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16 久々の実家と羊肉炒め

16 久々の実家と羊肉炒め



 保養所の簡易宿から出たのは陽も登る頃で、危うく寝坊をするところだった。『テルメ』が気持ち良すぎたからだな。今日はもう船は無理かなと思ったけれど、運良くまだチケットがあったのでホッとした。

 オールこぎの太鼓の音と掛け声、それと船の揺れが眠気を誘う。乗客はどちらかというと両親世代や年配の人が多くて、やっぱり保養地帰りだからかな。男女比もあまり変わらずに、思ったよりも安心して過ごせそうだ。

 船に食堂などはないけれど、寝る場所と食事をする場所は分けられている。海の上だし基本は携帯食で、他の乗客のおばさまにお茶を分けてもらったり、行商人から干し魚を買ってみたりなかなかに充実した船旅だった。


 エルマナに戻るとすぐに、実家に寄ると手紙を出しておく。ここからは南東へ数日、旅人小屋はないので簡易野営地を経由していくのだ。うちにいちばん近い村、キラビルが見えたらあともう少しだ。通り抜ける途中で皆がおかえりと声をかけてくれる。


「おや、アイリーンちゃん久しぶり! 帰省かい?」

「おばちゃん久しぶり!」

「王都はどう?」

「美味しいものいっぱいで楽しいよ」


 アイリーンちゃんらしいね、と肉屋のおばちゃんは笑った。私が食いしん坊だと知らない人はこの村にはいない。たぶん。


「昨日お母さん買い物に来たけど、なんだか忙しいって言ってたよ。

 帰ってきてちょうど良かったじゃない」

「そうなの? ありがとう!」


 何か大きな注文でも入ったかな。収穫も終わりに近づいているだろうけど、手が足りてないのかもしれない。

 実家の農園までたどり着くと、デーツ畑の方へ向かう。


「ただいまー!!」

「おお、おかえり、アイリーン」

「お前も収穫手伝えー!」

「準備したらすぐ行く!」


 お父さんとお兄ちゃんはやっぱり収穫作業中。お母さん達は選り分けかな? 話通り忙しそうな雰囲気だ。旅装を解いて身綺麗にしてから収穫に加わった。


「アイリーンおかえり〜!」

「ただいま、マーヤ!」


 マーヤはお兄ちゃんのお嫁さんで、私も幼馴染みだ。彼女も収穫しつつ、デーツをどんどん選り分け小屋に運んでいく。木に登って雨避けを外しつつ、ひとつひとつ状態を見ながら、丁寧に。


「そろそろ選り分けの方もお願〜い」

「わかった!」

「アイリーンが今日つくかなと思って、お義母さんが羊の尻肉を買ってたよ」

「うわっ嬉しい!やった!!」


 肉屋のおばちゃんが言ってたのはこれかぁ。今日の夜ご飯が楽しみだ。


「ただいま!」

「おかえり、アイリーン」

「よく帰ってきたな」

「あとで王都の話を聞かせてね」


 選り分け小屋ではお母さんにおじいちゃんとおばあちゃんも居た。数年前はおじいちゃんも収穫していたけれど、高いところに登るから最近は控えめなのだ。

 デーツを作業机の上に広げて、大きさや乾燥の状態を見ながら等級に分けていく。小さな頃から手伝っているので私もマーヤもお手の物だ。黙々と集中して、陽が落ちるころまで選別作業を進めた。



 このあたりの羊はお尻のところがたぷたぷしていて、そこにいっぱい栄養が詰まっている。らくだのコブみたいなもの、という感じだろうか。それを炒めて染み出した脂の中にじゃがいもと豆、香草などを入れて塩とスパイスを少々。今日のご飯はお母さんがよく作ってくれる羊肉の炒めものだ。いただきます!

 久しぶりに食べたけど、味付けがシンプルですごくいいなぁ。結構クセのある脂なんだけど、香草がうまく中和してくれている。カリカリになった豆と肉がサクサクして楽しい。


「えっ取引先ってサラコールなの? 本当に?!」

「俺も最初は騙されてるのかと思ったよ」


 お父さんの言葉に他の家族も頷いている。うちは王都にも卸しているのでサラコール商会の名前はもちろん知っているけれど、雲の上すぎて関わることはなかった。衝撃的すぎてせっかくの美味しい肉をあまり噛まないで飲み込んでしまった。悔しい。


「注文書を持ってきた人の仕草がね、そう、綺麗だったわ〜」

「ちょっと胡散臭い感じだったけどな」


 マーヤが少しポッとするように頬を押さえるからにはその人は見た目もよろしいのかもしれない。それにしても、いきなり注文書かぁ。ちょっと強引だし、商談というわけでもない雰囲気だ。


「できればと言われたけど、まあ、貴族様からの注文らしいから断れないわよねぇ」


 お貴族案件。あれ、もしかして……


「心当たりがありそうだな、アイリーン」


 うん、ある。あるね。タイミングからして、ルルちゃんたちかな? ルルちゃんは特に気に入ってくれてたもんな。サラコールなら貴族御用達だから、買い付けを頼んだのかもしれない。

 旅の道中であったことを皆に話すと、お兄ちゃんは少し呆れたような、疲れたような顔をした。


「お前、その人たちが寛大でよかったけど……」

「アイリーンは宣伝を本当にいっぱい頑張ってくれたのねぇ」


 私たちも頑張らなくてはね、とお母さんが笑った。幸い今年のデーツはいつもより多い収穫になるらしい。追加注文分も問題ないようで良かった。


「そういえばほらこれ、後で食べよう!」

「うわ〜なにこれ、花の形?」

「もらったお菓子! 砂糖いっぱいで美味しいよ」


 前にもらったゼリーみたいなもっちり菓子。せっかくだから持って帰って皆で食べようと思って我慢してたのだ。とても目をキラキラさせていたのでマーヤに一番に選んでもらおう。

 来週商会の迎えの馬車が来るから、それにお父さんも乗って王都まで納品しに行くらしい。私も便乗させてもらうことにして、それまで収穫を手伝うことにした。

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