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19 建国祭とアイスクリーム①

19 建国祭とアイスクリーム①



 色々と準備を進めるうちにあっという間に建国祭当日がやってきた。いつもの建国祭も国軍によるパレード自体はあるけれど、今年は王族の参加もあるので午後も半ばから開始する見込みだ。

 うちは予定通りピタサンド4種で出店する。ピタサンドオンリーだから、毎日用意していた量の3倍くらい準備しているけれど、果たしてどれくらい忙しくなるだろうか。


「鶏のやつをくれ!」

「私はデーツにチーズを追加で」

「はいっ、少々お待ちくださーい」


 ピタサンドは文字通り飛ぶように売れていった。普段からも人気だったけど、あっという間に長蛇といえる列になってしまった。注文を捌いていると見覚えのある顔がひとつ。


「やあお嬢ちゃん、売れ行きはどうだい?」

「いらっしゃいませ、ティルキさん!」


 ピタサンドを食べ歩きしている人を見て気になって来てくれたらしい。マントゥとは面白いな、と言いながら、デーツのサンドも合わせて買って行った。

 同じく食べ歩きの効果か、その後もお客さんは途切れることなく、しかも何個も買っていってくれる。全体的にはやっぱり見慣れた揚げ鶏とデーツがよく出ている感じだ。時折常連さんたちが代わる代わるやってきて激励してくれた。ピタサンドを仕上げて、渡して、と夢中で進めているといつの間にか昼になっていた。

 昼をちょっと過ぎると、そろそろ皆パレード待ちに移動したのか少し列に並ぶ人が大分減った気がする。午前中の間に思った以上売れたので具の在庫もかなり少なくなってきた。仕込んであった最後のデーツジャムの鍋をキッチンから運んでいると、おかみさんからヘルプが飛んだ。もしかしてたくさん注文が入ったのかな?


「こんにちわ、アイリーン様」

「わあ、ベルカンさん!

 来てくれたんですね!」


 店の前に出ると、ちょうどお客様として注文していたのはベルカンさんだった。相変わらずにこやかで綺麗な人だなぁ。


「アイリーン、そのお客さんはたくさん買ってくれたからどれかオマケしてあげな」

「わかりました!」


 知り合いだとわかったおかみさんは、私にそう伝えて他の注文分を作りにいった。


「皆さんはお元気ですか?」

「ええ。今日は建国祭なので忙しくしておられますが……

 デーツサンドを直接買いに行くんだと言うルル様をジャン様と姉が留めている間に、こうして私が買い出しに」


 ルルちゃんてば相変わらずみたいだなぁ。でも楽しみにしていてもらえたのはとても嬉しい!

 ベルカンさんは4種類全部を3つずつ頼んでくれたようだ。持ち帰り用のバスケットもちゃんと持参していて、その中に出来上がった分を詰めていく。そうそう、オマケ分も入れなきゃね。


「たくさん買ってくれたからオマケをって、おかみさんが。

 どれにします? ベルカンさんはこの中ならどれが一番食べたいですか?」

「……私が、ですか?」


 こそっと聞いた私の問いに、ベルカンさんはわずかに驚いた顔を見せた。少し考えた後、デーツジャムのでしょうか、と答えてくれた。


「そうしたらはい、デーツのサンドをもう一つオマケです!」


 買って帰ったのは毒味も必要だろうし、さすがにジャンくんとルルちゃんが4種類全部食べるわけじゃないだろうけど、1つ丸々自分の分があるって嬉しい。と私は思うんだけど。


「ありがとうございます」


 ベルカンさんは何故かクスクスと笑ってバスケットを受け取った。ベルカンさんはアーデルと同じく、どちらかというと表情を敢えて乗せているようなスンッとしたイメージだから、さっきといい、珍しく素が出たような表情だった。


「今度はまた、時間のある時に食事をしに来ますね。

 ……流石にあのお二人は連れてきませんので、ご安心ください」


 そう言うと、ベルカンさんはいたずらっぽく片目を閉じて見せた。そうだな、ジャンくんやルルちゃんみたいないかにもオーラのある人たちが来たら、食堂は大騒ぎになっちゃいそうだもん。


「では、また」

「はい、お待ちしてます!」



 その後も緩やかにお客さんは途切れず、有り難いことにパレードの始まる前までにはピタサンドは売り切れた。定番化していたデーツジャムのおかげか、バナナの方もすんなり受け入れられたみたいだし、マントゥは何度かおかわりを買いに来た人もいた。どちらも、これからのレギュラーメニューに加わることになりそうだ。


「アイリーン、あとはやっておくからもう行っておいで」

「でも……」

「楽しみにしてたんだろ?」


 片付けがある程度終わったところで、おかみさんとだんなさんがそう言ってくれた。洗っていた皿をさっと取り上げられ早く早くと急かされる。ここは有り難く従っておこう。

 もうすぐ、もうすぐだ。逸る気持ちを抑えきれずパレードルートになっている大通りまで行くと、見渡す限り人だらけ。ちょっと身動きできないレベルかもしれない。思った以上の混み具合で、うーん、こんな調子で本当に見られるだろうか。


「いたいた、アイリーン!」

「お兄ちゃん!」

「ほら、こっち!」


 向こうから人混みをかき分けるようにお兄ちゃんがやってきた。手を引かれるまま、同じく人をかき分けつつ大通りの中心へずんずん移動していく。えっ、いいのかな。ちょっと横入りみたいで気が引けるけど……


「ほら、着いたぞ」

「「アイリーンちゃん、いらっしゃい!」」


 お兄ちゃんが連れてきてくれたのは、なんと最前列、食堂の常連さんたちがたくさんいる一角だった。


「アイリーンちゃん、すっごく楽しみにしてただろ?」

「だからほら、朝から場所をとっといたんだ!」

「皆さん……!! ありがとうございます……!!!」


 常連さんたちはそれぞれ得意そうに説明してくれる。なんて、なんて有り難い……! 感激のあまり言葉が出なかった。ほらほらと促されて本当の最前列に押し出された。

 通りにはパレードの幅を確保するため、人がなだれ込まないように簡易な柵と、あと等間隔に警備の人員が置かれ、巡回している。あれ、あの人は……


「ベステさん?!」

「アイリーンさん! 会えてよかった!」


 軍服に身を包んだベステさんは、キリッとした様子でとても良く似合っている。思わず声をかけると、朗らかに笑ってこちらまで来てくれた。


「ベルカンの買ってきたピタサンドを食べましたよ、とても美味しかったです」

「ありがとうございます……!」


 ベステさんはそのまま近くの警備兵と交代した。どうやら今日はルルちゃんたちの護衛ではないらしい。

 ああ、今日は色々な人に会えて嬉しいな。それに、もうすぐ。もうすぐだ。

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