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君を巡る思いは、辛く。

もし、その場に自分が、いたら、それは、起こらなかったのだろうか・・・。いつも、推測してしまう。その場に、いなければ、わからない。自分が、傍にいない間に、花梨は、そんな思いをしていたのか・・・。諒という男と出逢い、付き合った。しかし、綾という女性が、妊娠するという形で、別れたものの、秘かに、続けられた関係。綾は、死という形で、諒と花梨を、永遠に引き離した。どんな思いで、花梨は、眠り続けているのだろう・・・。あの時、自分は、非力だった。でも、今なら・・・。

遠く、陽は、昇り、周りは、うっすらと、明るくなってきた。夜が、明けたのである。瞬は、一晩中、花梨に付き添っていた。花梨は、瞬の言葉に安心したのか、深い寝息をたてて、眠り続けていた。人を愛するのと、愛されるのは、どちらが、幸せなんだろう。瞬は、花梨を、ずーっと、思い続けていた。花梨と別れてから、年頃の男の子が、そうであるように、いろんな女の子と、付き合ってきた。たぶん、それなりに、愛してきたと思う。でも、それは、一度、胸に染み付いた花梨への果たせなかった思いには、かなわなかった。

・・・忘れられない・・・

それは、瞬の心の中に、つきまとう。呪縛。

・・・今度こそ・・・

自分は、花梨を、幸せにしたい。瞬は、思い、誓っていた。窓から、差す光が、花梨の横顔を、映し出していた。ずーっと、恋焦がれていた人は、苦しい胸の内にいる。せめて、枕元の、花でも、活けてあげようと、瞬は、立ち上がろうとした、その時。ドアが、音をたてた。

「!」

一目見て、瞬は、それが、誰か、わかってしまった。

「!」

相手も、瞬が、花梨と、どういう間なのか、わかったようだ。瞬は、一瞬、花梨が、寝入っているのを、確認すると、あわてて、ドアを、押しやった。

「すみません。ちょっと、外へ」

相手は、瞬に、言われて、状況を、理解した。

「・・・」

相手は、すぐ、瞬に、言われるがまま、廊下へ、出た。顔色の悪い、冴えないサラリーマンに、見えた。

「諒さんですね」

事情を、聞かれに行った足で、真っ直ぐ、花梨のいる病院に、向かってきたのだろう。疲れた顔をしていた。瞬は、諒に逢ったら、言いたいと、思っていたことが、たくさんあった。しかし、こうして、疲れた冴えない男を、前にして、瞬は、何を、言うべきか、言い出せなくなってしまった。

「花梨の・・・」

先に、諒が、言いかけた。花梨の彼とでも、言いたかったのだろうか。

「はい。お付き合いさせていただいてます。」

勝ち誇った気持ち気持ちで、瞬は、言った。

「あぁ・・・。そうだったのか」

少し、寂しい表情を、諒は、した。

・・・何て、寂しい顔をするんだ・・・

瞬は、思った。諒の、たぶん、以前は、綺麗だったであろう顔は、今は、やつれ冴えない顔になっているが、寂しそうな憂いのある表情は、男である瞬からみても、ぞっと、する色気があった。花梨が、好きになり、愛した男。

「僕は、マズイ所にきてしまったようだね」

諒は、瞬に言った。

「綾の事で、花梨に何かあったらと思って」

花梨と、呼び捨てだった。少し、瞬の、心に小波が、立った。

「俺が、ついてますから」

瞬は、呼び捨ての、諒に対抗した。

「それより、奥様は、どうしたんですか?」

嫌味だ。

「元。だけどね。」

諒は、否定し、笑った。

「事故だった。元々、安定剤を、飲んでいてね。深酒を、し過ぎた上で、薬を、飲んでしまったらしい。事故だ」

事故。と、何度も、諒は、言った。

「花梨が、勘違いして、何かしでかしては・・・。と、思って。」

諒は、いかに、自分が、花梨を、思っているか、瞬に、言ってるように、聞こえた。

「ほんと。心配いらないです。俺が、いるんで」

瞬は、言った。早く、帰ってほしい。

「花梨は、俺がみます。だから、大丈夫です」

「君が?」

諒は、瞬を、凝視した。

「無理だよ。君は、一度、花梨と、別れてる。君には、荷が、重いよ」

瞬は、むっとした。

「あなたに、言われたくない。お子さんだって、いるんでしょう?一度、花梨を、捨てといて。よく、言えますね」

怒りが込み上げてきた。

「事情が、あったんだ。花梨を、結果的に、傷つけた。」

諒は、引かなかった。自分の、花梨への、愛情は、否定しなかった。

「花梨を、思ってる。その気持ちは、変らない。」

「だから、奥様は、命をたった。あなたの、無責任な思いは、また、花梨を、傷つけた。更に、深くね!」

とにかく、花梨が、目を覚ます前に、帰したい。

「帰ってください」

瞬は、ドアの前に、立ちはだかった。

「逢ってほしくない!」

「それは、花梨が、決めること」

諒は、無理矢理、瞬を、押しのけ、ドアを、開けて入ろうとした。

「ちょっと!」

瞬は、引きとめようとしたが、諒は、ドアを、開けてしまった。

「花梨!」

気づけと、言わんばかりに、声を、かけた。

「僕だ!」

諒の声に、反応するかのように、花梨は、目を、見開いていた。真っ直ぐな目が、天井を、見ていた。

「・・・諒?・・・」

忘れていた筈の、懐かしい声が、花梨の、深く眠っていた意識を、揺り起こした。

「諒!」

花梨の、黒めがちな瞳が、大きく広がり、涙が、目尻から、すっと、落ちていった。ほんの、一筋、今まで、心に、秘めていた思いを、告げるかのように、流れ落ち、諒への、思いが、よみがえってきてしまった。

「花梨」

その涙に、応えるかのように、諒は、ベッドの脇に駆け寄っていた。

「事故なんだよ。花梨。君のせいじゃないんだ」

諒は、花梨の手をとった。

「僕が、悪いんだ。花梨」

手を、握り、諒は、ひざまずいた。目を、伏せる諒は、いつしか、涙を、こぼしていた。

「辛い思いばかりさせた・。」

花梨は、諒を、見ていた。暖かい目だ。その目は、諒を、思っている事を、告げていた。

「諒。顔色悪い。」

愛おしく諒を、みつめる花梨を、瞬は、遠くみていた。黙って、ドアの前から。そんなに、離れて距離では、ないのに、瞬には、遥か遠く、感じた。

・・・花梨・・・

帰るのは、自分だ。瞬は、思った。二人の間に、自分のはいる隙は、ない。瞬は、そっと、ドアを、開いた。

「花梨。」

ふりかえった。自分を、追いかける視線もない。

・・・さよなら・・・

瞬は、静かに、ドアを閉めた・

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