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閑話 身辺調査

閑話 身辺調査



 招待用『テルメ』の前で彼女を出迎えると、思った通り目を丸くして驚いた。『テルメ』は湯浴みのための施設だから、流石に男の俺がずっと張り付いているわけにはいかない。彼女を担当するエラも他の人員も十分に鍛えられているので、万が一何かが起きても対処はできるだろう。

 彼女が浴室へ移動した頃合いで身につけていた服もこちらへ移動させた。


「ではメリアム様、こちらを」

「アイリーンさんは大丈夫だと思うけどなぁ」

「それを証明するためにもお願いいたします」


 そもそも関わることになった発端はメリアム様のいつもの軽率な行動がもとだ。ぶちぶち言いながらも、並べられた服や荷物をひとつひとつ確認していく。

 メリアム様が懐くくらいだ、彼女は少なくとも悪人というわけではないと思っている。穿った見方をしなければ、食べるのが好きなだけの善良な人物だろう。もしもあのぽやぽやとした感じが総て演技だというならたいしたタマだが、意図せず利用されているということも有り得るのだ。

 ふと、メリアム様が考え込むように動きを止めた。


「何かございましたか」

「山の花畑に行ったみたい。

 特別気になるという程ではないけれど……」

「念の為サラコールにも通達しておきます」

「そうね」


 あの場所にはジェミル様とメリアム様が数日中に訪問する予定がある。陛下が妃殿下の為に整えさせた東屋が在るが、観光地としては大々的に知られていない。港の者にでも聞いたのだろうか。彼女は件の東屋で野営して、保養所、『テルメ』と移動している。道中も一人で、特に誰かと接触するでもないようだ。



 彼女を送る馬車が見えなくなってからエラの報告を受けた。『テルメ』利用中に不審な行動は特になく、武器を扱う者のような筋肉のつき方はしていないし、身体に大きな傷跡も無し。気になるのは、「やはり大きな風呂はいい」とこぼしていたらしいこと。気休め程度の効果ではあるが気分のほぐれるお茶も飲んでいたことだし、嘘ということはないだろう。彼女の出自で大きな風呂など入ったことが無いのではなかろうか?

 船での彼女も特に不審ではなかったが、農家生まれ下町食堂の給仕にしては言葉遣いも所作も整いすぎていると感じる部分があった。返答のよどみなさや、わからないことがあった場合の対処。ジェミル様やメリアム様が貴族であると察した後でも極端に萎縮せずにいる豪胆さ。性格といえばそれまでだが、師匠を前にした反応も気になるところがあった。

 彼女が実家だと言った農家には、確かに「アイリーン」という娘がいたということはわかっている。本当に彼女がそうなのかはこれからしっかり探ろう。

 総てが偶然で、杞憂ならそれでいいのだ。二人の安全の為にも気になるところは潰しておかねばならない。それが俺の仕事なのだから。

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