互いに、みつめるもの。
「だいじょうぶよね」
妹の、麻衣莉達が、病院の会計を済ませると、花梨に、声をかけた。
「ん・・・。」
花梨は、気のない返事をした。
「結局、瞬は、あれから、一度も、こなかったの?」
麻衣莉の、質問に、花梨は、答えなかった。あれから、瞬は、姿を、見せなかった。諒は、花梨と、繫がりたがったが、もう、そんな気には、なれなかった。諒の、後ろに、みえるものは、花梨を、更に、不幸に、陥れるものばかりだった。純粋に、諒への、愛情だけを、考えていられる程、諒も、花梨も、若くなかった。諒に、病室で、抱きしめられた時、一番、恋しかったのは、瞬だった。綾が、亡くなった時に、諒への、思いは、封印されてしまったのだろう・・・。それとも、もう、諒への愛情は、とっくに、終わっており、ただ、未練だけが、亡霊のごとく、つづいていただけなのか・・・。瞬は、こなかった。
「瞬に、メールしたりしなかったの?」
瞬は、麻衣莉の、元恋人でもある。
「あたしから、言おうか?」
「別にいい」
花梨は、不機嫌に、車に、乗り込んだ。
「もう、いいんだ」
・・・諒とも、終わり。瞬とも・・・。終わろうか・・・。
「お姉ちゃん!そんな、迎えに、こなかったからって!」
「いいの。考えてたんだ。」
麻衣莉は、花梨の、隣に、座った。
「瞬とも、うまくいかない。何か・・・。怖いんだ」
「どうして?」
「きっと、あたしの、恋は、上手くいかない」
「諒との事が、そうだったからって、決まってる訳ないじゃない」
「こわいの」
いつも、昔から、花梨と、麻衣莉の、立場は、逆転する・・・。
「こわい・・・。本気になった途端に、失って、しまうのが・・・。」
「姉ちゃん・・。瞬は、そんな人じゃないよ。」
「でも。」
深く傷ついていた。本気で、諒を愛し、そして、その思いが、一つの、家庭を壊し、命を、奪い・・・。幼子から、母を、奪った。
「もう、少し、一人でいたい・・・。」
「そうなの?」
「・・・」
嘘だ。麻衣莉は、思った。今、瞬が、現れたら、瞬が、花梨に、変わりない愛を、伝えれば、この不安は、消えるのに・・・。今、花梨は、不安定になっている。
「花梨・・・。」
麻衣莉は、姉である花梨の、右手を、優しく擦るのであった。
「お兄ちゃん。外にでも、出てみたら。」
ずーっと、出窓に、座り、外を、眺めている瞬に、結亜は、声をかけた。あれから、結亜は、瞬の、マンションに、いついていた。
「いいよ。」
瞬は、何も、やる気が、でなかった。本当は、花梨に、逢いに行きたい。行きたい気持ちを、抑えようと、他の事に、取り掛かろうとするが、心が、飛んでしまい、する事が、全て、疎かになってしまう。何を、やっても、集中できず、気が、ソゾロに、なってしまう。
・・・逢いたい。花梨に・・・。
逢いに行くのは、簡単である。だが、逢って、また、諒との、間を、見せ付けられるのが、辛かった。
花梨が、諒を、愛おしそうに、みつめるのが、辛い・・・。
「何する気も、ないんだ。」
ぼーっと、窓から、階下を、見下ろしていた。携帯を、何度、みつめても、花梨からの、メールを知らせるメッセージは、なかった。
「瞬」
結亜は、瞬を、後ろから、抱きしめた。
「あたしじゃ・・・。だめなの」
「ごめん」
瞬は、うなだれた。
「お前は、妹でしか、ないんだ」
「あたしは、お兄ちゃんっては、みてないのに・・・。」
結亜の、優しい額が、触れた。
「傍に、いてほしいのに」
「傍に、いる事は、できるよ。ただし・・・。兄としてね」
結亜の、白い顔を、撫でた。
「大切な妹なんだ」
「嫌なの」
瞬の手を、結亜は、振り払った。
「妹は、嫌なの」
結亜は、叫んだ。
「あたしだけを、みてほしいの」
「ごめん」
瞬は、ふたたび、遠くを、みつめるだけだった。




