愛おしい人は、瞬。
「起きなきゃ。」
手を、伸ばす所にある筈の時計を瞬が、イタズラをして、遠くへ、置いた。
「もう!こんな時間じゃん!」
時計は、もう昼すぎを、示していた。花梨の実家の、部屋だった。昨夜は、あのまま、瞬が、花梨の部屋に、泊まりこんでいた。瞬からの、正式ではない、プロポーズとは、いえ、結婚の約束に、花梨の両親は、うかれた。浴びるほどの酒を、花梨の父親は、飲ませ、瞬を、つぶしにかかった。
「結局、つぶれなかったけどね。」
瞬が、隣で笑っていた。
「何か、用事があったの?」
あわてている様子の、花梨をみて、瞬が言った。
「そうなの!」
花梨は、思い出した。すっかり、浮かれていて、忘れていた。今日は、颯太の、退院する日なのだ。10時くらいには、行く約束をしていた。あわてて、携帯を、見ると、何度も、着信を、知らせるLEDが、点滅していた。
「あぁ・・・。まずった」
花梨は、頭を、クチャクチャにした。
「大切な仕事でも?」
瞬が、覗き込もうとした。
「逢わなきゃ、いけない子がいたの。おくれちゃた・・・。」
諒の子供である事は、言えなかった。そのうち、また、携帯が、着信を、知らせた。
「はい。」
花梨は、すぐ出た。
時間が、来ても、花梨は、現れなかった。颯太は、諒の用意した私服に、着替え、病室の中を行ったり来たりしながら、花梨が、来るのを、今か今かと、待っていた。最初は、ゲーム等をして、気を、紛らわせていたが、だんだん、半泣きになっていった。
「お姉ちゃんは?」
諒に聞いた。
「うん」
不安になっていた。颯太が、いれば、花梨は、必ず来ると、思っていた。だが、思いに反し、花梨は、来ない。何度か、携帯に連絡をとっても、応答は、なかった。
「そろそろ・・・。行こうか?」
「やだ!お姉ちゃん。来るまで、待つの」
颯太が、ダダをこねた。
「じゃあ、もう一度だけ。」
電話して、出なかったら、諦めて、帰る。諒は、そう決めて、花梨に、電話した。
「はい。」
何度目かで、花梨が、出た。
「俺だけど・・・。」
「ごめん。起きれなくて」
花梨は、瞬の隣で、応えた。
「お姉ちゃん?」
電話口に、颯太が出た。
「どうしたの?待ってるのに・・・。」
「ごめん。寝坊しちゃった。」
隣で瞬が、吹き出した。
「まだ、間に合う?」
花梨は、颯太に逢いたいと、思った。
「お姉ちゃん。来るまで、待ってる。」
「じゃあ。行こうかな?」
瞬を、見ると、何もしらないせいか、行って来いと、目で合図した。
「今から、行くから、待ってて」
「うん」
颯太は、諒に、替わらないまま、携帯を切った。
「お姉ちゃん。来るって!」
明るい表情で、諒に応えた。
「そっか」
ほっと、した顔をする諒。子供にかこつけ、花梨に逢える事を、喜んでいるのは、諒自身だった。
「行くの?」
瞬が、聞いた。
「顔出したら、戻ってくる」
「すぐ?」
「うん」
花梨は、髪を梳かしながら、笑顔で応えた。
「俺も、もう、帰るけど」
「わかった。じゃあ、用が、済んだら、メールする」
「うん」
瞬は、花梨を、抱き寄せ、頬に、触れた。
「本当に、結婚しような」
「うん」
「約束」
帰ったら、結亜に話そう・・・。一緒に、行く事は、出来ないという事を。花梨と、結婚するという事を、おそらく、彼女は、反対し、何をしでかすかは、わからない。それでも、説得し、認めてもらおう。花梨の事は、ずーっと、見ていた。自分に、必要なのは、花梨以外に、いないという事を、伝えるつもりだった。
「じゅあ、後で」
瞬の、笑顔だった。すぐ、その笑顔を、みる事が、出来ると、花梨は、思っていた。大切な人。諒より、瞬が、大切であるという事を、この後、思い知る事になる。




