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6 大商会とフルーツゼリー

6 大商会とフルーツゼリー


 せっかく王都に住んでいるのだから休みを使って今日も聖地巡礼だ。目的地は攻略対象カルバンの、サラコール商会。本編でも有名だったようだけど、今や大通りに店を構える王家御用達の大商会になっている。

 基本的に大通りは上流階級向けだから、私みたいな庶民が店に入るとつまみ出されてしまうかもしれない。手持ちで一番綺麗な服を選んではきたけれど、どこかの小間使い……というにも厳しいかな。もういっそお上りさん丸出しでもいいから、遠目にチラッと眺めるだけでもしたいと思っている。


 ゲームでのカルバンは、フィルーゼに協力していた商人だ。【アッシャーラ】に関連する情報を提供する代わりに、義賊的な活動を依頼していた。義賊活動をするとき──主に夜のフィルーゼは『シャムス』と呼ばれていた。確か太陽って意味だったかな。彼女の髪はおひさまのような金色だから?とプレイしながら思った記憶がある。

 依頼されたのは不当契約をする悪徳資産家から書類を拝借したり、騙し取られたアクセサリーを持ち主に返したり、出どころ不明な金を貧民街周りに配ったり。恐らくその活動自体が目的ではなさそうだとフィルーゼも思っていたけれど、【アッシャーラ】の遺物は金持ちのコレクションと化していて、そういった家に入るための情報を手に入れられるので都合良かったんだろう。物語の中でも、カルバンは特定の家の力を削ぎたいようなことが仄めかされていた。

 フィルーゼは特に貧民街へお金をばら撒くことに思うところが合ったからか、エルレン王と婚姻してからは貧民街や孤児院への自立的な支援に力を入れているのかもしれない。それが今の治安の良さに繋がっているから有り難いものだなぁ。


 さて、城から真っ直ぐ大通りを抜けたところにある噴水広場。サラコール商会はこの広場の外周にある。噴水に腰掛け……ようかと思ったけれど、このあたりでそんな場所に座るような人間はいないんだった。なるべく悪目立ちしないようにしなきゃと思いつつそっとそちらへ目を凝らす。

 大きな装飾窓は上の方だけがステンドグラスみたいになっていて、店の中をほんのり見ることはできる。とはいえ、あそこでお買い物できるような皆さんは奥の個室に行ってしまうのでエントランス周りだけ。

 と、ドアマンが開けた扉から誰かが出てきた。その人は何故か首を少し捻ったあとまっすぐこちらに向かって歩いてくる。思わずキョロキョロ周囲を見たけれど、方向的に私しかいない、かもしれない。一体なんだろう。じっと店内を見ていたのがバレて文句を言われる、とか?


「やあ、お嬢ちゃん」


 この場から離れたほうがいいかなと迷っているうちに声をかけられてしまった。灰色の髪を後ろに撫でつけて、上等な布を使っているだろう服を着た赤い眼の男の人。見覚えはない……と、思うけれども。


「骨董市ではそちらの腕輪をお買い上げどうも」

「……あのときの商人のおじさん!?」


 目を丸くしている私に「まあ君から見たらそうね、おじさんかもね」と商人さんは苦笑いしている。骨董市での格好と雰囲気が違いすぎて全くわからなかった。なんと、カルバンの商会に出入りできるぐらいの人だったのか。


「あのお店で何か買い物をするのかい?」

「ええと……この辺りのお店をちょっと覗いてみたくって。あそこはあの窓が綺麗だったから見とれていました」


 聖地巡礼とは言えないし、無難に答えておく。嘘ではないからね、大通りのお店はどこも外観が整っていてそれだけでも見ていて楽しい。

 商人のおじさんは、そうだ、と言いながら何やら取り出した。


「甘いものは好きかな?」

「好きです」

「それならこれを」


 いただきものだけど、と差し出された箱の中にはカラフルな……赤や緑、黄色と、砂糖をまぶしたらしい色とりどりのお菓子が入っていた。もしかしたら琥珀糖ってやつかも。このぐらいの文明感だからか、やはりこの国でも砂糖は高価。つまり、これはすごく、お高いやつでは?

 怪しいものは入ってないぞ、というように一つおじさんがかじって見せる。あれ、かじれるぐらいなんだ。思ったより柔らかいのかな。

 知らない人から食べ物をもらってはいけないと思いつつも、見た目の綺麗さに惹かれ、好奇心のほうが勝ってしまった。だってどんなものなのか気になる!! 促されて、宝石を模った青い色のものをつまむ。い、いただきます!

 外側が砂糖を結晶化させた糖衣で硬い手触りだけど、押してみると柔らかく弾力もある。かじるともっちりして、レモンのような柑橘類の香りだ。上品な後味で……何故だか懐かしい感じがした。


「お口にあいそうかい?」

「とても美味しいです……! 素敵なものをありがとうございます」

「それならもらってくれると有り難いんだが」


 えっっ


「は、箱ごとですか?!」


 あまりの申し出に思わず大きな声になってしまった。商人のおじさんはどこか可笑しそうに笑った。曰く、商談で土産としてもらったけれどこの食感が苦手らしい。確かにちょっとねっとり歯につく感じがして独特かもしれない。


「そんな風に美味しく食べてもらえる方が、作った人間も嬉しいだろう」

「まあそれはそう、かも……?」

「水に濡らしたりしなければ半年は保つから!」


 そう言うと、おじさんはさっさと私に箱を押し付けて行ってしまった。ぽかんとしているうちに姿も見えなくなっていた。なんと素早い。

 よく見ると箱にはさっきまで見ていたサラコール商会の文様が掘られている。つまりはこれはあそこで取り扱っている商品なんだろう。商談でもらったと言っていたけれど、あのおじさんはそんなに大物だったということだろうか。受け取ってしまったものは仕方ないね、うん。貴重な甘味、大事に大事に食べよう。


 帰ってから改めて箱を開けてみると、宝石以外に花の形のものもある。どうやらこれは海の向こうから仕入れたらしい。レモン、オレンジ、それにシナモンや他にもスパイシーな香り。今度は白っぽいものを摘んでかじってみると、ナッツ……くるみが入っているみたいだ。これもかなり美味しい。あれだ、仏壇にあったフルーツゼリーみたいなお菓子に似ている気がする。だから懐かしいと思ったんだな。


 最後の一個と赤色のをもちもちかじりながら思う。王都だけでなく、他の聖地巡礼もしたい。そう、やっぱり行くなら【アッシャーラ】だ! フィルーゼの故郷である、あの島に行ってみたい。なるべく早く実現するためにしっかりと計画を練らなきゃ。

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