表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/21

1 憧れの聖地と名物ステーキ

1 憧れの聖地と名物ステーキ



 あ、これ、エンディングのスチルじゃない?


 それに気が付いたのは、家族で訪れた王都の食堂の壁に飾られている絵を見たときだった。

 そこに描かれていたのは、十年前に行われた王様と王妃様の結婚式パレードの様子。視線を合わせた二人の幸せそうな表情が良くわかる構図だ。結婚式の絵自体は他のところでも見たことがあったけれど、そのときはもっと遠景からのもので、これとは違った。行方不明になっていた魔法の力を持つ亡国の生き残り王女と、この国唯一にして将来を期待された完璧な王子。二人の婚姻に、当時はひと月もお祭り騒ぎになったという話は有名だ。


「お待たせしました!」


 独特な香草の匂いに、思考に沈んでいた意識が浮上する。運ばれてきたのは、こんがり焼かれた大きな肉の塊! 確か羊の肉だと書いてあったはずだ。目の前で切り分けられた肉は肉汁が溢れ出てきて食欲がそそられる。フォークをとってさっそくいただきます!

 口に入れた瞬間から香ばしい香りが鼻に抜けていくのがたまらない。ジューシーで堅すぎず、でもしっかり肉!と主張してくる噛み応え。



「どうだい、ここの肉は美味しいだろ?」

「うん、すごく美味しい!

 飲み込むのがもったいないね!」


 そう答えると、向かいに座っているお父さんは可笑しそうに表情を崩した。意地汚い、と隣から呟きが聞こえたのでその脇腹を狙って肘を突きだすと、同じく肘が飛んでくるのでひょいと避ける。いつものことなのでお互い避けるのは慣れたものだ。


「こらあなたたち、喧嘩しない!」

「はーい」

「はあい」


 たしなめるお母さんに、お兄ちゃんも私も生返事をする。普段ならもう少しごちゃごちゃ続くところだけど、今は肉に夢中なので喧嘩も即終了だ。

 やっぱり肉って最高だ。こんなに美味しいものを食べたのは生まれて初めてだ。……今回の人生では。

 うん、そうだよね。ここではない世界の記憶。これはつまり、前世でいう異世界転生ってやつなんだろうか。しかも、今世の世界に心当たりがある。乙女ゲーム『デザートジュエル〜王女はターコイズの夢を見る〜』だ。


 『デザートジュエル〜王女はターコイズの夢を見る〜』は、恋愛がストーリーの中心となる女性向けシミュレーションゲームで、砂漠のある乾燥した大地が多い大国【トルクゥア】が舞台になっている。

 ヒロインのフィルーゼは滅びた島国【アッシャーラ】の王族最後の生き残りで、滅亡の混乱で持ち去られてしまった国宝の腕輪を探していた。大国トルクゥアにあるらしいという情報を掴んだ彼女は、昼は王都の食堂で正体を隠して働きながら、夜は情報提供者への見返りとして義賊活動に協力しつつ、腕輪の行方を追うことになる。

 ヒロインが拠点にしていたその食堂が、恐らくここだ。ゲームの背景でそこのカウンター席を含めた眺めを見たことがあるし、各ルートエンディングスチルとなっている絵は素性の知れない彼女を雇い優しく迎えてくれたお礼としてその食堂に贈られたもので、これが飾られているのはつまりそういうことだ。いや、ゲームと同じとは限らないかもしれないけれど、今までの人生で手に入れたこの国の情報からしても、たぶんデザジュエの世界にとても似ているというのは間違いない。


「アイリーン、食べないならもらうぞ」

「だめ!それは最後にとっておいたの!」


 伸びてきたお兄ちゃんの手を避けつつフォークで応戦……


「──二人とも」


 するのはやめておく。今日は家では無いのだから、お母さんを怒らせたら後で普段の比じゃないお説教を食らいそう。


 こんな美味しいお肉を食べられるチャンスはなかなかない。せっかくのお肉をしっかり味わいたいし、今は食べるのが優先! 難しいことは後で考えることにしよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ