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11 異国の料理と懐かしい味

11 異国の料理と懐かしい味 


 デーツをかじって興奮を抑えたけれど、これからの夕食を思い出して冷静になった。いけないいけない、お腹を空かせておかなきゃね。

 船って雑魚寝じゃなければ精々ハンモックとか泊まったことはないけれどカプセルホテルみたいな仕切り程度のイメージがあったから、普通にちゃんとしたベッドがあってびっくりだ。流石に窓はないけれど、お洒落なランプも置いてある。……なんだか、王都の食堂のお部屋にあったものとデザインが似ている気がする。貴族の船にあるようなものだ、やっぱりあれはフィルーゼのものだったのかな。

 書き物机には紙とペンも用意されていた。羽根ペン……握ったら壊れてしまわないかと思ったけど、羽根は装飾でペンの部分は金属が使われているみたいだ。薄茶色に濃いシマシマ。なんの鳥の羽根なんだろう? せっかくなので書き心地を試したいと思いつつ、使い終わったあとの処理とか手入れがわからないので触らないでおいた。

 クローゼットの中にはいくつかのシンプルな色違いワンピースと、あとはパジャマ用と思われる薄いガウン。ちょっとこれ、手触りが良すぎる……つるつるの生地に荒れた手が引っかかりそうな気がして思わず引っ込めた。ともかく、周りのものを汚さないためにも素直にこの中のものを着るのがいいだろう。

 旅の荷物も今のうちに点検しておこう。【アッシャーラ】についたら保養所周辺を拠点として目的地を目指すつもりだ。かつて王城があった場所は観光客が気軽に行けるような場所じゃないのが残念だ。行きたい場所は日帰りの無理な山の上なので、船が着いたらしっかり準備を整えて臨まなきゃ。


 お待ちかねのご飯の時間、ベルカンさんが呼びに来てくれて一階上のダイニングへ向かった。綺麗なクロスで整えられたテーブルに花も飾ってある。ベルカンさんが引いてくれた椅子におたおたしながら座った。うう、この扱いは慣れないなぁ。

 カトラリーがたくさん並んでる……ということは、コース料理みたいな感じなんだろうか。前世も含めちゃんとしたマナーが必要になるような場面に行ったことがないと思うので正直不安だ。


「今日は【ロウ=ファレン】風だそうだ」


 【ロウ=ファレン】! 本編でもさらりとしか描かれていないけれど、異世界ファンタジーにあるあるな中華風の国。私の中で料理への期待が更に高まった。


「食べ方とかは気にしないで、楽しんでね」

「ありがとうございます……!」


 ルルちゃんから大変有り難いお言葉ももらったので、せめて見た目がきたなくならないように注意しよう。いただきます!


 運ばれてきたのはまずはサラダかな? 葉物とセロリのピクルスみたい。ちょっと漬物っぽさがあって、ピリ辛なところが美味しい。

 次は胡麻の香ばしい匂いが食欲をそそるスープ。人参とふわふわの卵が入っていて、私の中でこれぞ中華!!というイメージの味だった。


「次は肉と魚、どちらか選べるがどうする?」


 スープに感動していると、ジャンくんからの質問にスプーンが止まる。肉と魚……どちらかといえば肉の方が好きだけど、ここは海の街なのだ。魚も美味しいに決まってる。


「せっかくだから両方少しずつにしたらどうかしら」

「いいんですか?! お願いします!!」


 思わず食い気味に答えてしまって笑われたけれど、とっても嬉しい。ありがとうルルちゃん!!

 お肉料理はミートボール。中に小さな卵が包まれていて、甘辛なソースがよく合っている。

 お魚は千切りのネギがたっぷり乗った蒸し魚で、身が白くてふっくらふわふわでとろけそうだ。

 青菜の炒めものにはカシューナッツが入っていてコリコリした食感が面白い。

 その次に運ばれてきたものを見て、思わずもれそうになった歓喜の声を抑える。大きな葉を皿のように敷いてある、薄茶色でつぶつぶが見える三角の形。どう見てもちまきみたいな雰囲気だ。鶏肉と人参、きのこに筍も入っている優しい味。期待した通り食感ももっちりで、おこわと言ってよろしいのでは?

 デザートは、点心といった感じで小さな花形の小豆餡が入ったおまんじゅうとぶどうのようなさっぱり味のゼリー。最後までしっかり堪能させていただいた。

 大満足のお料理のあとに運ばれてきたお茶も【ロウ=ファレン】のものらしく、少し独特な薬草系の香りがする。


「アイリーンさん、美味しそうに食べるから見ていてとても楽しかったわ!」

「【ロウ=ファレン】の料理、とても美味しかったし勉強になりました!

 私も作ってみたいです」

「料理も得意なのね。この前の麦粥も美味しかったもの」

「それは働いている食堂で分けてもらったスパイスの力が大きいかと……」


 謙遜しなくていいのに、とルルちゃんは言ってくれた。自分好みのものを食べるために色々と作ってはきたので、味はともかくそれなりに手際はいいと自負している。


「そういえば、食堂では家のデーツを使った甘いピタサンドも売っていますよ。

 これは自信作としてオススメできます!」

「ピタなのに甘いの? 食べてみたいわ!」

「今はお店がお休みですが、建国祭の頃にはまた開ける予定らしいので、機会があれば是非!」



 船に来る前湯浴みはしていたし、夜の入浴は断って部屋に戻った。船のお風呂は明日のお楽しみだ。

 この国の人に食べやすくアレンジされているのだろうけれど、やはりというか、記憶にある中華料理に近かったからなんだか懐かしい気持ちに満たされた。この世界には和食に近いご飯の地域もどこかにあるかな。あると嬉しいな。

 美味しいものがいっぱいで楽しかったけれど、ずっと緊張してちょっと疲れたな。ベッドに体を沈めるとふかふかで柔らかい。ちょっとだけ、と思ったのに気持ち良すぎてすぐに眠りに落ちていった。

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