兄を、獲られたくない。
花梨は、答えに、詰まった。瞬の事は、大切に思い始めてる。勿論、好きである。だが、どうしても、瞬との、生活していく自分が、想像できない。一緒にいて、安らぐし、逢いたいとも、思うが、ずーっと、一緒に生きていく事が、想像できない。正直に、話すべきか。
「あのね。」
瞬の、真っ直ぐな目が、そこにあった。
「失いたくない人」
正直な気持ち。
「逢いたいっても、思う。」
瞬の、顔が、ほころんだ。本当に、そう思う。瞬と、いれば安心して、いられる。傷つく事もない。ただ、その分、ドキドキしたりとか、ときめく事も、あまりなかったが、それは、言えなかった。
「それは・・・。」
瞬は、興奮していた。
「ずーっと、一緒に、いたいって事?」
結果を、急ぐのか?
「花梨。俺とさ・・・。本気で、考えてくんない?」
「何を?」
「あのさ。」
瞬は、恥ずかしそうに、目を伏せた。
「結婚。前提」
「本気なの?」
「うん。ずーっと。俺。花梨の事だけ、考えてた。」
「嘘でしょ。」
信じられなかった。こんな簡単に、プロポーズされる事が、あるなんて。あんなに、諒と、結婚したくても、結局、その台詞は、聞けなかった。
「信じられない。」
「信じていいんだ。俺、幸せにするから。」
「・・・・」
「花梨。返事は、ゆっくりで、いいんだ。俺と一緒にいて」
突然の、プロポーズに、花梨は、動揺した。諒と、復活する事は、ないと、思う。が、心のどこかで、期待している。自分の中に、諒と、どうにか、なりたいという、願望が、あった。
「瞬。ありがとう。でも、少しだけ、考えさせて。だって、逢って、間もないのよ。あたし達」
とりあえず、時間が、欲しかった。
「いいよ。俺の今の気持ち、わかってくれるだけで。」
瞬は、微笑んだ。自分の、気持ちを、伝える事が、出来て、安心したようだ。
「うん。少しで、いいの。」
「うん。」
瞬は、優しく、花梨の肩を、だいた。窓の、外に、高層ビルの、ライトが、反射して、幾重にも、見えていた。
いつもの、とおり、花梨の帰りを、マンションの、下で、見送ると、ホールに、人影が、あった。
「お兄ちゃん。」
妹の、結亜だった。
「どうした?」
瞬は、妹の結亜に、向かい合った。まだ、高校生の、結亜は、塾の帰りらしく、重そうなバッグを、さげていた。
「遅くなったから、送ってもらいたくて。さっきから、携帯かけてるのに、出ないんだもの。」
結亜は、むくれた。瞬だけ、家族から、離れて、街の、中に、マンションを、借りている。妹の、結亜は、街の塾の、帰りが、遅くなると、よく、瞬に、送ってもらって、いた。
「あぁ、ごめん。ちょっと、忙しくて。」
「さっきの、女の人・・・。お兄ちゃんの、新しい彼女?」
結亜は、花梨の、帰った先を、鋭い目で、睨んで言った。
「前から、思っていた人。」
瞬は、言った。
「そう。」
結亜は。その端整な、顔を凍りつかせて言った。
「続くと、良いわね。」
「なんだ、それ?」
苦笑いした。
「別に。」
「送っていくよ」
瞬は、妹の、背を押した。そう、妹。・・・と、いっても、瞬の母親の再婚相手の、連れ子である妹であるが・・・。妹の結亜が、瞬に思いを、寄せているのは、誰の目にも、判っていた。わからないのは、瞬だけであった。




