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春色と魔法使い  作者: malico lee
5/5

5・誰かのおもいで

僕らはまたいつもの日常に何事もなかったように戻った。

帰ってくるまでと何も変わらなくて、同じ時間に起きて、同じように眠った。


モモはここに住むときに、僕が寂しくなくなるまでそばにいると言っていた。

そのときっていつなんだろう。

僕にもフロルのように何かがあって突然に満たされる日が来るのだろうか。

何もかもから解放されて、希望に満たされる日なんてあるんだろうか。


そんな淡い期待を抱きながら、絶対にありえないと自分を否定してから、でもどこかで誰かに選ばれるのを待っている自分がいてその自意識過剰な自分を恥ずかしいとも思ってる。


僕は僕を恥じる。すぐに自分がダメな人間で、この世に害しかなさないモノなのだと忘れてしまう。


誰かの希望を見て、次は自分の番だとか、モモたちがずっとこのままいてくれるかもしれないとか浮かれて飛んでいきそうになる自分の足をグッと捕まえて、地面に叩きつけないといけない。


僕はどうしたってイラナイモノで、周りの人が評価してくれてるのだって、僕が気の毒だからだ。みんなとてつもなく、優しい人たちで感謝しかない。

でも、それって周りのみんなを信じていないってことになってしまうんだろうか。


そう思うとそれもまた罪悪感があって申し訳なくなる。


ヨイさんに言われた言葉を信じたいのに、怖い。


何をしてもやはり僕は僕のままなのだ。


だから、人に期待なんかしてはいけない。

いつかなくなる幸せにすがってはいけない。



でも、だから今のモモたちとの時間をここ最近の時間をしっかりと記憶に残したい。

これを一生の宝物にする。


でも、そうしたら一生悲しい気持ちになるのだろうか。

そうなったら、また大きな流れに戻ればいい。

そうしたら真ん中になって、穏やかに過ごせる。

きっと、そう。


だから、今はモモとドレに呼ばれて、笑顔で向かってしまう自分を受け入れよう。


いつもと変わらない昼に、いつもと変わらない庭で、モモはガラクタの国で手に入れた日記を開いていた。


「ベイビー。この日記ね、すごい温かい感じがしてオレンジ色でふわっとしてるんだよ。一度読んでもらってもいい?」


「それはよかったね。そうしたら今読んだ本が終わったら読むから借りていい?」


「ベイビーに貸したら、わたしが読めなくなっちゃうから、今読んで欲しいの。」


「うん、そうしたら今から読むよ。」

モモに差し出された本を受け取っていつもの通り向かいの席に座ると、モモが椅子ごと僕の隣に移動してきた。

「さ、読んで。楽しみ。」

モモは僕が開いた日記を覗き込んで、ワクワクしたように待っている。

何を待っているんだ?

僕がこの日記を読んでどう思うのかどんな反応するのかを待っているんだろうか?

そう思うとどこか緊張した。

じっと見られたまま読み始めていく。


1日目はとても興奮して綴られていた。

彼女の強い想いが筆跡にも言葉の端々にも感じる。

彼女はとうとう運命の人に出会ったという書き出しだった。

日記の『私』はいつかわかる日が来ると姉たちから言われていた運命の人との出会いがやってきたことに喜び、期待に満ち溢れ、その人への愛と戸惑いをつづっていた。

5日目にはもう主語が『私たち』に変わっていった。

そう、彼らはお互いに運命の人だったと感じていてすぐに惹かれあったのだ。

自然と出会って、自然と時間を共にする喜びを感じる。


「ねぇ、ベイビー。まだ読みはじめないの?」


「ん?もう読んでるよ。」


「え?読んでないよ!わたし聞こえてない。」


「声に出して読んではいないから。」


「読んでって言ってるのに、なんで1人で読んじゃうの。一緒に読みたいのに。」

モモは突然日記を読む僕に声をかけて、僕の横でむくれはじめていた。

一緒に読んでいる。彼女は僕の横で本を覗き込んでいるのだから。ページを捲るのが早すぎたのだろうか。

「違うわ、ベイビー。声に出して読んでくれなかったら、わたしはいつまで経ってもこの日記が読めないの。」

「モモはもうこの日記を読んだんだろ?感想を言って僕にすすめていたじゃない。」

もう意味がわからない。あったかくてって言ったのは一体なんのことだったのだろう。

本の感想を述べていた彼女はなんだったんだろうか。

「日記は見たけど、そもそもわたし文字が読めないから読めるわけないじゃない。」


「文字が読めない?」


「文字が読めないの。というよりも文字が読ませてくれないの。いつもカラフルで勝手に動いて個性的な子達ばかりでね。今回の日記も暖かくてオレンジ色なんだけど、内容はわからないから、ベイビーにいつもみたいに読んでもらおうと思って。」


モモは当たり前な顔で、当たり前のことを言っているんだと思う。

でも、僕は違う。

モモが文字が読めないなんてずっと気がつかなかった。

いつもみたいにって言われれば、たしかにモモが本を読んでいるのを見たことなんてない。

薬草だって、魔法書だって、彼女は常に僕の横で一緒に読もうと言って、僕が読むのを聞いていた。


本を貸すと言ったときも、断られてショックだったけれど、読めないのだと言われれば納得がいく言葉だった。


彼女が本を読むときは必ず横に僕がいたんだ。


彼女は文字が読めないことに僕は数ヶ月一緒にいたけど、一切気が付かなかった。こんなにも本で溢れた家で。


やはり彼女のことをまだ何も知らないのだと少し、たぶん少しだけ悲しくなった。

そして、同時にふわっと暖かくなった。


なぜ。


僕がショックを受けているのに気がついたのか、ドレがやってきて僕をさする。

『モモがベイビーにちゃんと言わないからベイビーが落ち込んじゃったじゃない。』


「改めて言うことでもないし、特に困ることもないからなぁ。でも、なんかそれで落ち込んでしまったのならごめんなさい。」

少し考えてから少しシュンとしてモモは僕に謝る?

「あ、謝らないで。なんか僕の方こそ気がつかなくてごめんね。今度から一緒に読もう。この日記も他の本も。ドレも慰めてくれてありがとう。」


ドレの頭を撫でながらふとやっと僕もモモの役に立てるのかと思った。

あぁ、2人が僕の家にきてから初めて僕がモモ達にできることができたのだ。


さぁ早く読んでというモモにせかされながら僕はこの日記を読み始める。

いつもと同じなのに、この読み聞かせは僕にとってとても特別なものになった。


モモのために、本を読み上げていく。


今までもしてた。

でも、意味合いが違う。

僕が誰かの役に立っているのだ。ただ本を読み上げているだけで彼女のためになっているのだ。ただそれだけでこんなにも嬉しいものなのか。

今までにない高揚感が僕を包んで僕はその温度に幸せを感じた。



惹かれあった2人。

それはあまりに自然で唐突で絶対的だった。

彼らは今まで一緒にいたかのようで、なぜ今まで一緒にいなかったのか不思議でならないくらいに自然だった。


彼女がいつも通る森が、その季節には咲かない花を咲かしていた。

不思議な気持ちになって、その花が咲く道を追いかけて森に入っていく。

大きく開けた花畑。まだ季節は秋の終わり。

この白い花は咲くわけがないのにそこは花が咲き乱れている。

「?え?なんで?まだ時期じゃないのに。」

不思議に思って地面に触れると暖かい。そう、たぶんこの温度は雪が溶けたあとの柔らかい温度。

そう、これは秋でも冬でもない。

「この地面、春の温度と匂いがする。」

下を向いている彼女の視界に突然、影が現れて、驚いて顔をあげる。

 そこからは時が止まったのかと思った。

目が離せない、陽に透けた綺麗な橙の髪の毛が揺れて真っ直ぐな目がわたしを見つめる。

「きれい……春の色だ……」

思わず口について出た言葉が自分の耳に入ってきてハッとして口を覆う。

「ふふ、ありがとう。ここは今は春なんだよ。よくわかったね。君はどこからきたの?」

「春?どういうこと?でも、春なの。不思議。わたしはこの森をでたところにある家に住んでるんだ。いつもここを通って出かけるの。」

「君の家族はみんなここを通るの?」

「んーん、わたしだけ。森を通るのは遠回りなんだけど、わたしはこの森が好きだから。」

彼はそれを聞いてにっこりと笑った。

「この森いいよね。すごく心地いい。昔からずっと守ってる子たちがいっぱいいるから、みんな伸び伸びと暮らせてる。」

「守ってくれる子…ねぇ、あっちの奥にある木のこと言ってる?」

彼は驚いたようにこちらを見つめる。

「あっちの奥の木?」

「この道を少し外れて奥の方にいくとね。木があってその近くには泉があって緑深くが茂ってるところがあるの。」

「君はそこのことを誰かに話してる?」

「話してないわ。わたしの特別な場所だからね。何かあると必ずあそこに行って気が済むまで歌を歌って過ごすの。家ではあまりそういうことはしてはいけないから。」

彼は彼女の話を聞いて、笑いだす。何がそんなに面白いんだろうか。

「君があの子たちが言っていた女の子だったんだね。いつも歌を歌ってくれる楽しい女の子。がくるんだよって。教えてもらったんだ。よかったら僕にも歌って?」


あの日から彼らは毎日会うのが当たり前になった。

彼女の学校帰りにはいつもの木の下で2人は自然とあっていろんな話をした。

彼女は学校や家で何を習っているのか、彼はどんな世界を見てきたのかについて、次から次へとた話題は溢れてきて、2人はお互いが話すことや聞くことに夢中になった。

ときには熱く、笑って、手に汗を握り、ときには論理的な議論をしたりして。

と言っても、いつもそのわたしの表情にたくさんの質問を彼がしてくるからなんだけど。

彼はわたしが興奮して話すたびに楽しそうに不思議そうにたくさん質問をした。


戯れるように言葉を交わすのは心地がいいリズムをうんで、その時間が続いていくことを疑う余地などなかった。


木々たちも彼らを歓迎してくれて、日差しが強い日や雨の日は葉で彼らを守ってくれて、少し寒い春の日には暖かく包んでくれた。


「ねぇ、あなたはずっとここにいるの?」

彼女がふと聞いた。

「んー、どうかな。ぼくらは何年か経つと土地を変えるようにしてるんだよ。ずっと春を続けてしまうのはその土地に良くないからね。」


彼女はそれを聞いてピタッと動きを止めた。

多分わかっている答えだった。

でも何も言えなかった。

ただ彼が立ち去ってこの春の時間が終わると想像したら、息が止まって、ようやく吸い込む瞬間にただ涙がボロボロと落ちていった。


泣いてる彼女を彼は優しく微笑みながらただ見つめていた。

木々たちは彼女の涙がボロボロとこぼれ落ちるのをただ見つめる彼と、涙の止め方がわからなくなった彼女の頭を撫でて、葉を擦り合わせて音を奏でた。


「君はぼくと一緒にいたいの?ずっと?」

彼がした質問に彼女はコクリとうなづいた。泣きすぎて声は出ない。

声を出さずに涙だけ流してるだけで声が枯れ果てた。

「そっか、そっか。」

彼はおもしろいものでも見つけたように、彼女の前髪をサラッと触れた。

「そっかそっか。そっかー。」

彼はうなづきながら笑って言った。

「そうか。やっぱりそうなのか。んー、そうしたら7日後にまたいつもみたいにここで会えるかな?」

彼女はなんのことかわからないが、うなづいた。

そのあとも毎日いつもの場所に行ったけど、彼は現れなかった。


7日後と言った。

1日経つごとに、あれは本当に現実だったのか不安になってきた。


彼がいうことは純粋でそれは真実でしかない。嘘をつくような人間でもない。


それでも今までのことが逆に夢だったんじゃないかと思わせる。


もう何日か経つと、彼の空気や匂いが思い出せなくて、それに慣れそうな自分が怖くなる。


いつも行っていた場所はいつもと違うし、木々はわたしだけでは迎えてくれないように感じて近くまで行って引き返した。


珍しく7日間あの場所に行かずに、ただ家にいた。


時間があると考えてしまうからただただ、部屋になる本を引っ張り出して読み込んだ。


本を読んで、その世界に没頭する。

なぜなのか、どう人々が感じたのかを考えると私の自身のことなんて考えている暇なんてない。


ただ本が私の頭の中を占領して、それをもとにわたしはもっともっと奥深くまで思いを巡らせていくとフワッと心が浮かび上がって不安や怖さがなくなる。



7日間を過ごした。


彼は一体どんな匂いがしていたのか、わたしは彼のことをみて彼だとわかるだろうか。


彼はわたしをみてわたしだとわかるだろうか。

もしかしたら7日間でもう忘れてしまっているかも知れない。


そもそも約束なんてしていない。

どこで会うかなんてわからない。

けれども、きっとあの木の下で会う。


それは決まってる。

きっと?いや、絶対だ。


足を一歩出すごとに感じていく違和感。

起きてすぐだからだけじゃない。


さっきまで感じた絶対が揺らいできて、心がザワザワとする。

ゆっくりだったリズムが崩れて一歩また一歩と早くなっていく。


いつもの木々のある場所。


そこはいつもとは違う。

いや、いつもと変わらない。


彼に会う前にあった世界がそこにはあった。

葉が落ちて木だけになって冬の支度をしている。

水は冷たくなって空気はピンと張って、色がはっきりと濃いコントラストが広がる。


春じゃない。

春がない。

もう春がいなくなった。


柔らかくて、温かなあの春がもうなくなった。






「ベイビー?大丈夫?」

モモが僕の顔を覗き込んでくる。

「あ、別に大丈夫。なんで?」

モモは僕の顔を見てから、頭を撫でる。

「ベイビー不安になってきてるでしょ?でも、大丈夫。この日記はとても温かいから心配にならなくて大丈夫。」

読んでいたページに人差し指を差し込んで閉じる。

一度大きく息を吸い込む。


彼女に読む本が少し寂しくなったから?

この中の2人が春が消えることを怖く感じたから?


気にしなくていい、今はモモとドレに彼女たちに伝わるように書いてある言葉を読めればいい。


そう思うと自分の価値や必要性の輪郭がはっきりとしてまた温かい気持ちになった。


さぁ、2人がどうなったのか読み進めよう。


春はない。

でも、この場所がある。

でも、違う。でも、元に戻った。

いや、戻ってない。

塗り替えられた記憶で、この木が悲しくて。

この間まであった暖かさが感じられない。


前みたいに歌を歌えばこの気が晴れるかと思って息を吸い込みながら口を少し開いたけど、鼻の奥から目の奥に空気がヒュッと入ったから、くちびるをキュッと閉じた。


なくなったんだと全身で感じると、耐えられなくなる。


目を閉じて鼻から大きく息を吸い込む。

次に自分の頭を左手で撫でて、両腕で自分を抱くように撫でる。

撫でた場所が暖かくなる。


人間は分解していくと原子なんだって。

だから擦り合わせると電気ができてあったかくなるだと家にある本に書いてあった。


不安定になったら、3回深く呼吸をしてみれば脳に信号が届いて気持ちを落ち着けてくれるんだって。



でも、どれもこれも今のわたしには効かなくて何回深呼吸しても、何回撫でても止まらない。


落ち着かせようとするその行為がまた実感させてくる。

いないのだと言うことを色濃くしていく。

もう帰ろうと思ってゆっくり周りを伺うように目を開いた。


何にもない。


もしかしたらってどこかで思う自分を置いていく。

家に帰ろう。

泣いたらすべてを受け入れたことになる気がするから好きな歌を何回も頭の中で繰り返し歌う。


森に向かうときよりも、もっと遅いペースで家に帰る。

もしかしたら後ろから追いかけてくるかもしれないと思って、ゆっくり歩いては止まって、時々思いっきり振り返った。


家に着いた瞬間に、自分の部屋にかけて行って床の上にうつ伏せに寝転んだ。


なにも発せず、ただ床に顔を伏せて唇を噛み締めた。


少し立って上を向いて天井の模様見つめながら、ようやくポツリとつぶやいた。


「7日後に会おうっていったのに。」


そのまま寝転んで、今日はこのまま学校にも行かずに家にいたい。

そんなこと許されないとわかってるから黙って食事を取って、いつも通りに家をでた。


きっと家族の誰も気づいていない。

わたしがいつもと違って朝からこんなにクシャクシャな気持ちになってるなんてことに。

静かに食事をして、挨拶をして出るだけの朝。


学校に行っても授業は何一つ頭に入ってこない。食事はただ口を動かしているだけで何を食べた感じもない。


あの人がいなくなるというただそれだけのことでわたしの世界はこうも一変してしまうほどの衝撃だったんだとふとした瞬間にまるで自分のことなのに自分のことではないかのように感じて笑ってしまう。


悲しいや寂しいの向こう側にまでわたしはこの半日で到達してしまったのだ。


このままその向こう側すら越えて、消えてしまえばいいのに。


帰る時間になると自然といつもの森を抜けるルートを歩いてた。


家にまっすぐ帰ることもできる。でも、消えることの出来なったわたしはまた朝と同じ場所に向かう。


あきらめの悪さなのか、未練なのか、執着なのか、愛と言っていいのかわからない。


一度くしゃくしゃになった気持ちをもう一度開いてから捨てたって同じなんだからもう一度行く。



「あー、きたきた。おつかれさま。

今日はどうだった?」


あの春色は当たり前の顔をして

わたしの前に現れた。


「え?なに?どうしたの?何で怒ってるの?」

「なんでもない。」

「え?なに?どうして泣いてるの?」

「なんでもない。」

「え?笑ってる?」

「なんでもない。」


この春色はわたしの前に

当たり前に現れて、

なんでもないわたしの顔を見て

オロオロしてる。


それだけでわたしは

朝から心の中にゴロゴロと

いついていた寂しい気持ちが流れていった。


そのあとは彼はごく自然に

わたしの家にやってきて

一緒に住むことになった。


厳しい母からは特に何もなく、彼に聞けば

「まぁ、まあそういうものだからね」

とだけ言われた。


わたしは彼が家に住むこと以上に

気になっていたことがある。


「あの森、

 春ではなくなっていたでしょ?」


「あー、とても簡単な話だよ。

僕の家族がまたどこかへ移動したからね。

僕はそれを手伝うのに7日間いなかったんだ。そのあとに君と一緒にいるのが楽しそうだから、ここに住むことにしたんだよ。」


「あなたの家族が移動すると春ではなくなる?」


「ここには四季があるから

 また冬の後にくるよ。

 でも、あの森にあの時春があったのは

 僕の家族が間借りしてる

 少しだけだったんだよ。」


「あなたの家族がいると春になるの?」


「ああ。

 ぼくたちは春の中でだけ生活してるからね。  僕は一度あの中から離れてしまったけど、

またどこかでふと会えると思うよ。」


「え?会いたい時に

 すぐに会えるんじゃないの?」


「絶えず移動しているからね。

 まぁ、会う必要があるときには

 自然と会えるから大丈夫だよ。

 繋がっているから。」


彼はそう笑いながら、

わたしの家でふつうにお茶を飲んでる。


わたしと彼はこのままずっと一緒にいるんだってよくわからないけど、わかってまた涙が出た。


「ベイビー、この2人はこのあとどうなったの?」

本を閉じた僕を急かすようにモモが聞いてくる。

「どうなったんだったんだろう。この日記に書いてあるのはこのページまでだから。」

「ふーん。そっか。でもあったかい気持ちのままだからきっと2人は今も仲良しだと思うな。」


モモはきっと2人はこのあとも仲良しだと言う。僕もそうだと感じてる。


でも、この日記に書いてあったのは数ページだけでこれ以上はわからない。


でも、この日記は少し仕掛けがある感じがする。

そんな感覚がある。


だからぼくらはいつも通り、庭でお茶を続けた。



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