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17 王都への馬車とサボテンジャーキー

17 王都への馬車とサボテンジャーキー



 再び王都に向かうための準備も進めつつ、今回の納品分をチェックした。うん、今年のデーツも出来が良さそうだ。商会の馬車は昨日のうちにキラビルについているらしいので、予定通り出発できそうだ。


「おーい二人とも、馬車が来たぞ」

「はーい」


 私も荷物の積み込みに向かわなきゃ。商品倉庫の前にはがっしりした幌付き馬車が2台停まっていた。王都にはお父さんとお兄ちゃんが行く予定だったけど、さらに私一人増えても全然問題なさそうな大きさだ。お父さんが挨拶をしているのが例のサラコールからの使いの人だろうか。


「急な注文に対応してもらってありがとうございます。

 こちらも断れない相手だったもので」

「いえいえ、是非今後に繋がればと思います。

 王都までは娘も一緒に行くことになりまして……タイラン、アイリーン!」


 お父さんの呼ぶ声につられてこちらを振り返ったその人は、私を見ると驚いた顔をした。


「おや、君は……」

「腕輪の商人さん!」


 灰色の髪に赤い瞳、今度はさすがに忘れてない。いつかの商人のおじさんだ! まさかこんなところで会うなんて。今日のおじさんは、旅装だからか最初に会ったときと近い格好だ。


「アイリーン、知り合いなのか?」

「うん、骨董市でこの腕輪を買ったんだ。

 それにあの美味しいお菓子もくれた人!」


 後半部分でお兄ちゃんが呆れたような顔をした気がするけれど見ないふり。


「お菓子、家族と美味しく食べられました。ありがとうございます!

 商人さんはやっぱりサラコールの人だったんですか?」

「厳密には違うが、同じ系列の人間だ。

 お嬢ちゃんとは何かと縁があるのかもな。

 改めて、俺はティルキだ。よろしく」


 そう自己紹介すると、ティルキさんは気さくに手を差し出してくれた。


「ここの娘のアイリーンです。王都までお世話になります」


 お兄ちゃんやお父さんとも改めて王都までよろしくと握手を交わし、荷物を馬車へ積んでいく。一台はティルキさん自身が動かして、もう一台も基本はここまで乗ってきた御者のハルクさんが操縦していく。お父さんもお兄ちゃんも馬車は扱えるので、道中交代しながら進んでいくことになるかな。私も扱えなくはないけれど、いつもうまくいかないのでちょっと苦手だ。


「食べすぎるなよ」 

「身体に気をつけてね」

「手紙を待ってるわ、アイリーン」

「美味しいお土産、次も期待してる〜!」


 お母さんたちに見送られて実家を出発する。今回は突発的に旅に出たけど、次はいつ帰ってこられるかな。収穫のときは人手もいるし、またその時期には、帰れるといいな。





 家から王都まで行くときは一人だったので、今度はお父さんとお兄ちゃんも居てちょっと嬉しい。王都までの道はまだ【アッシャーラ】直通の道ほどではないけれどちゃんと街道として整えてある。旅人小屋だって規模は大きくないけどちゃんとあるのだ。今回は馬車もあるので、少し離れたところに馬車を停めて寝泊まりすることになる。がたごと揺れが腰に響くけど、歩かないでいいのは大変楽だ。


「アイリーンも食べるだろ?」

「食べる!」


 ご飯のとき、ティルキさんたちへ分けるついでにお兄ちゃんが渡してくれたのは保存用に加工したヨーグルト。ヨーグルトの水分をこれでもかというぐらい飛ばして、塩を足し小さく丸めたものだ。家によって作り方が違うので、その家庭ごとに味が結構違う。マーヤが作るのはハーブが入っていて美味しいんだよなぁ。口に含めるサイズ感なのでそのまま舐めてもいいけれど、煮込んでスープにすることもある。


「じゃあお返しにはい、これ!」

「サボテンジャーキーか。お前好きだよなぁ」

「今回は自信作だよ!」


 実家に居たときもよく作っていたサボテンジャーキー、この滞在の合間に作っていたのだ。ティルキさんがサボテンジャーキーを興味津々という感じで見てきた。


「お嬢ちゃん、俺にももらっていいかい?」

「どうぞ!

 ……あ、でももしかしたら、食感が好みではないかもしれないです」


 お父さんやハルクさんにもジャーキーを渡して、火起こしする間に皆でかじる。いただきます!

 素材がサボテンなので、噛みごこちはぐにっともっちりグミみたいな感じだ。ティルキさんは一口かじってなるほど、と呟いている。あのもっちりフルーツゼリーみたいなお菓子、苦手だって言ってたもんね。


「確かに食感はアレだが、味はすごく美味いな」

「ありがとうございます!」


 基本は細長くスライスして調味料に漬け込み、燻製にする。今回はあの羊の尻肉を焼いた脂と食堂のスパイスを真似したもので漬け込んでいるし、燻製チップは【アッシャーラ】で手に入れたあの着火剤を混ぜているので本当に一回限りの特別なやつだ。肉の脂とスパイス、燻製の独特な薫りも相まって肉をかじっている気持ちマシマシという感じ。うーん、スパイスの配合はまだまだだけど、もっと研究して食堂に負けないものを作りたいなぁ。

 ということを説明していたら、ティルキさんが少し呆れたような表情をした。


「あのなお嬢ちゃん、そんなに詳しく作り方説明したら、俺が勝手に作って売っちまうぞ」

「? はい、別に構いませんが」

「構わないのかよ……」

「世の中に美味しいものが増えるのは大歓迎です!」


 私自身はレシピの秘匿にこだわりがない。そりゃ食堂オリジナルのものはだんなさんのものだからもちろん公開はしないけれども。美味しいものを皆が作るようになれば、そのうちもっと美味しいものが出来上がる可能性がある。そのほうがとてもとても嬉しいしね。


「……お嬢さんはいつもあんな感じで?」

「そうですねぇ、昔から利発な方では合ったんですが、主に食べ物関係に、ですね」

「アイリーンは特別食いしん坊なので、美味しいものや組み合わせを見つけるのは天才でしたね」


 ちょっと失礼なお兄ちゃんの言葉に、確かに特に良いデーツを見分けるのも上手だったなぁとお父さんが同意する。収穫されたデーツの選別は私のほうがお兄ちゃんたちより早く合格をもらったもんね!


「まあそうだな、俺はそういうことはしないが……例えば、お嬢ちゃんの考えたものだーと言って敢えて酷いものを売り出すとか、そういう輩もいることは覚えておくといい」


 そうか……今まで周りが優しい人達ばかりだったけど、そういう可能性もあるんだ。

 ティルキさんの忠告に神妙に頷いた。美味しいものが増えるのは嬉しいけれど、食堂への嫌がらせとか、それは確かにとても困るからな。

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