小さな犠牲者。
病室を、覗くと、颯太は、眠っているようだった。何本もの、細いチューブが、小さな子供の体に、いくつも、ささっていた。点滴を、受けているようである。今は、泣きつかれて、眠っていた。何日か前の、花梨と、同じだった。この小さな体で、母親の死を、受け止めていた。小さいながらに、父親を、気遣い、元気にしていたようだが、体は、嘘をつけなかった。食欲を、次第に、失い、何も、出来ず、ただの、生きる屍と化していた。幼稚園の、担任も、虐待を、疑ったほどだった。
「こおいう訳なんだ」
諒は、生気のない顔で言った。いつもの諒とは、違い、一人の父親の顔になっていた。
「まだ、小さいのに、無理をさせてしまった。こんなに、小さいのに、俺の事心配してくれているんだな・・・。」
「諒。こうしてみると・・・。」
花梨は、大きな罪の意識に、襲われていた。
「あたしたち・・・。本当に、いけない事をしてきたのね・・。」
「いけない事?」
「そうよ」
「二人共、自分の気持ちに正直すぎただけだ・・・。」
「こんな事になるなんて・・。」
颯太は、諒に、似ていた。自分が、産みたかった諒に似た子供。
「あたしが、ついているから、諒は、そろそろ仕事に戻って、いいわよ」
「一人で、大丈夫なの?」
「一人で、十分だから」
諒と、一緒にいり所を、他の人に、見られたくなかった。今は、独身になった諒でも、余計な事を、言われたくなかった。
「じゃあ、お願いする」
諒は、名残惜しい表情を、すると、部屋から、出て行った。後は、花梨だけが、一人になった。部屋には、他に、子供達が、何名か、眠っていた。他の、親たちは、売店にでも、行っているのだろうか。昼下がりの、眠くなりそうな時間だった。
「あら!」
背後で、声がした。同じへ部屋の、親だろうか、片手に、飲み物をかかえていた。
「颯太君の?」
「あぁ・・。」
お母さん?と、言われそうになって、あわてて
「叔母です」
と、否定した。
「あぁ・・・。そうなの?ひどく、お母さんを、恋しがって、泣いていたから・・・。入院しているって、聞いていたものだから。」
「えぇ・・。」
面倒くさそうに、相槌をうった。
「ちょっと、長くなりそうなので・・。」
会話に、気付いたのか、颯太が、目を覚ました。
「ママ?」
「こんにちは!」
花梨は、颯太の顔を、覗きこんだ。
「誰?」
「ママの友達」
そういいながら、昔はね・・・と、心の中で、付け加えた。
「ママは?」
颯太は、まだ、母親の、死を、理解してなかった。
「まだ、入院しているの。まだ、これないから、代わりに、きたの。」
「ママに、逢いたい」
「そうね。」
花梨は、颯太の、頬を撫でていた。
「ママ・・・。」
颯太の、両目から、涙が、どっと、零れていた。周りに、気をつかい、声を押し殺し、泣き始めていた。
「こんなに、小さいのに・・・。」
花梨は、切ない気持ちで、いっぱいになった。自分達の、恋を、押し通した為の、小さな犠牲者が、目の前にいた。




