5 買い出しとコロッケサンド
5 買い出しとコロッケサンド
今日は朝から頼まれて足りない食材の買い出し。市の立つ午前中でないと買えないものも多いから、お店でメモを受け取ったらすぐに出発だ。
「おはようございます!」
「アイリーンちゃんおはよう! いつものやつかな?」
「はい、お願いします!」
すっかり馴染みになった香辛料のお店で『いつもの』だけで商品が出てくる。お店オリジナルスパイスの配合はだんなさんだけの秘密なのでおかみさんも知らないらしい。買い物を任されてから材料だけは概ねわかったので、あの味にできないかたまに試しているけれど全然だめだ。もう無くては物足りないものになってしまったので、いつか完璧に再現してみたい。
あとは果物店でお肉のソースに使っている大きくて甘いザクロみたいな果物と、外側がちょっとつぶつぶしていてなんだか見た目が怖い果物。これは酸っぱいブドウみたいで、目をつむればなんとか食べられる……けど、集合体みたいな外見がどうしても苦手。前世と全く同じ食べ物もあるけれど、こうして見慣れないものがちょくちょく出てくるから王都ってすごい。
全ての買い物を終えての帰り道、匂いに惹かれて屋台をついつい覗くとひよこ豆コロッケだった。ここはずっと気になっていたところで、売り切れていないのは初めてだ! だんなさんとおかみさんの分もお土産に買っちゃおう!
帰るまで待ちきれずにがぶりとかじってみると、外側はかりかり、中はほくほく。ああーー、これ、いいなぁ。ピタパンに挟みたい!!と思ったら声に出ていたみたいだ。屋台のおばさんがにこにこしながら嬉しそうに返事をくれた。
「へえ、そういうのもいいね。
おたくのピタサンド、美味しいから私も好きだよ。特にデーツのやつ!」
「ありがとうございます!」
食堂では先月からテイクアウトのピタパンサンドを始めた。手早く汚れず食べられるという口コミが常連さんたちから広がり、昼前には売り切れてしまう人気商品になっている。肉や魚を水分の少ない野菜と炒めた具が主流だけど、家のデーツで作ったジャムを挟んだものもかなり人気。そもそもこの辺りでは甘い物サンドみたいなものはあまり習慣がないからか、物珍しさもあるみたいだ。
あとは、炭水化物プラス炭水化物みたいな食べものは見たことないような……? 前世、特に私の住んでいた日本なんてそういう類のものがたくさんあった。コロッケは作るの自体揚げ物で手間がかかるもんな。商品にはしづらそうかもしれない。
あ、そうだ、同じ系統なら焼きそばパンもいい。でもこの国では麺といえばうどんみたいな太いものしか見たことがない。うどんパン……悪くはないけど、食べにくいか。いわゆる中華麺ってどんな風に作るんだろ? 「かんすい」とかなんとか……そもそもそれが何かわからないし、ウスターソースもなにやらたくさん果物が入っていると聞いたことが……程度しか知らない。
こういうとき、もっと前世での知識があればなぁと思ったりする。物語のようにいわゆるチート無双できる人たちは、きっとたくさん勉強して頑張ってきたんだろうな。私は勉強とか雑学とか恐らく好きな方だったような気がするけど、全然身についてないもんね。
お店に帰ると、早速給仕に入って注文を捌いていく。バタバタと動いているうちあっという間に休憩の時間になった。
「アイリーン、破けちまって使えないピタでいいか?」
「やった! 嬉しいです」
なんとちょうどいいところに! だんなさんから受け取った美味しい肉野菜炒め入りのピタサンドにひよこ豆コロッケを追加して、いただきます!
「それは……さっきのコロッケか?」
「はい! 挟んだら美味しそうだなーと」
「あたしらもそれやろう!」
だんなさんとおかみさんも挟んでいるのを横目に見つつ、大きく口を開けてかじる。コロッケは冷めてるけどまだサクサクしているし、肉野菜炒めがシャキシャキしていてちょうどキャベツを挟んだコロッケサンドって感じだ。
「ボリュームもあっていいじゃない」
「コロッケがメニューの日に試し販売するか」
お二人にも好感触。コロッケサンドが定期的に食べられそうで私得だ。
「そろそろ建国祭のことも考えなくちゃな」
「出店をやるんですか?」
「そうだね、毎年やってるから」
建国祭は、名前のままこの国の建国記念日を祝うものだ。数え切れないぐらいの出店が集まり、文字通りお祭り騒ぎになるらしい。しかも今回はなんと、建国200年の節目。いつもの式典に加え、王家の人たちのパレードもある予定だと聞いている。王族の姿絵は礼拝堂とかの公共施設でも見られるけれど、直接となると折々の式典で城のバルコニーみたいな遠目からしか見られない。これは推し一家の姿を近くで見られる、もしかしたら一生に一度かもしれないチャンスなのだ!
「今年はこの人気だから、ピタサンドにするか。
仕込みも楽だしな」
「アイリーン、また何か新しい具を思いついたら教えてね!」
「はい、わかりました!」
こうして頼りにされるのもとても嬉しい。数ヶ月先の建国祭に向けて、色々メニューを開発しなきゃ!