すぐである。
「ちょっと!」
花梨と、諒は、追いかけた。病院の、ホールは、混んでいて、小さい子供のように、すり抜けていくのは、困難である。花梨は、脚の早い諒に、すぐ、置いていかれ、颯太を、追うのは、諒だけに、なった。
「諒!」
颯太君を、引き止めて!願いを、こめながら、2人の後を追いかけ、中央出口を、くぐる時、人々の、悲鳴が、花梨の、耳に届いた。
「嘘・・・。」
何人かの、人が、集まっていった。
「誰か、先生を、呼んで!」
怒鳴り声がして、何人かの、人が、病院に、戻っていた。ホールを出ると、タクシー乗り場が、すぐある。その脇に、バスプール。颯太は、真っ直ぐ、タクシー乗り場を、すりぬけ、よく、綾と、病院に来ていた時、そうであったように、バスプールへ、向かおうと、横切ったのだった。
「そんな・・・。」
恐る恐る、近寄ると、人ゴミの中に、小さく動く影を、見つけた。
「颯太君?」
颯太だった。
「お姉ちゃん?」
花梨の、姿を、遠くから、みつけた途端、顔が、大きく歪んだ。
「パパが・・・。」
みりみる真っ赤になり、その姿は、また、人の波に、消えた。人々の足の、影から、セダンの、車の下に、横たわる人の影が見えた。見覚えのあるシャッツを、着ていた。
「諒?」
諒のシャツが、車の下から、見えた。慌てて、人ごみを、掻き分け、中に入る花梨。もう、意識が、混濁していて、状況が、見えなくなっていた。
「諒!」
ただ、ひたすら、諒の名を、呼んでいた。聞き覚えのある子供の泣き声が、耳についた。
「僕が・・・。」
後は、言葉にならない。誰かが、叫んでいた。
「子供を、かばって、ひかれたんだ。子供は、転んだだけで、すんだが・・・。」
車の、下からは、紅いどろっと、したものが、流れ、広がっていた。




