プロポーズの約束。
自宅に、帰ったのは、少し、遅くなっていた。
「食事は?」
花梨の母親が、声をかけた。あの日・・・。颯太の母親が、命を経ってから、ずーっと、花梨は、実家の世話になっていた。今日も、すっかり、颯太が、離してくれず、帰るのが、遅くなっていた。
「うん。軽く、済ませてきた」
病院で、颯太と諒と、パンを、食べてきた。諒は、メロンパンが、好きで、よく、買って食べる事が、多かった。昔みたいだ・・・。花梨は、思っていた。向かい合って、食べていると、付き合っていた頃に、戻っていったようだった。二人に間には、小さな、諒に、そっくりの、男の子が、増えてしまったけど。
「明日、退院だね・・・。」
花梨は、颯太に、微笑んだ。
「うん。あのさ・・・。お願いがあるんだ・・・。」
颯太が、かわいらしい声を立てた。
「ママはね。ずーっと、遠い所に行って、これないんだって。だから・・・。来て欲しいの」
「ちゃーんと、言うんだぞ」
諒が、脇から、口を挟んだ。
「来てね」
照れながら、颯太が、言った。
「明日、退院する時、きてね。待ってるから。」
次第に、花梨に、懐いてくる颯太が、愛おしい。
「お姉ちゃんにきてほしいの。パパも、来て欲しいって」
「コラッ!」
颯太は、笑い声を、立てながら、元気よく、立ち去った。照れながら笑う諒と、花梨の、目線が、逢ってしまった。
「そういう事なんだ・・・。」
諒は、言った。
「明日、ご飯食べに行かないか?」
花梨が、ふと、困惑した顔を、すると、
「いや・・・。颯太が、どうしてもって・・・。ね。」
と、ごまかした。どうしたものか・・・。花梨は、悩みながら、帰宅したのだった。
「花梨!」
思い悩んでいると、奥で、母親が、また、騒いでいた。
「お客さんだよ」
声を、する方を、振向く間もなく、目の前に、懐かしい見慣れた顔が、現れた。瞬だった。
「ごめん。よく、知った家だったから」
「どうしたの?突然」
今まで、連絡しても、何の、返事もなかったのに・・・。と、言いかけた。
「携帯から・・・。花梨の、履歴が、消えていて・・・。」
聞こえたかのように、言い訳した。
「連絡できないから。直接きた。」
急いで来た様子だった。
「どうしても、話しなきゃと、思って」
「何を?」
とにかく、家族に、話を、聞かれたくないと、思って、花梨は、部屋の奥に、瞬を、連れて行った。
「考えたんだ・・・。このままでは、駄目になる・・。」
瞬は、いつになく、真剣だった。
「考えて欲しい。俺と、結婚してほしい」
「えっ!」
花梨は、思わず、声を、あげた。
「瞬。どうしたの?そんな急に?」
「急じゃない。ずーっと、考えていた。必要なんだ。花梨が、俺を必要なんじゃなくて、俺が花梨を、必要なんだって、気付いた。一緒に居たいって。」
「ちょっと・・・。」
嬉しかった。いろいろ、諒との事を、聞かれるだけだと、思っていた。無条件に、必要としてくれる瞬の、気持ちが、心の底から、嬉しかった。
「いいの?あたしで・・・。」
「傍にいたい」
「うん」
花梨を、瞬は、そっと、抱きしめた。柔らかい暖かい香りが、した。
「ずーっと。言いたかったんだ。初めて、逢ったときから・・・。プロポーズは、もっと、違う場所で、したかったんだけどね」
「じゃあ・・・。もう、一度、そこで、して。」
甘えた声を、出した。
「いいよ。新しく出来た天文台の、傍に、公園が、あるんだ。そこで・・。」
「いつ?」
「7月。七夕にしたい」
「うん。もうすぐ、だね」
「うん」
花梨は、瞬の胸に、顔をうずめた。この時、明日の約束など、花梨の頭には、なかった。




